第23話 オータムさんの憂鬱⑦
しかし私の不安に反して、次の人からはまともな医療魔術師候補で心の底からホッとした。
うーん、しかしジーク先生は次から次へと合格を出していく。この人は不合格を出す気があるのだろうか……いや、最初の2人が合格だったのだから、その後の人はもちろん合格なんだけども。
とうとう最後の面接者になった。ジャシャーン=セルアル。
うわっ、セルアル家。遠縁で最強魔術師の家系であるトワイライト家の血筋を継ぐ超名家だ。そして、あの史上最高の医療魔術師と謳われたライダールが創設した超名門クリュウ学院を首席で卒業。その後、大陸の紛争地域を国境を越えて治療して回る『国境なき医療魔術師団』に40年所属、母国のアナン公国に帰国した後は、転々と被災地や紛争地を個人で回っていたそうだ。
なんと言う素晴らしい経歴――そしてなんて嘘くさい話。
そして……いかにも魔法が使えなさそうな老人が入ってきた。
――はい、嘘。
「えっと……じゃあ自己紹介からどうぞ!」
「……え?」
耳に手を添えて聞き返すジャシャーン――耳遠いんかい!
「自・己・紹・介!」
言ってみろ。なんで経歴に大ウソを書いたのか説明してみろ。
「ジャ……ジャシャーンと申すものじゃ! 医療魔術師歴……いくつじゃったっけ?」
物忘れ早すぎでしょ。もはやただのおじいちゃんじゃん!
「ジーク先生……この人不採用でしょ! さすがにこの人は不採用ですよね?」
もはや耳打ちする必要もない。だってあのおじいちゃん耳遠いんだもん。
「いや……この人には何かある」
いったいこの人のどの場面のどこを見てそう思ったのか、ジーク先生、その理由を私に小一時間掛けて説明してください。
「いやいやいや……この人には治療がいるくらいでしょ!」
「採用です!」
ジーク先生が大声で叫んで書類に合格印を押した。もう、私、帰ろうかな。
「わしに全て任せときなさい……若いもんにはまだまだ負けんぞ!」
ジャシャーンがヨボヨボ歩きで帰った後、速攻でジーク先生を睨みつけた。
「ジーク先生……全員採用してどうするんですか!」
「だって誰が凄いかわかんないだろ!」
平然と言ってのけるジーク先生。
――だいたいわかるでしょ。どう見ても不適合な三人いたでしょ。
「多少は選びましょうよ! じゃなきゃ最初から全員採用でよかったんじゃないですか?」
「採用面接……やってみたかったんだよね」
ジーク先生がにこやかに答えた。
「……おまえいい加減にしろよこら」
取りあえず全力でジーク先生を殴った。
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