8 ニルバナ王国からのメール
★★★
目を開けると、そこはベッドの上だった。どうやらあの後運んでくれたらしい。それにしても、なぜ俺は倒れたのだろう。急に、で原因がわからない。前意識がなくなった時は龍架が封印を解こうとしたのが原因だったが、今回はそんなことはない。それより、龍架はどうしているのだろうか。龍架を放ったらかして来てしまったが、できれば龍架も一緒に連れてきたかった。龍架の『闇』はまだ完全に取り除けてないのはわかっている。それに、まだ魔王リヴェルトンも殺せてない。いつ魔王リヴェルトンが龍架の『光』を打ち消すのかわからない。蓮雄は龍架が心配で心配でたまらなかった。それよりも……看病をしてくれていたのか、ヘルが俺の手を握って寝ている。椅子に座って頭をベッドに乗せて俺の手を握りながら。はいでたこのパティーン(パティーンとはパータンをかっこよく言った感じである)。少女漫画であるやつねこれ。それで、恋に発展するとかいうやつ?残念ですが、俺は絶対にヘルに恋しませーん。てか、ヘルにはもう夫がいるからな。と、思ったその時。ピロンとスマホにメールが入る。棚の上に置いてあったスマホを、手を握られてないほうの手で取り、メール内容を見る。
件名・至急お戻りください!
王子が何者かによって連れ去られました!すみません!わたくしの不注意です。至急ニルバナ王国にお戻りください!
との内容。え?ちょっと待って。え?え?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
思わず声を上げてしまう。その声があまりにも大きかったのか、ヘルが飛び起きてしまった。
「どうした貴様」
「ちょちょちょ!こ、コレ見て!」
はぁ?と寝起き悪く、スマホのメールを見る。すると意識が覚醒して、寝ぼけもすっ飛んだ。
俺の手からスマホを取り上げポチポチやり出す。そして耳に当てる。あ、電話ですねはい。
「おい貴様!これはどういうことだ!」
[す、すみません!わたくしが目を離したすきに]
スマホから声が漏れてきている。相当慌てているようだ。
「何やっとるんだ!貴様わかってんのか!?国王が連れ去られたんだぞ!?」
[す、すみません!今全勢力使って捜索しておりますので]
すごい涙声だった。いや、それは普通なのだろう。
「くそっ!」
[い、異世界連邦委員の方にも協力要請をしたので犯人はすぐわかると思います]
「そんなことは当たり前だ!貴様本当にわかってんのか!?国王が、私の夫が誘拐されたんだぞ!?貴様正気か!?」
電話から『ひっ……』という声が聞こえてくる。さすがに……
「落ち着けヘル!」
肩を揺すって落ち着きを取り戻させる。
「確かに王子が連れ去られたのに動揺するのはわかる!だが、ヘルが冷静じゃなかったら誰が指揮とるんだよ!それにまだ誘拐と決まったわけじゃない!少しは冷静に考えろ!それでも女王か!?」
「……」
すると、落ち着きを取り戻したのか再び耳にスマホを当てる。
「すまん言いすぎた……それで、今の状況は?」
[今、ニルバナ王国全勢力が捜索中です。今はそれだけです。なので、至急お戻りください!]
「あぁ……戻りたいのはやまやまなんだが、どうやらこの異世界は攻略しないとそっちにはいけない……だから、しばらく貴様が至急をとっていろ……何かわかったら連絡してくれ……」
そこでヘルは相手の返事を聞かずに通話を終了した。そしてスマホをベッドの上に放ると、そのまま立ち上がってドアの前まで行く。
「連絡あったら言ってくれ……」
ヘルは背を向けたままそう言って出ていった。
ちょっと言いすぎただろうか。
蓮雄は謎の罪悪感に襲われて、ヘルが出ていったドアを見つめていた。
それから数分後ドアがノックされ亜透が入ってきた。
「おにいちゃん、さっきヘルさんとすれちがったんだけど、なんであんなにげんきなかったの?」
「いや、ちょっといろいろあってな……そっとしておいてやれるか?」
「はいっ!おにいちゃんのためなら!」
そう言ってガッツポーズ的なやつをやる。何それ可愛い。俺ホモに目覚めるというか、シスコンロリコンに目覚めそう。
「それと、ちょっとおはなしがありましてっ」
「ん、なんだ?」
「いやーあのですねーこのホリスモおうこくがコンピューターウイルスにかんせんしてから、だれもこのホリスモおうこくをこうりゃくできたひとはいないんですよー」
まぁそうだろうな。というか攻略できないだろうな。だって、ホモ王国だし、どうやって攻略するのかわかんないし。
「でもおにいちゃんならできるとおもうんですよねっ!だから、おにいちゃんでおわらせてください!」
「あぁわかってる……だけど、攻略ってどうすればいいんだ?」
「ほられることですっ!」
は?今なんて?
