医療魔術師は、もう限界です!
花音小坂(旧ペンネーム はな)
第1話 とにかく、もう、寝かせてくれ
<ジーク=フリード>
闇が恋しい。もう光を見ていたくない。心の底からそう思った。全ての行為を放棄し、その場で倒れ込んでしまいたい。
要するに寝たい……寝たい……痛い……痛っ――痛痛痛痛痛っ!
「痛いって言ってるだろぉが!」
大声で叫んだ。これ以上無いくらい。
「寝るなって言ってんの私はっ!」
助手のオータムに負けじと大声で叫ばれた。
鉄の女。血も涙も完全に無い女。残酷な悪魔。言うと殴られるのでせめて心の中で罵倒する。流れるような銀髪。愛らしく大きな瞳、端正に整った顔立ち。それでいて華奢で長身なので、外面(がわ)だけで判断すれば大陸でも片手で数えられるほどの美人であることは間違いない。しかし、残念すぎることにこの女が有名なのは、その残虐かつ暴力的な性格だ。
「頼むっ! いや、頼みます。寝かせてくださいもう無理なんです限界なんです」
土下座した。これ以上無いくらい心を込めて。
「ダメですよ。15分だけって言ったでしょ! 見なさいよあの患者の列を」
胸ぐらを掴まれた。外を指さすオータム。怪我人がゾロゾロ。
「……もういいじゃん」
呟いた。
「今……何て言った?」
オータムが凄味のある声で尋ねてきた。
どれだけ……どれだけ凄んだってなぁ! 無理なもんは無理なんだよぉ!
「もう疲れたんだよ! もういいみんな死ねぇ死んじゃえばいいんだ!」
そう口にした瞬間、オータムの熱い拳が飛んできた。
「医療魔術師が……そんな事言うなぁ!」
「な……殴ったな! 1日21時間年中無休の俺を……殴ったなぁ」
しかも全力で殴ったなぁ!
「あなただけじゃありません。助手の私たちだって休み無いんです」
「じゃあ、もうみんなでやめよう! この診療所のかんばん下ろそう! 医療魔術師なんてやめ! もう俺を金輪際医療魔術師と呼ばないでくれもう限界なんだよ」
「下ろしません。やめません。あなたは医療魔術師なんです。治療しなさい。治療しなさい。治療しな――」
怖っ……ひたすら同じ言葉繰り返してる。オータムもほとんど寝てないので壊れてるっちゃあ壊れてるな。
「もう嫌だぁ! 誰か助けてくれぇ。誰かぁ! 誰か助けて下さいっ!」
――神様神様神様! もう無理。無理無理無理。無理なんです。
「あなた以外の医療魔術師が全員逃げちゃったんだからしょうがないじゃないですか! あなたしかいないって何回言えばわかるんですか!?」
ウウッ……なんでこんなことに。
「一体いつになったら戦争終わるんだ! 誰か教えてくれ!」
心の叫びだった。もちろん虚しく響くだけ。
「はいはい……雑談終わり。もう患者呼びますよ! 次の方!」
オータムが呼ぶと、患者がまるでゾンビのようにやってくる。
「ちょ……まっ……うわあぁぁぁぁ!」
結局、この日の睡眠時間はその時の15分のみだった。
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