全てにおいて普通の俺に可愛い彼女がいるわけ

にゃん丸

第1話 始まり


「そーくん起きて!!朝だよ!!遅刻しちゃう!!!」


 時計の針は8時10分を指し、HR開始のチャイムまであと30分というところだった。


「ん……あと5分…………。」


 俺はそんなのお構いなしで言う。


「何言ってんの!?ほら、早く起きてよ!」


「こまちゃんだけ先行ってろよ……。」


「そう言うなら……とうっ!」


 ヤツはジャンプして、俺の腹に乗ってきた。


「ぐえぇっ!いってぇ…………随分乱暴過ぎやしませんかねぇ、小毬さん。」


 腹の上に乗っているヤツを見ながら俺は言った。


「仕方のないことですぞ、壮さんや。」


 彼女はそう言って、微笑んだ。




 俺の名前は符津井ふつい そう。家から徒歩20分程の学校に通う、普通の高校1年生だ。今までの成績は全てオール3、テストの点数は全て平均点。運動も上手くもないし、下手でもない。顔もかっこいいとも言われないし、ブサイクとも言われない感じだ。つまり、長所も、短所もない人間だ。


 そんな俺には幼馴染みがいる。隣の家の伊々若いいわか 小毬こまりだ。小毬は頭が良く、運動も得意。それに加えて可愛い。


 まだ、入学式しかやっていないが、「1年生にめっちゃ可愛い子がいる」という噂が流れているらしい。誰のことについて言っているかわからないが、たぶん小毬の事だと俺は考えている。


 俺と小毬の出会いは4歳の時だった。俺が家の庭で遊んでいると、1人の女の子が現れた。


「わたし、こまりっていうの。おうちおとなりになったからよろしくね。」


 笑顔で言った彼女の言葉に、俺はただ頷いただけだったような気がする。


 その日から俺と小毬は毎日のように遊んだ。ボール遊びにアスレチック、砂場遊び、絵を描いたり、おままごとなどやったりした。自然と「そーくん」、「こまちゃん」と呼び合うようになっていた。その頃から俺は小毬に振り回される日々を送った。


 小学生になっても、今まで通りに遊んだ。小毬以外に遊ぶ相手が居なかったわけではない。俺にも、小毬にも、友達は普通に居たし、たまに遊んだりしていた。でも、家が近いせいか、小毬と遊ぶのが大半だった。


「次、あっち行こうよ、そーくん!」


 小毬はブランコを指差しながら走り出した。


「ま、待ってよこまちゃん!」


 慌てて俺は小毬を追いかける。


 目的地が決まったらまっしぐらに走り出す。それが小毬だった。俺はいつも小毬の背中を追いかけていた。


 一緒に学校に行って、授業を受けて、一緒に帰って、一緒に遊ぶ。そんな生活を6年生まで続けた。これからもこんな日々が続くのだろうと思っていた。


 しかし、俺は地元の市立中学校、小毬は市外の私立中学校に通うことになった。小毬は頭が良い為、特待で私立に入学することにしたらしい。なるべく近い場所から電車で通った方が楽だからと、小毬は祖父母の家から通う事になった。


 俺はサッカー部、小毬はバスケ部に入部して忙しい事もあり、俺と小毬は遊ぶことも、ましてや話すことさえもほとんどなくなった。俺は寂しいと思ったが、仕方ないと思った。


 サッカー部を引退するまでキツイ練習にはげんだが、実力は上手くも下手でもない感じだった。小毬に振り回されない日々にも慣れ、人並みに楽しい普通の日常を送っていた。受験勉強をしっかりやり、入試も無事合格。家から歩いて約20分の地元の平常へいじょう高校という高校に通う事になった。



 そして、入学式の日になったのだが、俺は自分と同じ4組に「伊々若」という苗字を見かけた。


(へぇ……こまちゃんと同じ苗字か、珍しいな。)


 小毬かもしれないということは1ミリも考えなかった。小毬は付属の高校に行くと彼女の母親の美智代みっちーに聞いていたから。


 気になったので名前を見ようと思ったら、人混みに流されて見ることができなかった。


(まぁ、いいか。同じクラスだから行けばわかるだろう。)


 入学式が行われる体育館に向かって歩いていると、誰かに右腕を掴まれた。


「ん?何か用ですk……。」


 俺は目を疑った。





「おはよーっ!そーくん!」


 そこには彼女小毬がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る