8話 記憶障害
町に戻ったルカキスは、あまり気乗りしなかったが、昼食をとれるのが酒場くらいしか思いつかず、嫌々ながらその扉をくぐった。
カランコロンカラン。
扉の鈴の音が嫌な記憶を思い起こさせる。だが、店内に一歩踏み込んだところで、ルカキスはそのまま後ろにズッコケた。なぜなら、こんな真昼間から、あの忌まわしき奥のテーブル席を陣取り、ドナが既に酒をかっくらっていたからである。
ドナッッッ!?
当分顔も見たくないと思っていたが、こんな時間に出くわすとは……!?
いや、待てよ。これは好都合かもしれない。あいつがウソをついていたとは思わないが、あいつの言う通りに森を進んだにもかかわらず、俺はカリューに辿り着けなかった。それというのも、言葉足らずのあいつの占いが原因の可能性もある。
ここは何としてでもあいつを問い質して、追加の助言を聞き出してやる!
……だが、あの女が素直に俺に助言してくれるだろうか?
いや、あれほどの大金を払いながら、俺に内容がきっちり伝わってなければ、あいつの言う粛清とやらを、あいつ自身が被ることになる。それは女にとっても都合が悪い筈だ。そのことを持ち出せば、俺に助言しないわけにはいかないだろう。
そう結論づけると、店員の応対も無視して一直線にドナのテーブルへと向かった。
「こんにちは。こんな時間から酒が飲めるなんて、いいご身分ですね」
既に失うものの無いルカキスは、いきなり挨拶の言葉にも嫌味を交え、睨みつけるような視線をドナに向ける。
だが、その言葉が聞こえているのかいないのか、ドナはルカキスを見ようともしない。そのことに怒りを覚えたルカキスは、ドンッとテーブルを叩くと、そのまま顔を近づけ、凄んだ声音を使う。
「無視しないでください! 金が無くなったら僕はもう用済みですか? でも、残念ながらあなたの言った通りに森を進んだのに、僕はカリューに辿り着けなかった。このままではまずいんじゃないですか? 僕がカリューに辿り着けなければ、あなたの占いは成立しなくなる。そうなれば、あなたは占いに不釣り合いな報酬を――」
「あら。誰かと思ったら一昨日の。まだこんな所をウロウロしていたの? てっきり昨日のうちに町を出たと思っていたのに――」
「出られないからここにいるんですっ!」
ひときわ大声を上げて、ルカキスはもう1度テーブルを叩いた。しかし、その行為に、ドナもようやくその表情を真剣なものに改める。
「恫喝……しているのかしら? 交渉の選択としては愚の骨頂ね」
「い、いや、そんなつもりは――」
「拉致があかない時は私も使うし、その方が話が早いこともあるから、手段として認めないわけじゃないけど、状況をわきまえないと逆効果になることも多い。あなた知らないの? 北風が太陽に敗れたのをきっかけに、その後自らを南風にまで昇華させた、あの有名な成りあがり任侠活劇を。力一辺倒ですべてをこなせるわけじゃない。時には優しく包み込むことが、解決の糸口になることだってあるのよ? まあもっとも、それが私に通用するという話ではないんだけどね、ウフフ。ともかく、あなたには向かない方法だと思うわ。恫喝がきくかどうかの判断もできない、あなたのような人にはね」
少し冷静さを欠いていたのを自覚するルカキスは、素直に自分の態度を詫びた。
「ぐっ……す、すみません。感情が先走ってしまって。そんなつもりはなかったんですが……」
「でしょうね。敬語を崩してなかったから、脅すつもりはなかったんでしょうけど、だとしたら、もう少し感情はコントロールしないといけないわね。人を動かす方法はいくらもあるけど、あなたのように感情を隠せない不器用な人は、下手な小細工をしたり、優位に立とうとはしないで、誠心誠意、正直な気持ちを伝えるのが向いていると思うわよ。……でも、それも難しいかもしれないわね。天の邪鬼トーナメントで上位入賞しちゃうくらい、あなたは思っていることを素直に口にできない人なんだもの……ね、○○ピ○君」
「チ、チ○○○君!?」
「あら、違った?……あなた○○○ン君でしょ?」
○ョ○○君っっ!?
