レーン=ダイアール


 診療所の扉を開け、すぐにロスがいる診療室に入った。


「アレ、兄さん。もう帰ったのかい?」


「そんなことより聞いてくれ。セリーナさんの治療法が見つかったんだよ」


「えっ! ほ、本当かい?」


「ああ! これなら、自信ありだ」


「凄いじゃないか。で、どうやってやるんだい?」


「答えは、血を交ぜるだ」


「えっ……」


「セリーナさんは魔力を持たない。で、魔力の源は血だ。だから、他の魔力を持った人と血を交ぜれば彼女も魔力を持つようになるかもしれない。あー、なんでこれに気づかなかったんだろうな。こんな簡単なことに」


「兄さん、あの」


「もちろん! 魔力を持つようになったからって、タイム・ア・ルーラの能力が消えることにはならない。でも、彼女の能力からすればやってみる価値があると思わないか?」


 興奮が未だ冷めやらない。彼女は己の魔力を使っていると言うよりは、彼女を通して他の何かの力が働いている。いわゆる媒介としての能力者であると推測した。それは、魔力を全く持たない彼女だからであって、彼女がそれを持てば未来が見えなくなる可能性も高いだろう。


「聞いてくれ! 兄さん」


 ロスが語気を荒げて俺の言葉を止めた。


「ど、どうしたんだよロス……」


「兄さんは、知らないのかい? かつて史上最高の医療魔術師と謳われたレーン=ダイアールの治療記録を」


「知らん」


「……どんだけ勉強してないんだよ! ほら、読みなよ」


 ロスは棚からボロボロに使い古された本を一冊持ってきた。


「さすがは俺の弟。凄く勉強熱心だな」


「……なんで『さすが兄さん』と言わせてくれないんだよ」


「さ、さぁて。レーンだったよなぁ。何々……」


 大きくため息をつくロスをスルーして、渡された治療記録を開いた。


              ・・・


「これ……」


 一つのページで手が止まった。


「ああ、そうさ。タイム・ア・ルーラじゃなかったが、レーンも不能者の治療法を考案して兄さんと同じ結論に辿りついたんだ」


「……似ているな。まさしく俺がやろうとしていた治療法だ」


 治療記録は読んでいなかったが、レーン=ダイアールは医療魔術師だったら知らない者がいないほど有名な人物だ。当時、治療が困難とされた病気の3分の1にあたる治療法を考案し、それは今なお有効な治療法として引き継がれている。


 そんな偉大な医療魔術師と同じ結論に辿りついたことに、少し誇らしげに想いながらページをめくった。


「……嘘だ」


 それを目の前して、頭が真っ白になった。


「本当だよ。レーン=ダイアールは、それに失敗して患者を死なせた。拒絶反応が起きて……患者は死んだんだよ」


 ロスは重苦しそうに口にした。




 

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