9 捕食する『狼』
★★★
この住宅街でナンの目の前で剣を出現させてるのは、顔といい剣といいバグ・レオンその人だった。だが、雰囲気がまるで違うし、つい先程『バグ・レオンを殺す』とかほざいていたからバグ・レオンではない、そうナンは判断した。だからこうして銃口をレオンと名乗る男に向けている。
男が先に動いたとしても剣より銃の方が圧倒的に速い。それをわかっているのか、男はこちらを見つめたまま数十秒動かない。ナンがこちらから撃とうと、引き金を引いた。住宅街に銃声が鳴り響く。住宅街に住む人達は何か何かとぞろぞろと外に出てくる者と覗く者、それと怯えて家に閉じこもる者が現れる。
ナンはやりぎた――のではない。男も殺してなどいない。いや、殺すつもりができなかった。ナンの後ろにはナンの後頭部に剣先を向け立っている男がいた。
ルル女―もうここで名前言っちゃうけど、
「紀亜……っていう名前だったかな?俺だったらここにいるよ?」
その声でようやく気づいて後ろを振り向く。ニヤリと男は笑う。
「それよりも危なっかしいな……こんな住宅街で銃を発砲するなんてさ……死んだらどうしてくれるつもりだったのかな?」
「ふん……レオンが言いそうな言葉だけど、さすがに剣までは俺に向けないなー」
「……」
「……それより……剣の扱い方悪くないー?俺の頭に刺さってんだけどー」
見ると、男が向けていた剣はナンの後頭部に突き刺さっていた。そこからポタポタと血が流れ落ちる。
「あ、すまん」
そう言って男は剣を抜く。どうやら刺すつもりはなかったようで。
「いや、刺すつもりはなくて……ほんとに事故だから……そんなつもりなかったから……」
「こんな会話敵同士の会話じゃないルルー!?」とルルは心の中で叫んだ。どうやら、ここにはバカしかいないらしい。なんでかって?これ見てわかりません?真面目に驚いてるよこの男。刺さってしまって動揺してるよ?
「いや……こっちもごめんー」
「いや、刺したのは俺だから……ゴメンゴメン」
「いや待つルル!」
ん?とナンと男が紀亜を見る。紀亜のネコ耳はピンピンに立っていた。
「ナン様!この人敵なんでしょルル!?なんで仲良く会話してるルル!?」
「いやーこの人も悪気はなかった――」
その瞬間、手に持っていた銃が真っ二つに切られた。反動的に紀亜の方に飛び移る。
「バーカ……敵が「はいすみませんでしたー」って謝るわけねぇーだろうが。アホかてめぇ」
ナンはその言葉を聞きながら銃を凝視していた。そして、
「ワァオ!ビューティフールー!」
「なんでルル!?」
ナンはなぜか褒めていた。なんで?
「俺の愛用の偽物の銃を切るなんて……なんて優しいんだー」
すると、ナンはマフラーからもう1つ銃を取り出した。そう。それが本物の銃。男が切った銃は偽物だ。
――こんな程度、朝飯前。
「本気の殺し合いっつーもんはなー……」
銃口を男に向ける。
「チキンプレイだろうがチートだろうが『殺意』がなかろうが……先に手を出した方が勝ちなんだぜー」
その終わりとともに、ナンは引き金を引いた。だが、銃弾が男に当たることはなかった。男はナンが撃った銃弾を真っ二つに切って避けていた。その技術に紀亜はポカーンと口を開けたまま男を見ていた。
「あん?なんて言ったか聞こえなかったな……先に手を出した方が勝ちだと?ふん……いや……!強い方が生き残るに決まってんだろうが!」
そう叫びながら男はナンに向かって剣を振りながら襲ってきた。
その男の剣をナンは銃で受け止めた。
いや、それは銃ではない。それは剣だ。
「な……!剣……だと……!?」
それは銃でもあり、剣でもあった。
銃口の下から剣が出てきているのだ。長さは普通の剣より少し、少しだけ短いが、銃が撃てるという点では剣士相手には勝てる。引き金を引けば銃弾は剣に沿って飛んでいく。弱点もあるが、それを克服すれば相手から攻撃を受けずに殺すことができる。
「俺専用の武器だー。どうだー?凄いだろー?」
「く……!」
それにナンは剣術もそこそこできる。男がナンを斬ろうとしても、それをすべて受け止められる。ただ、剣先の向きが上を向いているからなのか、銃弾は飛んでこない。
一旦距離を取る2人。どこからか警察のサイレン音が聞こえてくる。誰かが通報したのだろう。まぁ無理もない。だが、そうなると残り時間は少ない。それは2人ともわかっている。
紀亜はいつの間にか近くの家の屋根の上に乗って観戦していた。
「この武器を知らないということはやっぱり君はレオンじゃないねー」
「ただの記憶違いだ……俺はレオンだ。信じてくれよナン……俺達、親友だろ?」
