15話 異世界のテクノロジー


「全く往生際の悪い野郎だなー。片足撃ち抜かれた時点で普通気づくだろう? オレがわざと足を狙ったってことをよ……ん? そうでもねーか? 俺が正確無比な射撃ができるのをお前は知らねーんだから、狙いを外したと考えてもおかしくねーか?」

「…………」

「手間取らせんなよな、全く。ヨッコラセっと!」


 ロボはナゾールの傍らに座り込むと、うつ伏せのナゾールをひっくり返し、血の吹き出している足を確認して何やら作業を始めた。


「……何をするつもりなんだ?」

「ん? 治療に決まってんだろうが。膝立てたまま崩すんじゃねーぞ」

「治療?……なぜだ? お前らは俺を始末しに来たんじゃないのか?」


  驚きの表情を浮かべるナゾールに、ロボは明け透けに答えた。


「なんだ? お前とネオ・ルカキスはそういう間柄なのか?」

「……ネオ・ルカキスだと!?」

「どういう目的でここまで来たのか、詳しく聞いちゃいなかったが、俺の知ってる範囲じゃー、そんな雰囲気は感じなかったがな」

「…………」

「ここはカリューで間違いないんだろう?」


 ナゾールの足を治療しながら、ロボは普通に会話を進める。先ほど攻撃を受けた事実などなかったように、まるで知り合いに語りかけるようなその口調に、ナゾールは思わず返事を返していた。


「……ああ」

「俺たちはここに住むナゾールって奴に用があるんだ。俺の予想ではそいつもお前と同じエルフの筈なんだが、お前本当に知らねーのか?」

「……ナゾールなんて名前、聞いたことがない。少なくともこの辺りに住んでいたエルフに、ナゾールなんて奴はいなかった」


 ロボはナゾールの顔を見ながら黙考したあと、次の質問を口にした。


「この村にはお前以外に誰かいんのか?」


 その問いにナゾールはいったん口を閉ざした。相手はルカキスと連れ立って現れた存在である。ここまで普通に会話を交わしていたが、このまますべて打ち明けてしまっていいのだろうか? そんな疑問が頭を掠めたからだ。

 だが、先ほど垣間見た相手の実力は、ナゾールが渡り合えるレベルを遥かに超えていた。口を閉ざしたところで、無理やり聞き出す手段にも出られるし、それ以前に隠し立てするような情報も持っていない。そう考えたナゾールは、聞かれるままにある程度の質問には答えようと思っていた。

 ただ、そう決めた背景には、もう1つ重要な要素があった。ナゾールはここまでの経緯にある違和感を覚えていたのだ。


 自分が想定していた相手が現れたにもかかわらず、いくつも浮かび上がってくる疑問。

 たった2人での襲来。

 王国軍の最上位に位置する黄金騎士ルカキスの顔を、豚まんに見まがうほど殴打できる、ロボットと思われる存在。

 そして、ネオ・ルカキスという名前。

 それらの疑問が自分の想定していた相手とは符号しない。会話を続け、相手から情報を得ることで、その疑問が解消されるのではないか?

 そんな思いから、ナゾールは正直に質問に答えることを決めたのだった。


「ここは正確には村じゃない。ある程度の大群で押し寄せてくることを想定してつくった、大掛かりなトラップだ。まさか、たった2人で攻め込んでくるとは予想していなかったが、事実それは成功したのだから、俺の判断が甘かったと言わざるを得ないだろう。まあ、もっともお前という戦力は俺の想定外だったがな」

「……いや、俺の質問聞いてる? 俺はここに、お前以外に誰かいんのかって聞いてんだけど?」

「ああ……そうだったな。すまない」


 ナゾールは今、1つの秘密を暴露しようとしていた。それを明かすことで、相手の態度が豹変する可能性はあった。だが、これまでの経緯からおそらくそれはないと判断したナゾールは、一度生唾を飲み込むと言葉を続けた。