「ほられることですっ!」
は?もう1回?
「ほられることですっ!」
「なんでお前俺の心と会話してんだ!」
「そうなんですか?」
「奇跡か!……まぁそれは置いといて、ほられるって何が?」
「おにいちゃんのけつのあなですっ!」
「うん具体的に言わなくていいからね……言わせたの俺だけど……で?なんで俺が掘られると攻略になんの?」
「え?だっておにいちゃんがホモにめざめたというしょうこになるじゃないですか?」
「いや俺の攻略法じゃないから!俺をホモにする攻略方法じゃなくて、このホリスモ王国を攻略するほう!さっきお前なんの話してたんだよ」
「ホモのはなしですっ!」
「それは答えなくていいから!」
「★★★★ゥゥゥゥゥ!」
「うるせぇぇぇぇ!」
なんだよ!★★★★ゥゥゥゥゥ!ていうネタがそんなに好きなのかよ!もういいわ!しつけんだよ!もう笑えねーよ!ていうかほんと小学生低学年の子が言うことじゃないから!
「……ったく……っで?どうすれば攻略できるんですかぁ?」
ちょっと嫌味っぽく言ってみた、わら。
「えーとそれはですねっ!」
「うん」
「それはですねっ!」
「うん」
「それは……ですね」
「う、うん」
「それ……は……です……ね……」
「う、うん……」
「……なんでしたっけ?」
「なげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!なんで溜めたし!?てかなんで!?お前コンピューターなんだろ!?」
「そうですよ?でも……なぜかそのきろくがありません。つまり、こうりゃくほうほうがわからないということですっ!」
「……」
「ど、どこいくんですかっ?」
蓮雄の足はドアに向かっていた。
「……ちょっと外歩いてくる」
なぜか暗い気分で出ていった蓮雄を、亜透は不思議がって首をかしげていた。
別に亜透を責めるつもりはない。あいつは何も知らないからな。
攻略方法がわからない、か……。ヘルに伝えるべき……ではないだろうな……。丁度その時、ヘルが閉じこもった部屋の前を通りかかる。少し立ち止まってみる。音も何も聞こえない。やっぱり言いすぎたかな……。
少し立ち止まってまた歩き出す。
部屋に閉じこもったヘルはベッドの布団の中に丸まっていた。
この家にはなぜか私達専用になっていて、それぞれ自分の部屋が付いていた。ここが私の部屋だ。
別に蓮雄に言われたからこうなっているわけではない。違うのだ。冷静を取り戻した瞬間、なんか変な気持ちが湧き上がってきたのだ。なんかこう……言葉では言えない何かが。あああああああああああああああああ
……声に出して叫びたい。
だから、蓮雄のせいでこうなってるのではない。自分のせいだ。後で謝りに行った方がいいかな……そう思った時、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。そして、ドアの前に通りかかると、その足音が止まる。この部屋の前にいる。が、すぐに足音がしてだんだんと遠ざかっていった。
多分あれは蓮雄だろう。今から追いかければ謝れるが、ヘルは動こうとしず、ギュッと布団にくるまった。
★★★
ある異世界のとある洞窟。壁にもたれかかり息を荒らしている者がいた。魔王リヴェルトンだ。
爆颶蓮雄と戦った時の傷がまだ治っていない。なんとかここまで来たが、これからどこに行くのかもわからない。ニコラス王国は封鎖され
案外バグ・レオンも強い男だ。伊達に『伝説の勇者』と『悪魔の勇者』という二つ名を持っているわけではないらしいな……。
と、その時カツンカツンと何やら足音が聞こえてきた。その歩いてきた者とは、
「やぁ数日ぶりだねリヴェルトン」
神だった。相変わらずニコリとしている。
「どうだったあの子は」
