第5話 ・黒玉と白玉

八郎は、風呂を出て風呂釜のマキを一本取った。マキは美しくメラメラと燃えていた。


《⁑急いで支度しないとな…》


八郎は家裏の北口から料理場に入った。


《⁑真っ暗だな…えっと》


八郎はロウソクをマキ火で照らし出し火を灯した。料理場がうっすらと照らし出された。


《⌘にゃ?ついた、ついたにゃ〜》


《⁑おっついた、ついた〜》


お互いの声が絡み合う。またまた同時に


《⁑あっ!白玉かっ!⌘にゃ!八郎なのは知っておるぞよ》


白玉は料理場から一段上の6畳間にピョコンと座ってこちらを見ていた。


《⁑お前な!よくもあん時…いや…もう、いいや》


八郎はいつもの調子で物申す元気は無かった。1日に沢山の不思議が八郎を悩ませたせいで疲れていたのだ。


《⌘…疲れたであろう…八郎…》



《⁑ん?あぁ.色々と今日はあってさ、、なあ白玉?》


《⌘にゃ?》


《⁑今日さ…母さんに会ったんだ…》


《⌘…》


《⁑ムシかよ!まぁさ…なんつーか俺、凄く嬉しかったんだ。俺には母さんがいないっていうか?存在すら無いものだった…でも、今日さ…母さんが来てくれたんだ…幽霊みたいなもの?なのかもしんないけど…とにかく嬉しくてさ!》


八郎は白玉に今日の不思議な出来事を全て話した。白玉は、からかう事なく静かに聞いていた様に思えた。その時、白玉の尻尾がボワっと膨れた


《⌘!…来る!!》


《⁑なんだよ!いきなり》


八郎が白玉の行動に驚くと同時に自分が白玉の言葉を理解している事に気がつき再び驚く。白玉が物凄い速さで横回転してロウソクを長い尻尾で消しさった。


《⌘八郎…わらわの言葉が分かるぞよ?》


《⁑なっ!うわっ!どうなってんだ!》


《⌘静かに!…今から何も話すでない!馬鹿助》


八郎は不思議の連続に慣れてきたのか素直に白玉の言葉を飲み込んだ。


《⌘返事はするでないぞ…八郎。そのまま聞くのだ。》


《⁑分かった…》


《⌘声を出すでない!馬鹿助》


《⁑…》


《⌘今から…この家は…とある人間、輩か?…に襲われる事になる…》


《⁑っ!》


《⌘これから何を目にしても動いてはならぬ、誰が死のうとも…石のように動くでないぞ!》


急に八郎の心臓が走り出す。八郎は白玉の言葉を守ると心した。


《⌘雪朧ゆきおぼろ幻影げんえい憑依封印ひょういふういん


八郎の姿が闇にまぎれて見えなくなる。八郎は心の中で叫んで驚いていた。白玉の瞳が月明かりに照らされて光を放つ。


《⌘もう幻は出来たぞよ!…》


ガラガラっと音を立て戸が開く


《そうか…八郎に雪朧か…。なるほど…黒玉が来るって事か》


姿形から見てそれは国正である事が伺える。しかし部屋は暗くて表情はまったく分からない。


《⌘父上様…黒玉は…》


白玉の目が青く光る。国正は白玉が話し終わる前にかぶせて言った。


《もういるぞよ?…か。》


空気が振動し、その後ピタっと振動が止まった。


《●久しぶりの再会だな…白玉!桶狭間の戦場以来か?》


低い男の声が部屋全体から聞こえる。白玉と国正は微動だせず立っている。


《⌘そうだったかのぉ?ぬしこそ何をしに来た?》


白玉は長い尻尾を、大きく不機嫌そうにふっている。


《●そう威嚇するな…白玉。我は嬉しいのだ…白玉に共鳴する、下等な人間を見つけてな…》


《⌘そう言う主こそ、何処の誰ともしれぬ人間と共鳴しているではないか…それと…二つだけ教えてやるぞよ…一つ、下等な人間では無い!ちと阿保なだけぞよ!二つ、主に勝る下等な生き物は、妾は、知らぬぞよ》


姿が見えない輩に対して白玉は一点を見つめて話している。


《●我が共鳴した人間?ふははは…。我が共鳴した相手は…人では無い。鬼神だよ!白玉…我が共鳴契約をしたのはな!羅刹天らせつてんなのだよ!!》


白玉が後ずさりをして光る瞳が驚きを表した。


《●それにな…我は闇を支配する者、白玉は冬を支配する者…つまり…お前と我の力量は明白、、本来ならば共鳴討伐などしなくてもいいのだがな…我の主がそれを許さんのだ…。だぁかぁらぁ…下等な共鳴者を今日は、殺しに来たんだがな…どこにいる?…そこの御老人さんよ》


黒玉は低く鈍い声で話し、国正をギョロッと睨みつけた。闇夜でも分かる不思議な黒い瞳は夜色より暗くて八郎からも良く見えた。


八郎は、心の中で叫んでいた


《⁑頼む、早く帰ってくれ…頼む…》


っとその時、国正が黒玉に話返した


《話が長いな黒猫さんよ!闇を支配するだの?殺しに来た?だのと…っはっはっは。白玉との再会を邪魔しないため!話終わるの待ってたが…ねむくなっちまった!だいたいなお前など………なんだろ?…ん!?どうなんだ?答えよ!………》


国正は黒玉よりはるかに長い説法を始めた。


《⁑親父様……》


国正の日頃と変わらぬ発言をきいてか白玉も八郎も重苦しい空気から解き放たれた。


《⌘本当に八郎の父上様は話が長いぞよ》


と言って白玉が笑った。

国正の説法を全部聞き終わる前に明らかに怒る黒玉が話しをかぶせた。


《●そうか?我は話が長いのか。……なら……御老人よ》


その瞬間、黒玉が闇夜にシュッと消えた。


《⌘!!クニ》


白玉が叫んだが遅かった。国正の背後に濃い闇の霧が現れて黒玉が出現した。


《●死んでくれないかな?弱き人間よ》


次の瞬間、国正の体が物凄い勢いで飛ばされた。棚や机、食器などを巻き上げながら吹っ飛び最後は壁にぶつかり止まった。


八郎は心の中で叫んでいた。


《親父様!!助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ……クソ!何もできねえ》


国正は倒れたままピクリとも動かなくなった。


《⌘尾主の目的は共鳴討伐であろうぞよ?妾か共鳴者のどちらかを殺せば良いのに、むやみな殺生を…猫神も地に落ちたの》


白玉は獲物を狙う猛獣の様に姿勢を低くして長い尾を剣の様に真っ直ぐと伸ばした。すると辺りの気温がどんどん下がりだし空気中の水分が凍りつき、月明かりと共鳴してキラキラと輝き始めた。


八郎は本当に怒った白玉を初めて見たのであった。白玉はいつも攻撃的な態度を八郎にしていたが、それらは遊びなのだとこの時分かったのだ。


《⁑……》


《●この戦国の世に人間一人死んだくらいで怒る猫神か?…笑わせてくれる!もっとも地位の低い猫神だからか?四季を司る四匹の猫女神、春猫、夏猫、秋猫、冬猫だったか?猫神の世界でも美しいと有名な姉妹だったな?……ククク。その中でもっとも美しい冬猫を、今から殺せるなんてな!真っ白な猫を真っ赤に染める快感……我は幸せ者だよ。ククク。》


白玉の雰囲気が明らかに変わった。凛とした白玉が強い口調で話した


《⌘長話は終わりか?雪を汚す汚れた者よ!…氷銀ひょうぎん水鏡すいきょう銀月灯結ぎんづきとうけつ!!》

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