「単刀直入に言おう……俺がカリューだ」

「って、どこが単刀直入だよっ! 俺はここにお前以外に誰かいんのかって聞いてんだよっ! 何だお前は? 天然か? 確かにお前の名前はまだ聞いちゃいなかったけど、このタイミングで……カリュー? どっかで聞いた名だな、おい? ってこの村の名前が――」

「そうだ。この村の名はカリュー。俺の名前をエサに食いつかせるために、わざと村の名前にしたんだ」


 ロボは一瞬、真顔で相手の顔を見つめたあと、はじけるように吹きだしていた。


「ガーハッハッハッハ、なんだそりゃ? まるでお前が有名人みてーな口ぶりじゃねーか? 俺はネオ・ルカキスから耳にするまで、そんな名前聞いたこともなかったぜ」


 ナゾール改めカリューは、この返答を聞いて確信した。今目の前にいる相手が、自分が想定していた女神や王国軍とは、全くゆかりのない者であることを。


 エタリナには現在、どこにもエルフはいない。王国軍によって、3年ほど前に国内から駆逐されたからだ。カリューはその時、エルフが国外へ逃げ延びるのを先導した人物であり、それ以外の理由からも名を知られている。

 今回、カリューはいくつかの目的を持ってここにトラップを築いたが、その1つが大国軍をおびき寄せることだった。そして、まんまと姿を現したその相手が、カリューの名を知らぬわけがない。

 それを聞き一笑に付したロボのリアクションは、想定した相手と無関係だと判断するに十分なものだったのだ。

 しかし、問題は連れ立って一緒に来た存在にあった。


 今や黄金騎士の地位まで上り詰め、女神の手先となって思いのままに軍事力を振るうルカキスが、無関係などということはあり得ない。

 先ほど見たルカキスが、紛れもない本物だと分かっていたカリューは、しかしそれを理解しながらも、ある出来事を思い出していた。


 それは以前、王城で目撃したルカキスに感じた疑問だった。先ほど見たルカキスと、王城にいたルカキス。それがもしも、別人だったとすれば?

 ロボとの会話は、その答えをカリューに提示するものであり、ひいてはここ数年感じていたいくつかの疑問を、この2人が解き明かしてくれるかもしれない。ロボの返事を受けたカリューは、直感的にそう感じたのだった。


 ……だが、話を進める前に、重大なイベントが割合サラッと、想定していたような盛り上がりもなくスルーされてしまったことについて、敢えてもう1度触れてみたいと思う。

 それはつまり……ナゾール=カリューという、ナゾールの真の名前が判明したことについてである。

 しかも、村の名前が、そのままナゾールの名前だったなんて!

 小説は事実よりも奇なり。それを地で行く、正に衝撃の発表だったのではないだろうか!?


 ……あれ?

 何やら冷ややかな気配を感じるのは気のせいか?

 やはり、このインパクトを真っ当に評価し、正しく受け止めることができるのは、ルカキス以外にあり得ない。急いでルカキスにこの事実を伝えねば!

 これより物語はルカキスのもとへと向うべく、急速な展開を見せるのだった。


「見せるかよっ!」

「えっ?」


 ロボの発した言葉に、カリューは驚きの声を上げた。


「今、なんて言ったんだ?」

「いやいや、今のはこっちの独り言だ。忘れてくれ……」


 ロボは自分がそんな言葉をなぜ口走ったのか理解できなかったが、追求してはいけない気がして考えるのをやめた。


「それよりもう1度だけ聞くぜ。ここにいるのはお前1人か?」

「ああ、ここには俺以外誰もいない」


 その返事に、ロボは何かを得心したように頷いた。


「なるほどな。だとしたらオレは思うんだが、お前とネオ・ルカキスの間には、何か思い違いがあるんじゃねーのか?」

「……俺も、そう思う」

「ほ~う、なんだ。お前も分かってたのか」

「さっきのお前の返答で確信した。だが、分からない点もある。たとえばネオ・ルカキスという名前だ。あいつは俺の知るルカキスで間違いないが、なぜその名がネオ・ルカキスになっているのか。その点に少し不安は感じている……」


 カリューの話を聞いて、ロボは最初にルカキスから名前を聞いた時のことを思い出していた。


「そういえば、あいつがオレに名前を名乗った時、なんか『試練を乗り越えた』とかどうとか言ってたんだ。あいつは独特の言い回しをするから理解が難しいんだが、オレが考えるに、試練ってのは名前が長すぎて良く間違われるってことだとオレは思ってる。おそらく、この予想は当たっていて、しばらく奴はルカキスと名乗っていた。間違われるのが嫌になってな。お前が奴と知り合ったのはその頃なんじゃねーか? だが、それではいけねーと奴は奮起した。そして、試練である自分の長い名前を受け入れ、たとえ間違われても自分は本名を名乗って生きなきゃならねー! そう決意した時に奴は試練を乗り越えた。そして奴は今、ネオ・ルカキスを名乗ってるってわけだ。どうだ? これなら納得いく答えになるだろう?」


 ロボはルカキスの名前について、完璧な理解を確信してカリューにそう伝えた。

 だが、敢えて言おう。ロボ、お前は間違っている。

 筋立ててそこまで考えた努力には敬意を表するが、お前がルカキスを理解するのは10年早い。


「それが事実なら、確かに問題はないが……」


 ロボの説明を聞きながらも、カリューは納得してない様子だった。なぜなら、カリューの知るルカキスは、名前を気にするタイプには到底見えなかったからである。


「さてと、治療も終わったし、そろそろルカキスのもとへ向かうか。お前たち2人の勘違いを解消するためにな」


 気づくと、足の治療は終わっていた。おそらく、先ほどルカキスに使用した薬剤と同じものが使用されたのだろう。

 カリューの足にはくっきりと傷跡が残っていたが、通常では考えられない驚くべき早さの回復だった。カリューは立ち上がって足を動かしてみたが、どうやら後遺症もないようである。強く力を込めても痛みを感じることもない。


「傷は一応、完治してる。この薬剤も万能じゃねーが、怪我の類なら大概は治せるからな」

「すまない、恩にきる。……それにしても見事なものだな」

「へへっ、まあな。この世界の回復魔法じゃ、こうはいかねーだろう?」

「確かに。一般的な回復魔法は時間干渉魔法クイック・タイム由来で、生体機能を多少活性化させる効果しかない。ある程度高位の使い手でも、これほど早い回復は望めないだろう。それ以上の実力者なら似たようなこともできるかもしれないが、そんな使い手は俺も1度しか見たことがない。もっともそれは、人ではなかったが……」


 その時浮かべたカリューの暗い表情を気にせず、ロボは続けた。


「そりゃーそうだろう。自分でやっといてアレだが、魔法で何でもかんでも治っちまったら、命の価値なんてあってないようなもんになる。そうそうお目にかかれるわきゃねーよ。ただ、この世界にはそれすらも凌駕する、神の奇跡ってのもあるみてーだがな」

「フフッ……奇跡か。いや、俺に言わせれば、お前の技術も十分それに匹敵する」

「ガーハッハッハッハ、まあ、奇跡ってか、オレを作った博士はチーターと言ってもいい大天才だからな」

「……チーター? 時折、お前は耳に馴染みのない言葉を使う」

「ああ、そいつはすまねーな。面倒になるとつい出ちまうんだ。伝わらなくても支障ないかの判断は、一応しているつもりだがな。ガーハッハッハッハ」


 言いながら歩きだそうとするロボを、すかさずカリューが呼び止めた。


「ちょっと待ってくれ。……お前のことを少し聞かせてくれないか?」

「あ~ん? オレのこと?」

「ああ。お前はいったい何者なんだ?」

「フフッ……まあ、お前を逃がさずたちどころにとっ捕まえちまう手腕に加え、この世界にある筈もない特殊な薬剤をも所持する。気になるか? 気になるだろうな。ガーハッハッハ、普通なら一目、二目は置いて当然、お前に限らず誰もがオレを……オレの存在を無視できる筈もない。ところがだ! ところが間近にいながら、オレの凄さを理解できないバカがいる! あんにゃろーときたら……」


 先ほど原型を留めないほど顔を殴りつけていたにもかかわらず、またもや怒りに火がついたのか、ロボはぶつぶつとルカキスの文句を呟いている。


「あの……」

「おっといけねーオレとしたことが。あれでも発散しきれてねーとは、あいつの怒りの買わせ方は半端ねーな。すまねーすまねー、とんだところで脱線しちまったが、請われて隠し立てするほど、オレは恥ずかしい生い立ちなんざしちゃいねー! セントアークにこの人ありと謳われた天才狭間博士が、持てる力を結集してこの世に残した最高傑作とも遺作ともいえるロボット。それがこのオレ、ロボ様ってわけよっ!」

「ロボット……やはり。あの西から来たと言われる文明の産物か。だが待て! お前のような存在が、西にはまだ他にもいるということか!?」

「あ~ん? お前、人の話をちゃんと聞いてたのか? オレは狭間博士の最高傑作だと言っただろうがっ! オレみたいに優秀なロボットが、そうゴロゴロいてたまるかってんだ!」

「…………」

「セントアークには確かにロボットは山ほどいるし、戦闘用に生産されている型もある。だが、戦闘力はオレの足元に及ぶどころか遥か地下世界の別物よっ! 別物よってか、別人が作ったんだから当然、別物のまがい物に決まってるんだが……」


 ロボはそこでいったん言葉をきり、今までよりも少しトーンを下げて、続きを語り始めた。


「だいたい、あのアバネの野郎が博士に並ぶ物を作れるわけがねー。博士に技術を伝授されなきゃ、物理工学やバイオテクノロジーの、イロハも知らずに死んでたような人間なんだからな。まあ、今のは起きちまったことを否定する、オレの哲学に反する言葉だったな。訂正するよ。飼い主の手を噛んだ犬がどうなるかを、オレがこの手で思い知らせてやるためにもな……」


 そう言葉を漏らすロボからは、内側から沸き起こる衝動を押し殺すような、殺意にも似たオーラを全身に纏っているような、そんな近寄り難い雰囲気が醸し出されていた。


「おっと、くだらねーことしゃべっちまったな。さて、オレの話はこんなもんでいいだろう」

「待ってくれ、もう1つだけ聞かせてくれ。さっきお前が俺を撃った時。あの時俺は完全にお前の死角に入っていた。アース・ウォールも破壊されてなかったし、いったいどうやって俺を照準に捕らえたんだ?」

「ん? ああ、それはこいつのおかげだよ」


 ロボは言いながら左手を軽く持ち上げる。するとカギヅメが反り返りながら、手の先全体がスライドし、中から銃口が顔を覗かせた。


「こいつは博士が遊び心で作った代物で、名はサイコガン。遊びと言っても、性能に於いて遊びなんて1つもない。それどころか必殺の兵器であり、オレの主力武器でもある。銃弾は弾倉にある魔法石から撃ち出される無属性の魔法弾。正確に表現するなら、物理衝撃弾って言った方がいいかもしれねーな。6発装填のリボルバー式だが、特殊な内部構造になってるから、魔法石を再装填する必要はねー。但し、打ち切った後は1秒程度のリロード時間を要するがな。6発装填にしている理由の1つは連射目的。そして、もう1つは弾の特性上可能となっている、同時射出での出力強化のためだ。弾丸を魔法で代用したことで、残弾を気にせず打ちまくれる優れたこの銃だが、そんな機能もこいつにとってサブ的な要素でしかない。なぜならこのサイコガンの特徴は、その類稀なる命中性能にあるからだ」

「…………」

「オレのサイコガンは、対象との距離や移動速度だけでなく、気温や気象条件、障害物や装甲などのあらゆる計測可能なデータをもとに、自動的に照準、出力調整され、魔法弾が射出される。一応射程は200メートルといったところだが、最もその威力が発揮されるのは、レーダーで正確に捕捉可能な、俺の周囲30メートル圏内。その範囲内なら脅威的な命中精度を誇るオレのサイコガンだが、それでも魔法弾で貫通不能なくらい障害物が多過ぎたり、魔法弾の最大出力でも破壊できない装甲を纏っていた場合、必然的にオレの中ではじき出される命中予測値は下がる。だが、その予測値が99%を下回った時、逆にサイコガンの命中率は100%になる。その矛盾を解消するのが、この銃に搭載されている空間転送技術だ」

 

 ロボは自慢げに笑みを浮かべたあと、続けた。


「命中率が下がった時に自動的に切り替わるこの技術は、鎧なんかも含んだ相手の持つあらゆる障害を無視した、ゼロ距離での銃撃を可能にする。属性耐性を考慮して無属性にしてるから、ほぼ回避できる対象はないんだが、それでも特殊な魔法使いなんかは、自分の皮膚に魔法陣を編み込むことで、皮膚自体を強化して攻撃を防ぐ奴もいる。だが、そんな場合でも空間転送なら問題ない。ゼロ距離でも当たらなければ、直接内部に着弾させることもできるからだ。従って、その物体を構成するあらゆる要素の物理耐性が、この魔法弾の威力を上回らない限り、俺の攻撃を防ぐことはできないというわけだ。まあ、そんな奴がいるなんざー想像もできねーがな。更にこの銃にはそれをも上回る特殊機構を備えてるんだが……余り説明が長くなり過ぎてもアレだから、この辺にしておくか。とにかく俺が30メートルの射程内で、捕捉可能な目標を外すことはあり得ないってことだ。それを可能にする正にサイコーのガン! それがこのサイコガンだ! ガーハッハッハ」


 根が真面目なのだろう。ルカキスなら到底最後まで聞く筈のない、余りに長ったらしいロボの説明を、カリューは真剣に聞き入り、そして驚愕の表情を浮かべていた。


 ゼロ距離射撃……おそらくこいつの言っていることに嘘はない。あり得ない位置から撃たれたのは事実だし、そうでなければ辻褄が合わないからだ。だが、こいつの所持しているこの数々の技術は、本当にこの世界で派生し、生まれたものなのか?

 

 特殊な薬剤による、驚異的速度の傷の治療。

 ナノマシンやレーダーなどの聞きなれない言葉。

 魔術回路を除けば常時発動のもの以外、使い捨てしか無い筈の魔法石を、無制限に使用できるという技術。

 非常に高度とされ、限定区間の移動用に魔術回路を組み込んだ大掛かりなものがある以外、ほとんど使える者がいないと言われる空間転移を、見たこともない特殊な武器へ組み込み応用している事実。

 いや、それ以前にロボットという存在に関する疑問。

 接する限り人と遜色ない思考力を備えた、金属でできた存在。一朝一夕でできるわけがないのに、魔法を基盤に成り立つこの世界で、それを研究し、ここまで辿り着いた者がいたというのか?

 こいつを作成したという、確かハザマ博士と言ったか? そいつはいったい何者なんだ……


 ロボの説明を聞いたことで、逆にカリューは更に深い疑問を抱くようになっていた。


「さてと、じゃーそろそろネオ・ルカキスのところに戻るか」


 自分の自慢話を心置きなく話せたことで気を良くしたのか、ロボは軽やかな足取りで前を行く。

 それに無言でつき従いながら考え込んでいたカリューは、しばらくするとその顔に笑みを浮かべた。その能力に驚嘆し、恐れすら抱いたロボという存在に、ひとつの答えを得たからだ。


 その答えとはカリューの置かれた状況が、そんな規格外の存在が現れても不思議でないことを示すものだった。同時にそれは、仮にロボの加勢が得られたとしても、そこにある困難が変わらないことを意味してもいた。なぜなら、カリューが戦いを挑もうとしている相手は、神だったからだ。

 カリューの顔に浮かんだ笑みは、苦笑いと呼べるものだったのだ。


 ただ、この出会いがきっと現状を大きく推し進める。カリューにはそんな予感があった。そして、それが自分に幸運をもたらすと信じて、ロボに続いたのだった。


 だが、カリューはまだ知らない。僅かに緊張感すら覚える、今から向かうルカキスとの再会が、カリューの想像を絶する、全く別人との再会になることを……

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