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 南極点を離れた俺達は、まだ南極大陸を出ていない。一旦、西経60度方向にある南極半島まで移動し今後の作戦を練る。

 ここにも観測基地の遺跡があり、装甲車ごと遺跡の中に隠れる。正直言って、これまで休みなく逃げていたので、疲れた。暫く休みたかった。

「さっきのは何だったんです」

 ミドは『病気』を見た事がないのだそうだ。

「1000年前の生物兵器さ」

「うつるんですか」

「心配ない。あのウイルスは増殖力が強すぎる。この時代の人間に感染すると、次の人間に感染するまでに寄生した宿主を殺してしまう。伝染するためには、ある程度宿主を生かしておいて他所へ移動させなければならないからな。こんな所に人は来ないし、宿主の死体が朽ちてしまえば、ウイルスも増殖出来ずに死んでしまう。だから広まる恐れはないよ」この時代においては大量感染を目的とする生物兵器としては失敗作と言える。

 とは言え、使い方によっては、こんな有効な物はない。なまじの武器より頼りになる。

「それより、あんた、どうする積もりなんだ。俺達は別として、あんたにはどこにも居場所はないぜ」

 グロブの問い掛けに、以前から考えていた疑問を口にした。

「双竜穴を出て行く方法はないのか。外なら総統も追って来られないだろ」

「でも、ロボットなら追いかけられます。すぐに連れ戻されますよ」

 伝助の意見に他の二人も頷く。

「お前達は世界の広さを知らない。たった一人の人間を、地球全体の中から捜し出すのは不可能に近い事なんだよ」

 この狭い双竜穴で育った彼等の感覚では、理解出来ないかも知れない。

「やっぱり無理です。双竜穴を囲っている電離壁に触れたとたんに、体が蒸発してしまいます」

 ミドの言う通りそれでは外に出るのは無理だ。

 考えあぐねていると、グロブが突然口を開いた。

「方法がない訳じゃない。『鬼門』に行けば何とかなるかも知れない」

「何だそれは」

「楼欄の裏側。双竜穴のもう一つの交点だ」

「軌道エレベーターを使う気ですか」

 ミドが驚愕する。

「そうさ。あの前時代の遺物。もともとは、宇宙ステーションの建設のために建てられた物資搬送用の建物。人工が減り宇宙進出の計画も無くなった今は無用の長物だ。その軌道エレベーターの頂上は双竜穴の外。頂上には緊急脱出用のシャトルがある。それに乗って地上に帰れば誰にも手が出せない」

「それこそ無理ですよ。そのシャトルが飛ぶかどうか分からないし、軌道エレベーターに上るのは至難の技です」

 ミドの言葉を伝助が継ぐ。

「そうです。何しろあそこは病原体の保管場所なんですから」

 処刑ショーに使われていたウイルスがどこに保管しているのかずっと疑問だった。レイの病院かとも思っていたが、もし事故でもあったら楼欄は破滅してしまう。

 そんな所ならば、事故が起こっても隔壁を閉じるなり、切り離すなりすれば助かる。

「警備も並大抵じゃないです。殺されに行く様なものですよ」

伝助がなおも反対する。

「後は、電離壁を破壊するしかないぜ。どっちにしても鬼門に行くしかない。電離壁の制御装置もあそこにある」

「俺が電離壁を壊したら、お前達死ぬかも知れないんだぞ」

 俺は二人の顔を見つめた。

「俺はどうでもいいぜ。こんな世界も嫌になったしな」

「僕も生きる希望はありません。でも、電離壁を破壊したら他の人達まで………」

 俺は楼欄の人間がどうなろうが、知ったこっちゃないが、この二人には恩義がある。嫌がる事は出来ない。

「分かった。俺を軌道エレベーターの近くまで連れて行ってくれ。そこで、別れよう。後は俺一人で何とかする」

「旦那様一人じゃないです。私がいます」

 二人はそれで納得し、俺も伝助と言う心強い味方を得たところで軌道エレベーターに向けて出発した。


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