続・膝の上の妹
昼休み――
一年二組の教室に足を踏み入れた俺は、真っ先にあやねの席へ向かった。
「よう」
声をかけると、あやねは一瞬ぴくりと反応を示したが、こちらを向くことはしなかった。
「……」
「弁当、一緒に食べないか?」
「……」
「ちょっと話したいこともある」
「……」
「芳乃は今日はほかの連中と食べるらしい。だから俺と二人で、ってことになるんだが」
「……」
「……」
「…………そ、そういうことでしたら、私がいちゃいちゃを見せられる心配もないわけですね?」
俺の顔を見ずに、あやねは言う。
「まぁ、そうなるな」
「……わかりました。下級生の教室で一人で食べるのは、さすがのお兄さんも肩身が狭いでしょうし」
そっけなく言って、あやねは席を立った。
いつもそうしているように、机を向かいあわせにする。芳乃がいないので、机も椅子も二人分だ。
俺が席に着くと、あやねも正面の席に回りこみ、椅子に手をかけて――そのまま、ピタッと動きを止めた。
「あやね?」
声をかけても、返事はない。
何事か思考をめぐらせているのだろうか、あやねは椅子の肩に手を置いた体勢のまま、十数秒ものあいだ静止していた。
だが、身体こそ固まったように動かなかったが、変化はあった。
一秒、また一秒と時間が進むごとに、なぜか、あやねの頬はみるみるうちに紅潮していったのだ。
そしてあやねは、どこか意を決したように顔をあげた。
あやねは椅子を掴んだまま……俺のもとへ帰ってきた。
そして俺の隣にピッタリと椅子をくっつけ、自らもちょこんと腰を下ろす。
そこは先週まで、芳乃の特等席だった場所だ。
意図が掴めず、俺はちらりとあやねの様子を窺う。
その横顔はやはり真っ赤だった。
「…………」
「…………」
お互い、無言だった。
やたらと近い距離感については特に触れず、俺は弁当を広げる。
それに倣うようにあやねも弁当を広げ始めた。
会話はない。
もちろん、“あーん”だってない。
そのせいかいつもより箸の進みが良く、あっという間に完食してしまった。
隣では、あやねがまだ食べている。
手持ち無沙汰になった俺は、とうとう口を開くしかなくなった。
腹を決める。
「なぁ、あやね?」
どうにかして、関係を修復したい。
そのために切れるカードは、実のところ限られている。
「明日、またうちに遊びに来ないか?」
またの部分を強調して、問いかける。
俺とあやねの“繋がり”といえば、そのくらいしかないから。
「……」
返事はなかった。俺は気にせずに続ける。
「できれば、泊まりで」
「……」
「約束しただろ? また遊びに来るって」
俺たちって、
そんな確認をするように、俺は言った。
「……」
あやねが箸を置いた。
やはりこちらを見ることはせず、口を開く。
「……約束までは、していません」
「そうだったか?」
「それに、急すぎます。いきなり明日泊まりに来いだなんて、お兄さんには常識というものがないんですか」
「そういうもんか?」
言われてみれば、たしかに突然すぎたかもしれない。
せっかく芳乃が用意してくれたチャンスではあったが、ここは日を改めたほうがよさそうだ。
「だいたいお兄さんは――」
「悪い、今の話はまた今度な」
そう言って、俺は立ちあがった。
……ものすごい反応速度で、制服の裾を思いきり掴まれた。
「い、行かないとは言ってません……」
俺は椅子に座り直し、訊いた。
「来てくれるのか?」
「…………はい。ただし、条件があります」
「なんだ?」
「当日、私がいるあいだは――芳乃ちゃんといちゃつくのを、控えてほしいんです」
「――とまぁ、そういうことになったから、明日明後日はベタベタするのを控えてくれ」「嫌」
芳乃は食い気味で即答した。
「……なんでだよ。少しくらい我慢できるだろ?」
「これ以上我慢できないもん。だいたいなんなの、あやねのあれは? わたしがいないのをいいことにお兄ちゃんにベッタリくっついたりしてさ……やっぱり、明らかにそういうことじゃん」
「……。とはいっても、仲直りするにはいい機会だろ?」
「……かもしれないけど」
「だろ?」
「…………いいよ、わかった。あやねがいるあいだはおとなしくしてるね?」
「本当か?」
「うん。その代わり……条件があるの」
おまえもかよ。
「ううん、条件っていうのは変だよね。わたしだって当事者なのに。だからこれはお願い、っていうか……わたしのわがまま、というか……」
「つまりはいつもどおりだろ? 言ってみろよ。それでおとなしくしててくれるなら、叶えてやる」
「……ほんとう? いいの?」
「あぁ」
「その、えっと……あの、ね?」
芳乃は恥ずかしそうにもじもじとしながら、その願望を口にした。
その日の晩、部屋には俺と芳乃の二人きりだった。
「じゃあ、始めるぞ」
「うん、来て……」
俺は芳乃の穴の中へ、その硬くて長い棒をゆっくりと挿入していく。
「んっ……!」
「悪い、痛かったか?」
「ううん、平気……続けて?」
「俺もはじめての経験だから、うまくできる自信はないが……」
「いいの。相手がお兄ちゃんってことが重要なんだから」
「わかった」
今度はもっと慎重に、痛みを感じさせないよう、棒の先端――少し膨らんでいて柔らかい部分を、内側の壁にこすりつける。
何度も、何度も。執拗にこすりつけ続ける。
「ふぁ……おにい、ちゃんっ……!」
「どうした? やっぱり痛いのか?」
「ちがうの、あのねっ……気持ち、いいのっ……!」
「そうか、よかったな」
「あっ、あっ、だめぇ……気持ちよすぎて、声出ちゃう!」
「そんなにいいのか?」
「うん……たぶん、最近してなかったから、溜まってるんだと思う……それに」
「それに?」
「……ここしばらくはずっと、一人でしてたから。誰かにしてもらうなんて久しぶりで、余計に敏感になっちゃってるんだと思う……」
「そういうもんなのか? ……よし、こんなところか」
俺は棒を引き抜くと、穴の入口に顔を近づけた。
そして……
「ふ〜〜〜っ」
「ひゃぁっ……!!」
耳掃除の仕上げは息を吹きかけるものだと、相場が決まっている。
「ほら、反対側向け」
「……今の、もっかいして?」
「こっち側はもう充分だろ」
「ちがくて……ふーっ、ってやつ、もう一回してほしい……」
俺の膝の上に頭を横たえた芳乃が、懇願するような目で見あげてくる。
「ふ〜〜〜っ……これでいいか?」
「うぁぁっ……それすごい、ぞくぞくってする……」
「……」
条件があるだなんて言われ、今度はいったいなにをやらされるのかと、内心戦々恐々としていたが……
フタを開けてみれば、なんてことはない。ただの耳かきだった。
母さんがいなくなるまではずっと母さんにしてもらっていたらしく(それも驚きだ)、誰かにしてもらうのが恋しくて仕方なかったとのことだった。
それならもっと早く言えばよかったのに、と思うのだが、芳乃的には耳かきをされるということは、お姫様だっこで登校よりも恥ずかしいことなのだそうだ。基準がわからない。
「お兄ちゃんお願い、もう一回だけ……」
「ふ〜〜〜っ」
「あっ今の、さっきよりいいっ……もっかい……」
「ふ〜〜〜っ」
「あ、だめ、やっぱり気持ちよすぎる……お願い、もっとしてっ、おねがいっ……」
「ふ〜〜〜っ」
「あぁぁぁっ!!」
反対側の耳に着手できたのは、それから一時間以上あとのことだった……。
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