な、なんだ、そのダサい名前はっっっ!?……いや、だがなんだこの感覚は!?
俺は……俺は……その名前を知っている!
知ってるどころか、なぜか懐かしいような……妙にしっくりくるような……ルカキスという名を聞いた時とは全く違う、俺の中の何かを刺激する……そんな……
チ○○ンという名は、ルカキスの中の何かに符号しそうになっていた。
それが封印されたルカキスの記憶と、関係があったのかは定かでない。だが、もう少しでその鍵に触れようというところで、ルカキスは頭を抱えながらその場にしゃがみ込んでいた。
「ぐっ……うぐっ……あ、頭が……」
「どうしたの!?……大丈夫?」
ルカキスの身を案じるように、慌ててドナも椅子から立ち上がる。だが、そのままルカキスの意識はフェードアウトし、眠ったように動かなくなってしまう。
ルカキスの傍まで近づいたドナは、肩に触れ身体を揺り起こそうとしたが、下手に動かしてはいけない可能性を考慮して、すぐさまカウンターの方に向き直った。
ドナと客とのトラブルは良くあることなのだろう。2人に注意を払うことなく、女性店員はカウンターにもたれて欠伸をしているし、バーテンはグラス磨きに余念がない。
『ねぇ、ちょっと!』
ドナがそう店員に呼びかけようとした刹那、その腕は強く掴まれていた。
「えっ!?」
驚いて振り返ったドナは、ルカキスの顔を見た途端、全身に鳥肌が立つのを感じた。そして、その手を振り払うと、急いで後ずさりしながら距離をとる。
「あなた!? いったい……」
ルカキスはその身を起こすと、ゆっくりとその場に立ち上がる。そして、その視界にドナをおさめると、おもむろに口を開いた。
「……女。余計な話はしなくていい。カリューへはどう進めば辿り着けるのか、それだけを俺に伝えろ」
威圧感のある眼光、口調、声音、雰囲気、そのどれもがルカキスとは似ても似つかない。ドナは言葉を返すのも忘れて、茫然とルカキスを見上げながら、ただ頷く以外に返答のすべを持たなかった。
そのリアクションに、満足そうに微笑んだルカキスは、ポツリと言葉を漏らす。
「お前は頭が良さそうだ。俺は頭のいいヤツは嫌いじゃない」
そう言い終えた途端、印象的な笑みは消え、ルカキスはまた意識を失った。
膝から崩れ落ち、前のめりに倒れそうになったところを、なんとかドナが抱きとめる。そして、ルカキスは意識を取り戻した。
「……あ、あれ?……なんだ?」
目覚めたルカキスの両肩を支え起こしたドナは、真剣な表情でその顔を覗き込む。
「戻った?……みたいね」
その声にドナを見たルカキスは、大慌てで後ろへ飛び退き、激しく顔を赤面させていた。
「ど、ど、ド、ド、ドナさんっ!?」
ルカキスが直面した状況は、今まさに自分とドナが、口づけを交わそうかと言わんばかりの密着状態だった。もちろんキスの経験などまだないルカキスは、あまりの出来事に心臓は早鐘を打ち、なぜか自分の身体を両手で抱き、乙女のように貞操を守るポーズをとるのだった。
いったい、どうしたというんだこの状況はっ!?……なぜ、こうなったのかが全く分からんっ! 思い出せ! 何があった!?
ルカキスは焦りながらも、こうなった経緯を自分の記憶の中から大急ぎで手繰り寄せる。
……先ず、カリューへ辿り着けなかった俺は、メシでも食いながらその原因を考えようと、この酒場までやってきた。そして、酒場でこんな早い時間から酒浸りになっている、占い師ドナを見つけた。
ルカキスは周りを見回しながら、ここがまだ酒場であること。そして目の前にドナがいることに関して、思い返した記憶と齟齬がないことを確認する。
そこまではいい。今の状況を考えても、それからさほど時間は経ってないようだ。だが、ここから。ここからがどうにもあやふやだ。
俺はカリューへ辿り着けなかったことを伝え、追加の助言をもらうべくドナの席へ歩いていった筈だ。その筈なのに、どうにもそのあたりから頭がふわふわしていて良く思い出せない。そして、どのタイミングかは分からないが、俺の意識は途切れてしまった……
目覚めた状況から考えても、それほど長時間のことじゃない。おそらく、失ったのも直近の記憶だけだろう。ということは、過去経験していたものが、またぶり返した。そう考えるのが妥当なところか。
この前は喪失量のあまりの膨大さに、そんな持病があることすらも忘れていたが、まだこの症状が現れるところを見ると、俺の『記憶喪失シンドローム』は、今も絶賛継続中ということになる……
くそうっ!
