16話 再会
ほどもなく、2人はルカキスのいた場所に戻っていた。
まだルカキスは眠ったままだったが、起きるのを待つ間に、ロボはルカキスの様子がおかしかったことを思い出し、カリューに問い質した。
その説明によると、麻薬物質の幻覚効果のせいで、人型の対象が魔物に見えていたのが原因のようだった。ただ、短時間で抜ける薬なので、今目覚めたとしても既に効果は切れているし、何度も使用しなければ中毒症状は出ないともつけ加えた。
麻薬を使ったことに気が咎めたのか、カリューはその後も執拗に言い訳のような、補足説明のようなものを続けたが、ロボはそこまで気にしていなかった。
そのままルカキスの傍にしゃがみ込んだロボは、その寝顔を覗き込む。
深い眠りに入っているようで、少し声をかけたくらいでは、全く起きる様子がない。相変わらずの笑顔を浮かべたルカキスの寝顔はとても幸せそうで、先ほどタコ殴りにした後悔も相まって、ロボはことさら優しい声音で再び呼びかけた。
「ネオ・ルカキス~」
軽く体を揺すりながら2~3度繰り返したところで、ようやく意識が戻ると思われたが、眉根が寄せられた途端、そこからまたルカキスの百面相が始まった。
しかし、それを見たロボは急に真顔で押し黙って、右手を振り上げ何かを待つ姿勢をとった。
「ままよっ!」
「ままよじゃねーっ!」
ルカキスが声を発すると同時に、ロボはその右手を振り下ろし、頭を殴りつけながらの激しい突っ込みを入れていた。
「い……つぅ……」
頭を抑え、涙目になりながら、ルカキスはロボに抗議する。
「何も殴ることはないだろう! 俺もバカじゃない! 2度も同じことを繰り返すわけないじゃないか! ったく、自分は親父ギャグを言うくせに、他人の冗談は容赦しないとは……!?」
そう文句を言いながらも、ふと視界に入ったカリューを見て、ルカキスは驚愕の表情を浮かべた。
「お……お前は、アグア!?」
そう、ルカキスの視線の先にいたカリューは、アグアと非常に似た顔立ちをしていたのだ。カリューは目が合った途端、優しげに微笑んだ。
「アグアは俺の兄だ。俺の名はカリュー。覚えているだろう? 魔王討伐前に会った時のことを。あの時のお前の言葉は今でも俺の胸に残っている。久しぶりだな、ルカキス……いや、今はネオ・ルカキスと名乗っているのか?」
過去を懐かしむように語り掛けるカリューだったが、その言葉を受けた当のルカキスは、驚愕の表情のまま固まっていた。
どうやらついに、お待ちかねのリアクションが拝めそうである。しかし、あと少しでルカキスが口を開こうという段になって、ロボからこんな横ヤリが入った。
「なんでーネオ・ルカキス。石みたいに固まっちまってよー。……はは~ん、さてはまた変なことを言おうと思ってんだろう? 短い付き合いだが、オレにもそろそろお前が何を考えてるのか、少しは分かるようなってきたからな。ズバリあれだろ? カリューって名前が村の名前と同じだってんで、驚きのリアクションを取ってんだろうが?」
――何ということだ!
あろうことか、ロボはルカキスの行動を先取りするような、禁じ手とされるネタバレ的発言をしてしまっているではないか!
このようなお膳立てをされて、ルカキスがその通りのリアクションをとるわけが、とれる筈がない! ヘブンリーデーモンであるルカキスは、とりたくてもその行動が取れなくなってしまうのだ!