「……いや、レオンじゃないー。確かに顔とかはレオンそっくりだけどさ、なんか違うんだよねー」
「どこが?」
「例えば――」
バン!と音とともに銃弾が男の肩を貫いた。
「今撃たれたこと、とかー?」
「な……」
どうやら男は自分でも驚いているようだった。
「っで?君は一体誰なのー?」
「だから言ってんだろレオン……って」
「ほんとにー?」
「……もうわかった。正直に言うわ……確かに俺はレオンだが、本物のレオンではない」
「うんうんー」
「俺はレオンの
「偽体ー?」
「そう。俺はお前を呼ぶためにここに来た。ちょっとからかってやろうと思って、さ」
「ほうなるほどー……」
「だから俺に着いてこい……レオンに会わせてやるよ」
ナンは迷った。
そして決めた。
「わかったー……けどー」
【そこの貴様ら!おとなしく武器を捨てろ!】
とスピーカーからどでかい声が。その周りには白と黒の車で、上に赤色に光ったものが置いてある。それと、銃弾防壁みたいに取り囲んでいた。お巡りさんですねわかります。
「その前に、せっかくこっち来たから少し暴れようー。……紀亜ー食事の時間だぞー」
「本当かルル!?」
「ほら、こんなにいっぱいー」
「いっちょ殺るか」
紀亜が屋根上からジャンプして降りてきた。片足で着地。
この3人は誰もが危険だと思うだろう。
先に飛び出したのは紀亜。警察官にものすごい笑顔で向かっていく。まるで、獲物を喰いに行くかのように。
警察官が紀亜めがけて銃を発砲する。が、紀亜はそれを食った。飛んできた銃弾を丸ごと飲み込んだ。その光景に、
「な、なんだこいつ!ば、化け物じゃねぇーか!――ぐわっ!」
そう言っているうちに紀亜が、警察官の首元にかぶりつく。血飛沫が舞い、紀亜は首の骨を噛んで、首の骨を折った。警察官の悲鳴はそこで途絶えた。警察官は涙を流したまま、目が白くなっていた。
警察官の身体が倒れるとともに、紀亜はその警察官の頭を飲み込んだ。丸ごと。
そして、獲物を捕食するかのような顔をして口周りをペロリと舐める。すると、
【う、うわぁぁぁぁぁぁ!ば、化け物だぁぁぁぁぁ!】
と叫ぶ者達。それと、
「う、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
と指揮をとる者が叫ぶと、一斉に銃を構えて撃ち始める。
紀亜をめがけての攻撃。だが、それはすべて跳ね返された。
紀亜の前にナンが現れるかと思うと、普通の銃に戻っている銃で、すべて撃ち落とした。いや、軌道を変えた。警察官達が撃った銃弾はすべて、周りの民家に突っ込んでいった。
銃弾と銃弾をぶつけさせ、その軌道を変えたのだ。
警察官達は無我夢中に撃っている。無数に飛んでくる銃弾を、ナンは顔色変えずにすべて軌道を変える。
ナンの撃っている銃、いや手が丸ごと見えない。まるでないのかのように思わせる。だが、それはないのではなく、その圧倒的なる速さに目と脳が追いついていないのだ。
ナンの銃は、銃内で銃弾が自動的に生産されるので、いちいち変える必要はなく、1発辺りの生産時間は0.00001秒だから、連射ができるのだ。
ナンは数十人の警察官相手に1人で、しかも銃1つで傷すらつかなかった。
さすがに銃弾がなくなってきたのか、だんだんと止んでいく。
そして、銃弾が飛んでこなくなった瞬間に、ナンの後ろからレオンと名乗る男が飛び出し、次々と警察官を斬っていった。
「ずるいルル!それは私のご飯ルル!」
そう言って紀亜もレオンに続いて警察官達に飛び込んでいった。
もうグロイ。とりあえずグロイ。レオンと名乗る男が警察官を斬っていき、紀亜がそれを食べたり、時には自分から殺して喰ったりしている。まだレオンと名乗る男はいいのだが、問題は紀亜だ。
紀亜はそういう風に出来ている。そういう者なのだ。紀亜は本物の『狼』なのだ。
「し、死にたくない!」
という叫びなど紀亜に通用するわけがない。
紀亜は躊躇なくその男の頭をがぶりついて、噛み砕いた。感覚を残したまま。男は最悪な死に方だろう。自分の首から上が噛み砕かれているのを感じながら死ぬのだから。
これがナンに与えられた使命なのだから。仕方がない。可哀想には思うが、ナンにはどうすることもできない。この紀亜と過ごすことが、ナンに与えられた、守らなければならない使命なのだから。
――数時間後、大きな本部から駆けつけた警察官達が現場で見たものは、ただ普通の住宅街の道路だった。
――血一滴もない、綺麗な道路。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます