第9話・ 妖刀・夢幻黒煙一閃

八郎は生まれて初めての接吻キスを猫の白玉とした。八郎の初接吻の味は白玉の血の味だった。


《⁑…!ぷ!っぱぁ!》《⌘……》


白玉は瞳を閉じたまま涙が一滴こぼれた。そして、ゆっくりと本当にゆっくりと瞳を開いた。


《⌘…馬鹿……すけ……よのぉ。ふっ…。下手くそな餓鬼ぞよ…。八郎…そなたは妾と共鳴をした、、それどころか…少し変わった契約までしてしまった。》


白玉の失われた体の光が、以前より強く白銀色に輝く。


《⁑白玉?…お前の傷が!?》


白玉に死を招く程の傷口が、白玉の光る体の中でより強く輝き、目に見える早さで治っていく。


《⌘雪白…本当に妾で良かったのか?…人間にとって、こんな化け猫が八郎の……。妾は出来損ないの猫神ぞよ!お前と子供達を助けられなかった…弱き者…。っ!?…嫌…そうか…。雪白が許すならば妾は何も言わない……。》


白玉は妖刀雪白に何かを話しているが八郎には何故か聞き取れない。白玉の視線は雪白から国正に行き。国正は無言の眼光を白玉に向けた。その眼光は何かを伝える眼差しだった。


《ってな事で!八郎よ!お前は白玉と共に生きろ!二度と白玉を傷つけないようにな?はっはっはー!今日はめでたっ!……ぐっは!》


《⁂めでたいな!ち。ち。う。え!》


すでにそこに居たかのように、突然現れた謎の男が、国正の背後に立っている。その顔は黒い布に覆われて何も見えない。


《この太刀は…国?!……っくぁ…!久しぶりの再会が…や。は。り…こんな感じになったか…》


八郎は国正の腹部を見て息が止まる。真っ黒な刀身の刀が貫通して切っ先から血がポタポタと垂れているのだ。


《⁂いや。父上が雪白を持ってるからね…八に渡すと先読みしてたんだ。…作戦通りになりましたよ。八に感謝しないとね。ありがと!八。》


どこかで聞いた事がある声だった。とても懐かしい声。優しい声。頼り甲斐がある声。俺を大切にしてくれた…国一兄さんの…声!?


《⁑……国一兄さん!?なの?…》


《⁂久しぶりだな、八!元気だったか?》


《⁑親父様!…親父様!になぜ!!》


《⁂あぁ…そうだったね。八!今日ね国一兄さんは、津鏡一族を滅ぼしに来たんだよ。ちょっと待っててな!八。早めに、父上を殺すから…そしたら…次は、八だからね。》


国一と名乗る男は刀を半回転ひねる。《グシャ!》


《うぐぅ…!国一…ひねりが足らねえな?何度教えたら分かるんだ!?》


《⁂相変わらず強がりですね…父上。こうですか?フフ》


国一と名乗る男は刀をさらに半回転させた。国正の口から血がドバッと吐き出る。白玉は完全に復活していない体を無理やり動かし身構えた。八郎も雪白を手に取り抜刀の姿勢をとった。しかし雪白は物凄く冷たくなり鞘と鍔が氷で固まり抜けない。


《はっはっはー!なんだか楽しくなってきちまったなー!…おい!白玉と八郎よ。わしの楽しみを邪魔しないでくれんかの?》


国正は、笑顔になりとても満足そうだ。そして国正は白玉を見てから頷いた。白玉は何かを悟った様に頷き八郎を見つめた。


《⁂あぁ…八。を逃がそうとしてるんですね?フフ。無理ですよ。だって、父上は後3秒で死にますでしょ?フフ》


《国一よぉ!お前は強いし賢いよな…ホント、八郎とは、大違いだ!でもな国一?どんなに強くても、どんなに賢くてもよ……俺と八郎みてーな大馬鹿者には勝てねーぞ?

それにな、八郎と白玉に逃げろと合図したのはな……別にお前から逃がすって訳じゃねえんだ……実はな、俺から逃げろという意味なんだがよ?おまえの黒猫もあっけねーし準備運動にもならなかったぞ?……あ。そだそだ。ちなみに今6秒過ぎたぞ!はっはー!話し長くてすまんの国一よ。…んじゃ!久しぶりに国一に稽古してやろうか!》


国正は、素手で貫通した黒刀を掴みとると抜くどころか自ら腹部に全て差し込んだ。


《⁂切腹でもしたいのですか?父上。フフ》


《嫌、この刀をポキっと折りたくなってな!無理かの?》


《⁂妖刀、夢幻黒煙一閃むげんこくえんいっせん。決して折れませんよ。相変わらず、吹っ飛んだ考えをしてますね。父上は!》


国一が話し終わると突然、国正の雰囲気が変わった。


《我が身、鋼の刃になりて、我が身、妖刀と化す。我が身、神器を取り込み、津鏡を写し出す!今、依り代となろう!雪白よ…最後の共鳴!行くぞ!》


八郎の手にある雪白が真っ白な外装に様変わりして青白い妖気が炎の様にゆらゆらと燃え上がる。そして、その妖気が1人の女性と形を変えた。女性は一度、八郎に目を合わせて笑顔を見せてから国正に向かい歩みだした。しかしその女性の瞳からは涙が流れていた。女性は国正の体に完全に吸い込まれて姿が見えなくなった。その後、国正の体色が少し暗くなり、瞳は獣の様に紅色の輝きを放つ。その禍々しさは…そう、鬼の様である。


そして国正が刀身に力を入れていく…そして…


《あ。…すまん!お。れ。た。》


《⁂……!?そうか…やはり貴方は最後まで厄介な人間、いや…化け物ですよ》

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