「黙れ!」
しかしその時、ルカキスが稀に見る真剣な表情でロボを一喝した。
だが、その言葉はロボだけでなく、それ以外の存在にも向けられていたような気がする。……反省しよう。少し介入が過ぎたようだ。
ルカキスはその視線を直ぐにカリューへ向けたが、その様子は狼狽えているようにも見えた。
「ア、アグアに弟がいたとは知らなかった……ハハ。だが、違うんだ! 聞いてくれ! 俺の、俺の話を聞いてくれ!」
両手を突き出し、及び腰のルカキスは、カリューに懇願するように訴えかける。
しかし、カリューにはその意味が分からない。取り乱している理由を知るために、ルカキスにその真意を問う。
「いったいどうしたんだ、ルカキス?」
言いながら近づいてくるカリューに、ルカキスは悲壮感を顕にした。
「来ないで……」
「……え?」
「来ないでっ!」
「……どうしたんだ、ルカ――」
「それ以上……それ以上、私に近づかないで! あと少しでも近づけば……私はここで舌を噛みます!」
血走った目でそう告げるルカキスに、ロボとカリューは困惑した。
「おい、ネオ・ルカキス。いったいどうしちまったんだよ。理由を説明してくれなきゃ意味が分かんねーぜ?」
ルカキスは額に脂汗を浮かべながら、ロボを一瞥する。だが、すぐに視線をカリューに戻すと、先ほどカリューが近づいた分、わざわざ後ろへ遠ざかる。その様子から、カリューのことをかなり警戒しているのが分かった。
これは一体どういうことなのだろうか?
「り、理由は説明する。だがその前にロボ……そいつを、そいつを拘束しろっ!」
カリューを指差しながら、そう強く命じるルカキス。
だが、それにいち早く反応したのはカリューだった。
「ちょっと待て、ルカキス! なぜ俺が拘束されなければならないんだ!?」
「そうだぜ、ネオ・ルカキス、なんでそんな結論になるのか、理由を先に説明しろよ」
ルカキスは上目使いに2人の間で視線を泳がせたあと、おもむろに口を開いた。
「ロボ!……そいつが俺の探していたナゾールだ! そしてそいつは俺に……俺に危害を加えようとしている!」
「……なんだ、そういうことかよ。オレはてっきりナゾールって奴はまた別にいて、そいつとカリューをお前が勘違いしているのかと――」
「ナゾールは仮の名だ! 相手の名前が分からなかったから、便宜上そう呼んでいただけだ。だが、アグアの弟がナゾールだったことですべての謎は解けた。ロボっ! 速やかに……速やかにそいつを捕えるんだ!」
「ちょっと待てネオ・ルカキス。まだ説明が足りてねーぞ。なんでアグアって奴の弟がナゾールだったら、捕えなきゃならねーんだ? その理由の説明がねー限り――」
「理由は説明すると言っただろうがっ! だが、今悠長に説明している暇はない! そいつの血走った目を見てみろ! 完全に俺に憎しみを向け、その身から殺意の波動が溢れているじゃないかっ!」
「……って、そりゃ、いきなり意味もわからず拘束されるようなことを言われたら、誰だって腹も立つだろうぜ」
その時、2人の言い合いに割って入るように、カリューがロボの肩に手を置いた。
「ロボ、もういい。行き違いがあるのは分かっていたことだ。ここは一旦ルカキスの言葉に従おう。話している内に誤解も解けるだろう」
カリューは言い終えると、その場にしゃがみ込んでそっと後ろに手を回す。ロボはため息をつきながらその背後に回り込むと「悪いな」と一声かけた。
ルカキスは、紐のようなものが落ちてないかと周りに目を向けながら「ガッチガチにやらないとダメだぞ! ガッチガチだぞ!」と叫んでいたが、ロボはそれを無視して腹の一部を解放すると、そこから飛び出たワイヤーが瞬時にカリューを拘束した。
