第一幕 三話 アリア=アーサー・ペンドラゴン

「では、次はわたしが。わたしはカルナと同じく退魔士として、倭国日本で悪しき神秘の存在と戦っているアリア=アーサー・ペンドラゴンです」


 麗しく可憐な女性から発せられた科白。

 ブリーフィング・ルームにいた誰もが沈黙した中、静寂を破ったのは鮮夜の声だった。


「アリアって名前に聞き覚えはないが、それでも〝アーサー・ペンドラゴン〟ってのが聞き違いじゃなければ、あのアーサー王のことじゃないよな?」


 鮮夜の問いにアリアはさも当然のように、はい、と頷いた。

 ブリーフィング・ルームにいるスーペリアーズのメンバーはさらに困惑する。


「えっと……つまり君は、アーサー王の子孫ってことなのかな?」


 スプレッド・レイザーがさらに追及した。


「いいえ。わたしはアリア=アーサー・ペンドラゴン。かつてこのブリテン。いえ、今ではアイルランド・キングダムでしたね。この時代でも語られている伝承に登場するアーサー王です」

「ほ、ほんとにアーサー王なの!? ロンドン出身の僕でもさすがにこれはビックリだよ」


 両手を挙げてスプレッド・レイザーが驚きを表す。

 当然だろう。アーサー王といえば、このアイルランド・キングダムだけでなく、ヨーロッパ全土でクー・フーリンに次ぐほど有名な英雄である。

 倭国日本やその他の国では騎士王アーサーの方が有名に思われているが、地元ヨーロッパではアーサーよりもクー・フーリンの方が遙かに有名であり、人々からの羨望が厚い。

 それでもやはり、アーサー・ペンドラゴンはイングランド。かつてのブリテンを統一するために奔走した王。有名なのは当たり前だ。

 その伝承は現代まで語り継がれており、物語の中では全て男性として記されている。

 けれど、目の前にいるアーサーと名乗った人物は見目麗しい女性の姿をしているのだった。

 筋肉質ではなく、余計な脂肪など一切ない適度に引き締まった体。しかしながら、女性らしさを象徴するかのように肩や胸の谷間が見えている露出が多い服装をして、彼女の美しい胸がよく強調されていた。

 何の目的があるのかはわからないが、これがまさかあの騎士王だとは初見で看破できるものはいないだろう。

 だからこそ、スプレッド・レイザーはアリアに対してアーサー王の子孫なのかどうか尋ねたのだ。

 アーサー王の子孫がこの時代まで生きているのかはわからない。もしくは、桜花のように転生体の可能性。

 けれど、アリアははっきりと自分がアーサー・ペンドラゴンだと断言した。


「ドクター、この女が来るからオレたちに王とは如何なるや、なんて質問をしたのか?」

「まぁ、そう言うことさ鮮夜。かの騎士王なら王としてはピッタリだろ?」


 ドクターの言葉に対して鮮夜は鼻で笑った。


「勝手にすればいいさ。オレはオレでやる。そんな奴と慣れ合うつもりなんてない」

「そんなこと言ってさー。何だかんだいつも僕たちを助けてくれるよね、鮮夜は」


 席を立とうとする鮮夜に、マスクの上からでも何故かスプレッド・レイザーがニヤニヤしているのが伝わってくることに、鮮夜はうんざりしていた。


「アンタたちヒーローはどうしようもないし、死なれると寝覚めが悪いからだ。だが、そこの女アーサーは違う。というか、お前らはそいつをアーサー王と認めるって言うのか?」

「どうして君はアリアにそんな酷い態度を取るんだ。アリアが嘘をついているとでも思ってるのか? なら、俺が保証する。アリアは正真正銘、あのアーサー王だ」


 鮮夜はカルナを睨みつける。

 そして、ゆっくりと姿勢をカルナの方へと向けた。


「お前、カルナって言ったな? お前はその女の何なんだ? 恋人なのか?」


 鮮夜の問いに、カルナとアリアは互いの顔を見合わせる。何かしらの意思疎通をはかったのか再びこちらへ視線を戻して深く頷いた。


「ああ。俺はアリアの恋人だ。それがどうした」

「なら、お前の抱く感情は、恋人の欲目だ」

「それは、一体どういう意味だ?」


 鮮夜ははぁ、とため息をついた。

 なら話してやる、と鮮夜は語る。自らが知るアーサー・ペンドラゴンという騎士の王について。


「ここにはオレよりもロンドン出身のヒーローに、エリンの時代を生きていた神現者、そして宇宙一の頭脳を持った異星人もいる。間違いがあったら言ってくれ」


 そうして鮮夜は始める。


「話してやるよ。アーサーが王に相応しくない、その理由をな」

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