それはつまり、奴がまだ俺の中にいるってことじゃないか!
魔王との戦いで、奴にも何かあったんじゃないかと、密かに期待していたのに……
だが、今回はレアケースだな。奴が現れる条件が揃っていたとは思えないし、これほど短時間の記憶を失ったことは、過去なかった筈だ。
この女、俺に何をした? 或いは何を言ったんだ?
いや。だが、そこを追求すべきではないか……
どうにか現状を把握したルカキスだったが、今回の意識が途切れる現象は、どうも初めて経験したわけではないらしい。それどころか記憶の喪失原因について、心当たりもあるようだ。
やはり、ルカキスの抱えていた症状は、単なる記憶喪失ではなかったようである。
本人はなぜか記憶喪失シンドロームと、病のように命名しているが、その後のセリフから考えても、それが病気でないことを、ルカキス自身もおそらく自覚している。その鍵を握るのが、まるで別人のように目覚めた、先ほどのルカキスなのだが……
少し冷静さを取り戻したルカキスは、頬を赤らめながらドナに切り出した。
「……ドナさんは、僕のことが好きなんですか?」
その質問に一瞬、怪訝な表情を浮かべたドナは、すぐに相手の思考を理解し、口もとに笑みを浮かべた。
「ウフ、アッハハハハ、さっきの状況をそう理解したということなの? ウフフ、だとしたら、あなたがそうなるまでの経緯を覚えていないのはあきらかなのに……質問がおかしくない? 普通だったら、そのことに関して、何か情報を得ようという発言にならないかしら?」
そう指摘され、ルカキスはきまり悪そうな表情を浮かべる。だが、少しの躊躇を振り払うように、歯切れ悪く返事を返した。
「……いや、これは僕の持病のようなものなので。この前のと比べると全然酷くないし。それに忘れてしまったことはあまり思い出さない方がいいんです。この症状はこだわると、連続して起こることが多いから……」
その言葉と態度に、ドナは交わしている会話が、ルカキスの何かの禁忌に触れているのを理解した。そして、先ほど対面した別人格のことを思い出しながら、考えを巡らせていた。
……この子の中には、さっき現れた別の人格が存在している。そして、その人格は私に余計な話をしないよう忠告していた。この子が言っていた、忘却部分にこだわると同じことが連続して起こるというのは、その忠告を無視した場合、再度あの人格が出てくることを示唆している。
それがどういう事態を引き起こすのか? それは、あまり思い出さない方がいいというこの子の発言から、容易に想像することができる。そのことから、この子の記憶の改ざん(忘却?)すら可能な別人格は、体の主導権を握っていて、自在に人格を切り替えられる上に、眠っているのではなく、この子と記憶を共有している存在ということになる……
では、何が起爆剤となってあの人格が現れたのか?
おそらく禁忌ワードは、チ○ピ○というこの子の名前だったのだろう。その名前を聞いた途端、この子は頭を抱えて意識を失ったんだから。
冒険者みたいな恰好をしてたから一昨日は気づかなかったけど、酔いが覚めたあと、私はすぐに思い出した。この子があの大会で何度か対戦した、○ョピ○君であることを。
逆に私が気づかれなかったのは当然だろう。いつも仮面を付けて出場していた私の素顔を、この子が知る筈もないんだから。
名前が禁忌ワードになっていることを考えても、この子が○ョ○ン君であることに疑いはない。でも、この子はその名前を忘れてしまっている。あの別人格が、意図してそう仕向けているようだけど……
フフ、何だか複雑な事情を抱えちゃってるみたいね。でもそうだとしたら、この子は今、なんて名乗っているのかしら?
