EXブレイカー

天風春雷

プロローグ

この世界における何度目かの春、俺は今、日本にあるどこかの空港の椅子に座っている。

きっとこの時期の学生は春休みを浮かれ気分で満喫しているだろう。

当然、俺もそうしているつもりだった、だったんだけどな…


「君が『秋峰 陽』君かい?」


突然背後から質問される。

俺は後ろを見ると、先ほどまで空席だったはずの場所にいかにも怪しい格好の男(?)が座っていた。


「そうだけど、人に名前を訪ねる前にまずは自分から名乗らないか?」

「その必要はない、私は『秋峰 陽』君を学園まで連れていくだけの役割なのだから」


最初から分かってるなら聞くなよ。


「じゃあ断るといったら?」

「あなたにその権利はありません」


周りを怪しい格好の集団に囲まれる。

あのやろう…なんつーとこに転入させてんだよ…

陽は小さく舌打ちをしながら両手を上げる


「分かったよ、大人しく付いてきゃいいんだろ」

「そうして頂けると助かります、さぁこちらへ…」


男が先導して歩き始めたので、俺は大人しく付いて行く。

今暴れてもいいだろうが一般人も居るんだから控えないとな。

しばらく歩き続けると空港の出入口まで辿り着く。

外には馬車が一台停まっている。


「マジ…?」

「さぁあちらへどうぞ」


先導していた人物が馬車の方に誘導する。


「…なんで?」

「どうしました?」

「今時おかしいでしょ、車ぐらい所有してるでしょ。それがなんで馬車なんだ?」

「規則により我が学園は世界と共存することが定められています。それ故に我が学園では、車などの世界に害為すものは所有できないのです。それに車などよりこちらの方が幾分も速いですよ」


俺は「ふーん」と言いながら納得しない顔で相づちを打つ。


「百聞は一見にしかず。とにかく乗ってみるといい」


俺は半信半疑で馬車の扉に近づく。すると扉が自動的に開き始める。

どう見ても木造なことに驚いていると、男が馬鹿にしたように話しかけてくる。


「それくらいで驚いていてはこの先大変ですよ」


「やかましいわ」と心の中で突っ込んだのはさて置き、疑問に思うことがある。

馬車の内装は極めて普通だが、腰掛ける所が4人分しかない。

今の人数は俺を含めて10人いる。


「座るとこ4人分しかありませんが?」

「心配しなくとも問題ありませんから、早くお座りください」


疑問が晴れないままに馬車の乗り込み、奥の方に座る。

そして俺の後に続いて、目の前に最初の男、その隣に女、残りの1人は俺を囲んだ7人であみだクジをして当たった1人が乗り込んだ。

外れた6人の嘆いている姿が見えたが、彼らはどうするのだろうか。


「出してくれ」


目の前の男がそう言うと鞭の音も聞こえずに馬が走り出す。


「あれ…御者は?」

「俺達にそんなのはいらない」


馬車の外から声が聞こえる。

だが御者台には誰もいないし、窓に誰かが掴まってる訳でもない。


「お前の目の前に居るだろうが…見えねぇのかよ」

「俺の目の前?」


目の前で座っている男を見つめる。


「私ではありません、外にいますよ」


こいつじゃなくて外にいるやつ?

じゃあ、もしかして…


「馬か!?」


「やっと気づきやがったか」「思ったよりもにぶちんなんですね~」


馬車を引いている二頭の馬が喋っている。

信じられない状況だ…馬が喋るなんて…


「どうだ、驚いたか」

「いや、そこまで驚いてないな」

「なにぃ!?」「あれ~?珍しくなかった~?」

「確かに一般人から見れば驚くだろう。ただ俺の周りにいた人達とか環境に比べたらなんていうかインパクトが足りねーわ。」


大木を指だけで持ち上げたりする人や、手刀で大きな岩を真っ二つにする人、それらを幼少期の自分にやって見せろと無茶ぶりをする人など、そんな中で育ってきた俺がたかが喋る生き物程度で驚くわけがない。

だから最初の方で勝手に開いたドアに驚いたのは演技だ!………本当だぞ!


「それにしても俺たちに驚かない奴は2人目だ。」「そうだね~」

「2人目?」

「あぁ、無愛想なやつだったな。」「そうそう~」


俺以外に驚かない奴が居るとはな。

そいつもきっと苦労しているやつなんだろうな…


「まぁ、それは追々わかるでしょう、それよりもっと速度を出しなさい、このままだと間に合いませんよ。」

「ヘイヘーイ」「は~い」


そう返事を返すと馬車の速度はぐんぐんと上がっていく。

つか勝手に人のモノローグ読むなよ…


「おや、それは失礼。」

「だから…。いや、もういい…」


ため息をついて、俺は窓の外を見る。

速度が上がり外の景色がものすごい勢いで過ぎ去っていくが、馬車にはなんの影響もないことを考えると何かしらの処置が施されてるんだろう、もう突っ込む気力もでない。

ただ俺は、このとんでもない速度で過ぎ去っていく景色を見ていると、ここに至る経緯を鮮明に思い出す…


……なぜこんなところに俺は居るんだろう。

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