「まったく。カリューの大人の対応に感謝しろよ、ネオ・ルカキス」
ワイヤーを締めつける音に気づいたルカキスは、ロープを持参していたロボに感心しながら、少しだけカリューに近づいて、その拘束具合に問題がないかを遠巻きに確認する。
「ロボ……そんな細いロープで切れたりしないのか?」
「はあ~? オレ様を舐めんじゃねーぞ。これはワイヤーって言って、2tまでの衝撃に耐えるんだ。たとえボスクラスのモンスターでも、引きちぎれる奴はそうはいねー。人の仕事にケチつけるんなら、自分でそんぐらいやりやがれってんだ!」
後半、自分に向けられた文句を完全にスルーしながら、2人のもとに近づいたルカキスは、カリューの縛られ具合をもう1度だけ確認し、ようやく納得がいったのか、額の汗をぬぐいその表情を和らげた。
「ふぅ~。ロボ、ご苦労だった」
「えらそうに言ってんじゃねーよ! それよりとっとと理由を説明しやがれ!」
「そう焦るなよ。それよりも……」
ルカキスは言いながらその視線をカリューへと向ける。するとカリューと視線が合ったが、自分から拘束されることを了承しただけあって、その目に怒りのような感情はなかった。
その目を見ながら、ルカキスはなぜだか少しバツの悪さを感じる。エルフ族全般がそうなのかは分からないが、カリューの目は非常に澄んだ綺麗な目をしていて、ルカキスの中にある、やましい気持ちが見透かされている気がしたからだ。
「え~と、確か名はカリューとか言ったな――って、村の名前と同じじゃないか!……なんてな、ハハッ。まあ、そんなことはどうでもいい。悪かったな。ここまでするつもりはなかったんだが、ロボのことを考えると、念のためにお前を拘束するより他に手がなかった」
「はあ~!? お前、なに人のせいに――」
「だが、カリュー! お前は勘違いしている! お前は俺がアグアを見殺しに……っていうか、カリ・ユガに追放されるのを、指をくわえて見ていながら、自分だけのうのうとこの地に舞い戻って来たと思ってるようだが、それは違う! そこには深い事情があったんだ! だが、そんな俺の言い分を聞こうともしないで、お前はドナという性悪女と手を組み、まんまと俺をこのトラップ満載の地に誘い込んで、あまつさえ俺の命を奪おうなどと――」
「待て!……ルカキス、お前は見たのか!? 兄がカリ・ユガへ追放されるところを、その目で見ていたのか!?」
「いや、だから別に指をくわえて見てたわけじゃなくて、俺だって助けたかったさ。でも相手は――」
「違うんだ、ルカキス! 別に咎めてるんじゃない! 俺は知らないんだ。兄がカリ・ユガに追放された本当の
「待て、待て、待て、待て、ちょっと、たんまっ!」
2人が白熱したトークを交わし始めた途端、それを制するようにロボから声がかかった。
「お前ら、勝手にいろいろ話し始めんなよ。傍から聞いてるこっちは、話についていけずにチンプンカンプンだぜ。どうせなら俺にも分かるように詳しく全部聞かせてくれよ。カリ・ユガなんて名前が出てくるあたり、ただごとじゃなさそうじゃねーか? それに話せば終わりってことでもねーんだろ? もしかしたら俺にも関係ねー話じゃねーかもしんねー。3人で情報を共有した方が得策だとは思わねーか?」
ロボの提案に3人はそれぞれに目を合わせる。
「俺は別に構わない。……だが、その前に2つ、確認したいことがある」
そう言ってカリューが視線を向けたのは、ルカキスだった。
「な、な、なんだ!? 何を確認するつもりなんだ!?」
ルカキスは、カリューの断罪を下そうとでも言わんばかりの視線を受け、僅かに動揺する。しかし、ロボがそれをフォローするため、言葉をつけ加えた。
「いや、お前の寝てる間にカリューと少し話したんだが、お前とカリューの間にはどうも行き違いがあるんじゃないかって結論になってな。カリューはそれを確認したいって話なんだと思うぜ。なあ、そうなんだろう?」
「そうだ」
カリューの同意を確認し、ロボはルカキスに向き直る。
「まあ、お前も何かを勘違いしているようだが、2人とも勘違いしたままじゃ話がこじれるかもしれねー。とりあえず、カリューの質問に答えてやれよ」
ロボの提案に少しの間沈黙したルカキスだったが、やむを得ないといった表情で結局は同意を示した。
その返事を受けたカリューは、ルカキスに真剣な眼差しを向け、最初の質問を口にした。
「先ず、第1点。ここまで来ては疑う余地もないんだが、ルカキス。お前は黄金騎士ルカキスとは別人。それで間違いないんだな?」
「……あ、あ~なんだそのことか」
何かを咎められると思っていたルカキスは、その質問が全く別のものだったことに安堵すると、一気に緊張を解いた。
いや、それどころか自分の得意な場面がやってきたとでも思ったのか、少し男前の感じを取り繕い、キザったらしく言葉を口にした。
「フフッ……真実を知る者もいたとはな。お前の考える通り、王都にいるルカキスを含めた勇者3人は、おそらく女神が用意したニセ者……いや、真っ赤なニセ者だ!」
「真っ赤なは別にいらねーだろ? 言い直す必要ねーだろ?」
ルカキスは横からチャチャを入れてきたロボを鋭く睨みつけると、軽く舌打ちしてから続けた。
「今こそ告げよう、その真実を! 本当の本当に魔王を倒した真の勇者は、お前の兄アグア! そして俺にほのかな恋心を抱く可憐な少女セレナ! 最後に、魔殺しの異名を持つ天才剣士、この俺ネオ・ルカキス! その……その俊足3人トリオこそが、本物の勇者なのだ!」
「俊足トリオってなんだよ。全く関係ねーだろ。思いつかなかったんなら言わなくていいんだよ。って、その前の天才剣士って、どこがだよ。しかも、勝手に少女に恋心抱かせてんじゃねーよ。……つーか、突っ込みどころ満載過ぎんだろーがっ!」
「うるさい、ロボ! お前は横から口を挟むな!」
「お前がデタラメぶっこいてるから――」
その時、2人の会話に割って入るように、カリューが言葉を差し挟んだ。
「その口調からすると、お前もあの女神がおかしいことに気づいているようだな、ルカキス」
「気づいているどころか、俺はあの女神にもう少しで――」
「まあ、待て、待て! 細かい話はあとだ! それよりカリュー。お前、今のネオ・ルカキスの話を真に受けてんのか?」
この問いに、カリューは僅かに眉根を寄せた。
「真に受けてる? いったい何のことだ?」
「何のことだじゃねーだろうが。こいつは今しれっと、自分が勇者だなんてことをのたまったんだぜ?」
「ああ……それについては問題無い。それは分かっていたことだからな」
「なっっ!?」
カリューの返事に、ロボは思わず驚愕の声を上げた。
『分かっていたこと』だと? まさか、こいつの言った通り、マジでこいつが勇者の1人だったってのかよっ!?
あの剣技で!? この性格で!?
ありえねーっっ! もし、あり得るとしたら魔王はどんだけヘタレだってんだ!?
……いや、今のオレとネオ・ルカキスの関係性を考えれば、あり得ねー話でもねーか。オレほどの実力者が、何の因果かこんな野郎と行動を共にしてるんだ。3人の勇者のうち、残り2人が相当に優秀だった可能性はある。
だが、それにしても、こいつが勇者に選ばれるか? 人選は女神がしたに違いねーが、何を思ってこいつを勇者に選ぼうと考えたんだ?
そんな思いで驚愕にあえぐなか、チラッと窺い見たルカキスは、カリューに認められたこともあって、顔の面積から考えて違和感を覚えるほど、その鼻の先を伸ばしていた。
人を見下すようなその目つき。そして『なんだいロボ。何か言いたいことがあるなら言ってみたまえ』とでも言いそうな、非常に挑発的な表情。
その態度に憤慨したロボは、怒りをぶちまけそうになったが、今回はルカキス1人が言っているのではなく、その発言をカリューが支持してもいる。
先ほど会話を交わした感じからも、カリューが嘘をつくとは思えなかったし、確信を持って答えたその同意は、信用の置けるものだった。
ロボは渋々ながら、その事実を認めないわけにはいかなかった。
「なんだい? そんな質問なら、いくらでも答えてあげるよ? カリュー、どんどんカモンしてきなよ! ユー、もっと俺に聞いちゃいなよ!」
図に乗るルカキスの口調に、持ち上がりそうになる右手を必死で抑えながら……
「俺が聞きたいことのもう1点は、ルカキス。お前の名前のことだ」
カリューがその質問を口にした途端、しかしルカキスの表情は一変した。
さっきまでのハイテンションはどこへやら、額には瞬時に汗が浮かび、あきらかに動揺しているのが見てとれた。
それを見たロボは、自分の中に2つの気持ちが生じるのを感じた。
先ほどまでのルカキスの不快な態度が、釘を刺されたように治まったことに『ざまぁねーぜ!』と清々する気持ちは確かにあった。しかし、この名前に関しては、ルカキスの過去のトラウマであり、触れてはいけないものだという認識がロボの中にはあったのだ。
しかも、それについてはカリューにも伝えた筈であり、それを穿り返そうとするカリューの質問に、ロボは怒りにも似た感情を覚えていた。
困惑するルカキスの態度を見かねたロボは、そこにすかさず助け舟を出した。
「おい、カリュー。事情はさっき説明しただろう? 誰にでもその心の中に言いたくないことの1つや2つ――」
「違う!」
だが、ロボのフォローは、カリューの言葉で即座に打ち消された。驚いてカリューを見たロボは、予想以上に真剣なカリューの様子に思わず黙り込んでしまった。
「……違和感は名前だけじゃないんだ。ルカキスの振る舞い、声音、その身に纏う雰囲気。それら全てが俺の知るルカキスとは違っている。まるで、別人のようにだ! にもかかわらずそこにいるのが、本物のルカキスで間違いないことは分かっている。エルフはその特性で、人の個体差を完全に見抜けるからだ。では、この生じた矛盾をどう説明すればいいのか? その答えが、お前の持つネオ・ルカキスという名前にあると、俺は思っているんだが?」
カリューはその答えが非常に重要であると言わんばかりに、真っ直ぐにルカキスを見つめた。話を遮られたロボも、カリューの態度に、この質問には何か意味があるのかもしれないと思い直して、口を差し挟むのをやめた。
一方、答えを迫られたルカキスはというと、やはり渋い表情を浮かべたまま固まっていた。この質問に関しては、簡単に答えられない2つの事情がルカキスの中にはあったのだ。
その1つは、ネオ・ルカキスという名前が自分で考えただけの、嘘っぱちの名前だということである。
ルカキスは記憶をなくしたせいで、本来のルカキスという名に愛着など持っていなかった。逆に名を手に入れた(それが自分の名前だと確信できた)時に敢えて改良を加えた、ネオ・ルカキスという名前には、自分で作ったものを身に付けるような感覚を持っていたし、非常に気に入ってもいた。
ルカキスはそれが本当の名前だと、心底思うことができていたし、躊躇なくこの現実世界に反映させようと勤めてきた。しかし、意外にも(当然?)元のルカキスという名が持つ力は根強く、今までロボ以外の誰にも、ネオ・ルカキスという名を浸透させられなかったのが現状である。
それでもルカキスはネオ・ルカキスという名を、どれだけ時間がかかろうとも推し進めていき、いずれはこの世界に確かな根をはれるよう、育てていく心積もりだった。しかし、ここに来てのカリューからの問いかけは、そのルカキスの決意を大きく揺るがすものだったのだ。
カリューの問いに、自分はネオ・ルカキスだと押し通すのは簡単なことであり、またルカキス自身、望むものでもあった。だが、ルカキスは天邪鬼な性格を有してはいたが、論理的な思考のできない人間ではなかった。ここでそれを押し通すことが、話をこじれさることを十分理解していたのだ。
それ以前に記憶の喪失や3年間の空白もあり、既に話はこじれているのである。それを自分の思いを貫くために、更にこじれさせて良いものだろうか? ルカキスの中にはそんな葛藤があったのである。
そして、もう1つが、記憶喪失シンドロームの問題である。
これは改名の説明をする際、どうしても避けては通れないのだが、だからといって『僕、記憶喪失なんだ。てへぺろ』と簡単に打ち明けられない理由が、ルカキスにはあった。
それは――魔性の占い師ドナ編――で僅かに登場した、ルカキスの中に巣食う別人格の存在である。
ルカキスは自分の中にいる別人格のことを、密かに『アクマイザー』と呼んでいるので、以下それを流用して、少しだけルカキスの過去に触れ説明を続けたいと思う。
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