「……私には劣るようですがなかなかの腕前だった」
「うーん……まぁそうだろうね。まだあの子完全体じゃないからね」
「完全体ではない、とは?」
「そのままだよ。あの子に力は完全に戻っていない。不完全状態なんだよ」
「どういう、意味でしょうか……?」
「まぁまぁ。後でゆっくり教えてあげるからさ、まず体を回復だね」
すると魔王リヴェルトンの体を緑色の魔法陣が通る。すると、魔王リヴェルトンの体が元に戻り、体力も回復した。リヴェルトンはお礼を言いいながら立ち上がる。
「その完全体のことなんだけどね、それぞれが勝手に動き始めてるから、リヴェルトンにも動いてもらわないと困るかなーと思って会いに来たのさ」
「神よ……なぜそんなにあの男、バグ・レオンにこだわるのですか?」
「君に言うと思う?リヴェルトン」
「……」
「ま、そんなことより早く行こうか」
「は、はぁ」
「急がないと準備が間に合わないよ?どうやらもうすぐ〈異賊暴〉第1使徒〈神炎〉がバグ・レオンを殺しにかかるらしいからね」
「え?それじゃあバグ・レオンは…」
「何を考えているのかな?そんなので死ぬような子だと思う?」
「確かにそう言われてみれば……」
実際思ってなどいない。〈異賊暴〉第1使徒〈神炎〉はほぼ最強だ。その第1使徒〈神炎〉がバグ・レオンを殺しに行く。さすがのバグ・レオンでも生き残れるわけがない。ほぼ確実に死ぬ……。
「それに、どうやらゴーデンの奴も動いてるから、死ぬことはないと思うよ」
「ゴーデン……?」
聞いたことのない名前だった。
「あぁリヴェルトンは知らないんだね」
「……」
「〈鷹蛇狼〉主頭ボーイズ・ゴーデン。僕以外の人から見れば、ほとんど謎の人物に見えるだろうけど、僕は神だからすべてが見えるんだ。……〈鷹蛇狼〉は知ってるでしょ?」
「聞いたことはありますが……」
「うんそうなんだよね。〈鷹蛇狼〉はセキュリティが厳しくてねーなかなか一般ピープルではわからないんだよね。でも僕は神だからわかるんだ。ゴーデンはすごい奴だよー、最終的にあの子を殺すのはゴーデンかなぁ?」
その後もべちゃくちゃ喋っていたが、リヴェルトンは静かに鬱陶しく思いながら聞いていた。
長い……長すぎる……どんだけ話してんだよ神……途中からなんか音楽の話になったし……え?何?〈鷹蛇狼〉にベートーヴェンとかリストとかいるの?いたら会わせてくれよ。まぁ音楽好きのはわかりますけど、〈鷹蛇狼〉の話から急に変えないでくれますかね?音楽の話だけで2時間長々と話してますけど。
そう、神は途中から音楽の話になり2時間も長々と語っているのだ。はっきり言ってリヴェルトンには興味無い。
「――というわけで、〈鷹蛇狼〉はこういうことなんだ」
いやほとんど音楽の話しかしてませんけどぉぉ!?てか最後無理矢理〈鷹蛇狼〉の話に戻したんだけどどうすんのこれ。
「は、はぁ」
リヴェルトンは気のない返事をする。
「おや?ちょっと長すぎたかな?」
うん長すぎますよ!?
「それで、リヴェルトンにはあの子を完全体にするお手伝いをしてほしいんだ」
「完全体に……ですか?」
「うん」
「でも殺すなら完全体になる前の方が楽なのでは……?」
「そうなんだけどねー。つまんないんだよねそれだと」
「つまんない?」
「うん。やっぱり最強のあの子と戦ってるの見た方が楽しいからね」
「そ、そうですか……」
「それじゃ早速準備しに行こうか」
そう言って背中を向けて歩き出す。
神の考えていることはわからない。
なぜそんなにバグ・レオンに執着するのかもわからない。
――神の何もかもがわからない。
それが、『神』なのである。
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