全ての優しいifを殺して

粟国翼

よくあること

よくあること


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 いやね、よく在ることっすよ!


 今までミュージシャン目指すとかって言って家に生活費を入れたことの無い親父が、結婚記念日にソープに行って豪遊したのがばれてキレた母さんに包丁もって追っかけられてる姿なんてのは。


 「……兄ちゃん」


 「荷物まとめろ……ありゃだめだ」


 クリスマス寒波吹き荒れる丑三つ時。


 俺と弟は、修羅場を繰り広げる両親を尻目に祖母の家に向けて自転車をこぎ出した。


 「兄ちゃん!」


 「何だ?」


 「メリークリスマス!」

 

 「ぷっ、おう! メリクリ!」


 俺たちの笑い声は、寒波の風に消えていった。


*****************





 事後報告、親が離婚したんで爺ちゃん家に引っ越しました。


 俺は高校三年なんで転校無しだけど、小4の弟は近くの小学校に転校した。


 爺ちゃんの家に住んでるのは、爺ちゃん、婆ちゃん、博叔父さん、武伯父さん、武伯父さんの娘で6つ下の小4の渚、小1の風に新参者の俺、玉城圭に弟の玉城剣と母の玉城節子の計9人の大所帯で暮らすようになって一年が経過しようとしていた。


 「う~さみ~……」


 俺の朝の日課。


 朝5:00に新聞配達のニーちゃんから直で新聞を受け取るとこから一日が始まる。


 新聞を受け取ると、急いで家に駆け込みポットから注いだお湯で茶を入れてチラシと一面記事の確認をする。


 お? ケン●のチキン、ゆず湖沼とか美味そ~。


 「じじ臭……」


 背後から辛辣な言葉をかけて来たのは、従妹の『なぎさ』小学校4年生。


 女子にしては短めのベリーショートの髪に、このくそ寒いのに黄色の半袖のTシャツに白の短パンという真夏の格好をし額には薄っすら汗までかいている。


 ……コイツの周辺だけ夏でも来たのだろうか?


 「ピチピチの男子高校生捕まえて酷くない~つか寒くねーの!?」

 

 「うっさい! 居候! 自主的な朝練よ!」


 そういやコイツ空手とか習ってたっけ……。

 朝練かぁ……懐かしい響きだね。


 「そりゃ精の出ることでぇ~」


 「なによ! そのいいか____」


 何か言い返そうとした渚の視線が、泳ぎ俺の頭上を凝視した。


 これってアレっすか?


 「ナニカいるんすか? 渚氏?」


 「血まみれ女の生首が笑いならこっち見てる」


 Ho! 朝5時の生首キタコレ!


 「へぇ~それ美人?」


 軽口を叩く俺に、渚は眉間に皺をよせた。


 「……面白くない、けんならもっといい反応するのに」


 「うわぁ……悪趣味~あいつ怖がりなんだから虐めてくれるなよ~(笑)」


 「アイツの存在価値なんてその程度しか無い!」


 うわっ、正に外道!


 アンタって本当つまんない、霊もあきれて消えちゃったわよ!と言うと、空手少女は風呂場の方へと歩いていった。


 まあね、よくある話っすよ。


 引っ越した先の母親の実家が全員ユーレイ見えます!

 感じます!

 なんてのはね!



 さて、家族そろっての朝飯です。


 リビングに置かれた長テーブルに爺ちゃん、婆ちゃん、ひろし伯父さん、たかし叔父さん、外道従妹の間に怖がりの剣が座りそんで俺と母さんがご飯ををよそって皆に配る。


 今日のモーニングは、味噌汁・白米・昨日の晩の残りのカレーに秋刀魚の塩焼きあとカタツムリ注意の婆ちゃんの無農薬サラダだ。


 朝飯をよそいながら、外道シスターズに挟まれた哀れな弟に目をやる。


 この爽やかな朝だと言うのに剣は顔面蒼白、カタカタと振るえ目には涙を溜め鼻水すら垂れそうな状態で情けなさ全開だ…。

 我が弟ながら将来が楽しみなイケメンだというのに……まあ無理も無い。


 何故なら……。


 ガシャン


 始まったか!


 「ちょっと山城さん! 毎朝止めてって言ってるでしょ!!」


 母さんの怒鳴り声に視線を向けると、絶対に落ちないはずだったテーブルの中央にあったガラス製のサラダの器が何故かフローリングに叩きつけられ、母さんがすかさずどう見ても人が居る筈の無い斜め45度の虚空を睨みつけて怒鳴るし、テーブルに視線を移せば、醤油に手を伸ばした博伯父さんが不意に手を止め何かを避けるように妙な角度で醤油を取ろうとしている。


 爺ちゃんは蝿なんて見えないのに蝿叩きを時折叩き付け、婆ちゃんは聞き取れない呪文?を唱え始め、武叔父さんは蝿でも払うように手を動かした。


 これぞ我が家恒例の『朝のポルターガイスト』だ。


 剣の方を見ると、毎朝の事だというのに顔面蒼白を通り越しもはや土気色になりカチカチと歯を鳴らしている。


 それを満足そうに見守る『外道シスターズ』姉:渚と妹のふうもニコニコだ、ふうはスポーティーな印象の渚と違いゆるふあのウエーブのかかった髪をボブカットにして小1にしては落ち着いた印象の将来楽しみな美人さんだ。


 「剣おにいちゃん」

 

 風の小さな手が、怯える剣の背中を撫でる。


 ザクッ!


 「……!!!?」


 突如、風は持っていた箸を剣の米に突き刺した。


 「今ね……剣おにいちゃんの背中から通り抜けてご飯のとこに居るの一昨日死んだ裏のおじいちゃん……」


 剣は凍りついた。


 「にぃ……にぃ、ちゃ……うぁわぁぁあああああ!!!!!」


 叫び声を上げ、朝食も取らずに剣はその場から逃げ去さった。


 「ふふ……剣おにいちゃんね、ついに昼も一人でトイレ行けなくなったんだって……」


 姉妹は恍惚の笑みを浮かべている。


 お前ら俺の弟をどうしたいんだ!?




 

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