11 目的
★★★
一方その頃の学校は。
蓮雄とヘルと龍架を心配して――いるはずがない。心配、それはヘルに向けたものだけだ。まぁヘルと言っても中身は蓮雄だから、蓮雄に向けたものと言っても――これ以上ごちゃごちゃ言うとわけわからなくなる。とりあえず、みんなが心配しているのはヘルだけだ。蓮雄の机の上には、もう死んだかのように花が刺さった花瓶が置いてある。ちょ扱いおかしくない!?
ただ、そんな蓮雄を心配する子もいた。
――
なぜかは本人にしかわからない。ちっとも関わりのない……と言えば嘘になるのだが、あまり関わってない魔李がなぜ蓮雄の心配をするのだろうか。いつも集中して先生の授業を聞く魔李も、蓮雄が休んだ時はなぜかずっと蓮雄の机の方を向いている。それを黙って見逃している男子達ではない。春義丘高等学校のマドンナ2人のうちの1人が、そこらへんに落ちているゴミごときを心配しているのだ。マジざけんなよ!
男子達はかまって欲しいのか、わざと怪我をしたり、わざと休んだりして、魔李に興味を持たせるように仕向けているが、すべて失敗に追い込まれている。ちょいちょい心配はするものの、雑い。酷い時には無視してくる。とはいえ、蓮雄も自分のクラスメートだ。さすがにこれ以上酷いことをするつもりはない――わけねーだろ!
今や蓮雄の机やロッカーや下駄箱は悲惨なことになっている。蓮雄がこれを見たら、発狂しずにはいられないだろう。……キ★★イかよ……。
魔李はそれを見ていることしかできなかった。
なんだろうこの気持ち、とは魔李は思わなかった。昔から変わらないこの気持ち。忘れることのないこの気持ち。
魔李は授業中だというのに、眠気に耐えられずまぶたを閉じた。
★★★
――ここで何をしているの?
女王に声をかけられた少女はギクッ!となって振り返る。
少女は柱に隠れて何かを見ていたのだ。それを邪魔してやろうという意地悪な考え方をした女王は、話しかけたのである。
――い、いえ!その……決してストーカー行為をしていたわけでは……
誰もそんなことは聞いていないのに、と女王は薄く笑った。
――うう……すみませんでした……
天然ドジっ子の彼女は顔を赤くしてペコリと頭を下げた。
――私は別にそんなことをしてほしい、なんて言ってないのだけれど?
――い、いえ!わ、私がその……ストーカー行為をしていたので……その……
この少女はどれだけ「ストーカー行為」というのにこだわってしまうのだろうか。というか、ストーカーしてるの?この子。
女王はそっと少女の頭をなでた。少女の顔はさらに赤く染まった。
――いいえ。あなたは悪くはない……
――いや……その……
――あなたを引き込ませた『狼』がいけないんですよ
と、少女が先程まで見ていたところを見る。そこには、剣術を一生懸命練習する少年がいた。ただ、あまりにもバカバカしくて笑えてきそうだ。
――ひゃっ!……ち、ち、違いますよ!別にあいつを見ていたわけじゃ……!
――いやいや……さっきより顔が赤くなってますけど?
と、冗談で言ったつもりなのだが、
――うぅ……
と、顔を手で隠した。それがさらに笑えてきて、堪えられずに声がでて笑ってしまった。
――な、何がおかしいんですか……
――いえいえ別に……それよりもあの子を手に入れたいのなら、こんなコソコソしていてはなりませんよ
――え?
――好きな人と結ばれたいのであれば、コソコソしずに、自分から積極的にアプローチするはのが……大切ですよ
――……!
――まぁそれは男の子に言う言葉ですけどね。……好きな人の前では堂々としなければ、いつまで経っても相手はその気持ちには気づいてくれないでしょう……
女王はそう言ってニコリと笑って歩いていった。
残された少女は少年を見て、女王が言ったことを繰り返し小さな声で言った。
★★★
〈異賊暴〉第1使徒〈神炎〉船内。メーリスとレッカはそれぞれの準備を終え、集まっていた。
「ユーの方は大丈夫なのかしら?」
「えぇ問題なく……」
「ならいいのだけど」
メーリスとレッカはまた食事をしながら喋っていた。
「あぁそうそう……僕達の秘密兵器を使ってナン・ポレルートを捕獲したよ」
「へぇーあのナンをね……どうやったのかしら?」
「それは企業秘密……と言っておこうかな」
口に人差し指を当てて、よくお母さん達がやる「静かに!」というポーズをとる。
「まぁナン・ポレルートには、バグ・レオン殺しの手伝いをしてもらおうかと思って」
「そううまくいくとは思わないけど……調べなかったのかしら?バグ・レオンとナン・ポレルートは親友の間柄なのだけれど?」
「そう見たいだね……ただ、それをうまく活用するのさ」
「……よくわからないけど、ユー達に任せることにするわ」
「そう言って下さるとこちらとしてもやりやすい」
元々笑顔なレッカの顔が、さらに笑顔になった気がする。
「ところで、バグ・レオンの居場所はわかったのかな?」
レッカはゴクリとワインを1口飲むと、そうメーリスに聞いた。
「ホリスモ王国にいる……と突き止めたわ」
「あぁあのホモ王国ね」
と、当たり前のようにホモという言葉を発したので、メーリスは少し驚いてしまった。この人……まさかホモ!?という疑問は頭の中に浮かんだ瞬間、自分で打ち消した。
「あぁ前1度訪れたことがあってね」
どうやらレッカは勘違いをしてしまったようで、どうでもいい情報をよこしてきた。メーリスはそれを聞かなかったことにして、スルーする。
「それで今、ニルバナ王国女王ニューヘル・ゴルンとニルバナ王国の情報屋闢鬼ゼロとともに行動をしている」
「へぇ……あの女王がね……とりあえず、僕は目的を達さないといけないから」
「私も同じよ。私も目的を達さないといけないわ……まぁそれも、もう少しで達せようとしているのだけれど」
「そうだね……じゃ、すぐにそこへ向かおうか」
――2人は『同じ目的』の為に動き始めた。
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