「……あまり興味はないんだけど、あなたの名前を聞いていなかったわね」
「と、唐突ですね」
いきなり振られたルカキスは少し驚いたが、話題が逸れたことに、少しホッとしていた。
「フフッ、興味がないとは心にもないことを。そういえば、あなたに僕の名を名乗っていませんでしたね。では、リクエストにお応えして、由緒正しき、誉れ高き、真の傑物のみに与えられる――」
「名前は?」
「……ネオ・ルカキスです」
「ネオ・ルカキス? どこかで聞いた名前ね……!?」
僅かに逡巡した後、ドナはその名をどこで聞いたかに思い当たっていた。
この子の名前はネオ・ルカキス。そして、魔王を討伐した勇者の1人が、確かルカキスだった筈。似てるといえば、似た名前ではあるわね。果たして、この一致は偶然かしら?
そういえば、魔王討伐後に国内で起こったいざこざの中に、勇者ルカキスの偽者がどこかに潜伏しているというものがあった。そして、国全体に公示され、王国軍がその捜索にあたっていたけど、その偽物は今もまだ見つかっていない……
まさか、この子が?
ドナはルカキスの顔をマジマジと見つめたあと、その顔に失笑を浮かべた。
その態度にルカキスは僅かにショックを受けていた。
フフ、ありえないわね。この子はトーナメントに上位入賞するほどの天の邪鬼だし、嘘をつくのは挨拶代わりのことだとは思う。でも、国を敵に回すほどの大嘘をつく胆力は持っていない。
考えなしについた嘘が、本人も収拾できないほど、大きくなった可能性もあるけど、勇者の名を騙るリスクが分からないほど子供でもない。
それにおそらく、この子はネオ・ルカキスという名を偽る目的で名乗ったわけじゃない。だとすれば、偽物の捜索があったこと自体、この子が知らない可能性もある。
さっき、この子は『前ほど酷くはない』と、気になることを言っていた。それは即ちさっきのあの状態より、もっと酷い状態があったことになる。さっきのように一時的なものでなく、それがもっと長時間、或いは長期間に及んだとすれば……
この子には無理でも、あの別人格なら国にケンカを売るような行為をしたかもしれない。それを可能にする特異な雰囲気が、アレには備わっていた。
おそらくアレは、多重人格という類の症状じゃない。別の人間の霊魂や、悪魔なんかの憑依が近いけど、これほどの支配力や記憶操作は類を見ないし、主導権を持ちながら表に出ず、体を明け渡している理由が分からない。
だとすれば、これは私の知らない症例である可能性が高い……
「フフ、フフフフフフフ……」
突如笑い出したドナに、ルカキスは怪訝な表情を浮かべた。
「でもね。ダメなのよ」
「……へっ?」
「この世の
その言葉尻のあまりに重く、念のこもった音の響きに、ルカキスは思わず背筋を寒くする。
「私の能力のすべてを賭して、すぐに解き明かしてあげる。そして、虚を突かれたとはいえ、一瞬でも私を威圧し、あなたに従うことを余儀なくさせた事実を、きっとあなたに後悔させてあげる」
不敵に微笑みながら、挑戦的に見据えるその眼光は、ルカキスをとらえながらも、なぜかルカキスには向けられていない。
ドナの視線を受け止めながら、ルカキスはそんな印象を抱いていた。
「ウフフ。でも、あなたの意向には報いてあげるわ。私は女だけど、約束を違えるほど不誠実ではないつもりだから。ね、チョ○○君」
先ほどルカキスに波紋を呼び起こした名を、ドナは挑発するようにつけ加える。
しかし、今度は怪訝な表情を浮かべさせただけで、その心にさざ波1つ立てることはなかった。
おそらくルカキスの中の別人格に、記憶の綻びは修正され、その禁忌ワードに対する防波堤を築かれてしまったのだろう。
だが、ドナにもそれは分かっていたようで、別段動揺している様子もない。
「……ひょっとして僕に言ってます? そんな変な名前で呼ぶのは止めてください! さっきも言いましたけど、僕の名前は――」
「あなた、髭男爵に泊まってるんでしょう?」
ドナはルカキスが名前を口にするより先に、話題を変えてしまった。ルカキスはそこに不満を覚えたが、ドナの性格は既に把握している。ため息ひとつであっさり切り替えると、初めて耳にしたその名前について聞き返した。
「……髭男爵?」
その名に心当たりはなかったが、泊まってるというドナの発言から、それが宿屋のことだとルカキスは理解した。
髭男爵。あの宿屋の名は、確かルネッサンスだった筈だけど?
