第8話 鉤括弧「」は会話に使う。

「どうもA子です。近年の小説の大部分を占めるのが、会話文です」

「どうもB子です。しかし会話だけで丁々発止のやりとりを行うのは至難の技です」

「再びA子です。そもそも会話文だけでは、誰が何を話しているのかわかりません」

「そのために、後ろに」B子が言った。

「などとつけるのがほとんどお約束になっています」A子が言った。


 言った。言った。言った。この繰り返しを嫌う人がいますが、会話文だけでわけもわからず進む話より億倍マシです。億ですよ億。わかりやすさの桁が違います。

 それでも「言った。」の連発が嫌いな人は、拙作『オチもなけりゃ希望もねえ』(※)からですが、以下のような表現があります。



「もうだめだ。もうおしまいだ。死ぬしかない」 A氏は絶望していた。

「ちょっと待って! 早まらないでください!」 B氏が引き止めた。

「でも『物語の初めに死体を転がせ』って偉い人も言ってますし」 C氏が煽った。

「そんなセオリーがこの作者に通じると思ってんのか?」 D氏が不満を述べた。

「そう。重要なのはこのSSのタイトルからして、オチも希望も無いことなんだ」 E氏が見解を語った。

「だけどよう。俺達の努力で未来を変えられるんじゃねえのかよう」 F氏は勇敢だった。

「そうかもしれない。物語の登場人物が独り歩きするという説もある」 G氏は仮説を立てた。

「俺達が独り歩きすれば、作者もオチを考える気になるかもしれない」 H氏は希望を語った。

 ターン。発砲音が聞こえ、H氏は倒れた。額を撃ち抜かれている。即死だった。

「KI BO Uというキーワードはタイトルで禁止されている」 I氏は冷静だった。

「つまり言ったら死ぬというわけか」 J氏は冷淡とも言える態度で言った。

「俺達はみんな死ぬんだ……」 K氏は絶望した。

「いや、そんなオチらしいオチがあるとは思えないな」 L氏は推理した。

「じゃあどうなるんだ?」 M氏は訊ねた。

「何も起こらないかもしれないね」 N氏は答えた。

「それこそ我々が最も恐れていることじゃないか?」 O氏は動揺した。

「もしかして、このままアルファベットを使いきるというオチなのでは?」 P氏は大胆にも発言した。

「作者がそんなオチらしいオチを考えているわけがない」 Q氏は失望した。

「だとするとそろそろ終わりが見えてきたかもしれないな」 R氏は予想した。

「ああ、もうそろそろだろうな」 S氏は嘆息した。

「突然ですが、皆さんには殺し合いをしてもらいます」 T氏がパクった。

「著作権に訴えても無駄だよ。我々には武器も何もない」 U氏は落ち着き払っていた。

「作者を殺そうじゃないか」 V氏は無駄な提案をした。

「作中人物がどうやって作者を殺すんだよ」 W氏は現実主義者だった。

「もうすぐZ氏が登場するぞ」 X氏が期待を込めた目で辺りを見回す。

「Z氏ならいませんよ。さっき僕が殺しておきましたから」 Y氏は血走った眼でフヒヒと笑った。

 全員がオチを求めて天を仰いだ。ツバメが一羽、青空を横切って行った。



 どうでしょうか。いたずらに末尾の表現を増やしただけでは面白くならないということが分かっていただけたかと思います。


 鉤括弧かぎかっこは、縦書きにしても読める記号です。従って、傍点や“”などの代わりに使うこともあります。たとえば「キーワード」みたいに使うわけです。何らかの事情でもっと強調したいときや引用では、『吾輩は猫である』などのように、最初から二重鉤括弧かぎかっこを使うこともあります。


「ちなみに、会話文の中で『キーワード』を使うときは、普通、二重鉤括弧かぎかっこを使います」とA子が言った。

「今回はこれで終了です。以上、A子とB子でした」B子が締めた。


※作者のpixiv小説より引用

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