裏の通り名か、それともマスターのあだ名かな?……って、あの親父、髭なんて生えてないしっ!
「あそこのマスターは顔が広くて、広すぎて、王都パルナまでその顔が伸びるとか、伸びないとか……」
「伸びませんっ!……ただ、顔が広いのは事実かも知れないですね。王都パルナにもツテがあるようなことを本人が――」
「そのツテを使って、西から客引き用にネコ型の何かを極秘裏に仕入れているとか、いないとか……」
「……ああ、ロボットのことですか? いや、別にネコ型じゃないですよ。なんだかズングリムックリした、冴えない中年体型のロボットです。でも、客引き用なんだから、極秘裏に仕入れたわけ……じゃ……」
カランコロンカラン
「って、また、ほったらかしかいっ!」
自分で会話を切り出しておきながら、その途中でルカキスを残してドナは店から姿を消した。何か意味のある会話だったのか、それとも途中で会話に飽きたのかは定かでないが、後にはルカキスの中にスッキリしない気持ちだけが残った。
「なんて奴だっ!……まったく」
しばらく胸の奥のもやもやを、不愉快に感じていたルカキスだったが、既にドナに対する抗体はできている。俄かに切り替えると、当初の目的である昼食をとるため、席についた。
1人になった途端、先ほど起きた意識と記憶の喪失が頭を掠めたが、2、3度頭を振って、やはり考えないことにした。
キス寸前だったドナとの距離感を思い出し、少し赤面したりもしたが、ドナにされた仕打ちが頭を過ぎるや否や『なぜ俺があんな女に、ときめかないといけないんだっ!』と、俄かにその考えも切って捨てた。
最後にドナが、自分ではない誰かに話しているように感じた言葉や、髭男爵のことも気になったが、やはり深く考えるのはやめた。
ルカキスは、あまり物事にこだわらない性格なのである。
それは先天的なものかもしれなかったが、もしかすると思い出せない記憶の積み重ねが、ルカキスの性格をそんな風に変えてしまったのかもしれない。
思いを巡らせているうちに食事が運ばれて来たので、ルカキスは即座に気持ちを切り替えた。
なんとなく気乗りはしなかったが、やはりこの酒場の食事はうまい。ルカキスは舌鼓を打って食事の時間を楽しんだ。
そして、腹もふくれ心が満たされたことで、ようやく自分が肝心なことを忘れているのを思い出した。
そんなことより迷いの森だ! カリューだ!
ドナのせいで、すっかりそのことを忘れていた!
食いながら、カリューに辿り着けなかった理由を考えようと思っていたのに……
なぜ、カリューに辿り着けなかったのか……なぜ?
って、それをあの女に聞こうと思ってたんじゃないかっ!
ルカキスは大慌てで外に飛び出したが、当然そこにドナの姿がある筈もない。
その場でがっくりと肩を落とした。
……まあいい。あの女が素直に助言をくれるとは思えないし、もう少し自分の力でなんとかしてみよう。ここは村と言っても過言でない狭い町だ。どうしても無理だと分かれば、探し出して問い質せばいい。
そう結論づけ、店に戻ろうと振り返った目の前には、鋭い目つきの女性店員が、酒瓶を肩に担ぎながら立っていた。どうやら無銭飲食を疑われたようで、何とかそれを取り繕ったルカキスは、素早く支払いを済ませて、店をあとにした。
とにかく、もう1度森に行ってみよう。そして、さっきより更に注意深く森を進んで行けば、何か重大な見落としを発見できるかもしれない。そう考えながら、ルカキスは再びズレハの森へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます