魔狼と魔弾
各務 杳
金色斑
序/
ガリガリと爪がやわいとかたいの狭間を掻く。
ごりごりと牙が顎の動きに合わせて小刻みに鳴る。
腹の内に灯った熱は温かく、心臓を真綿で包んだような心地良さに虚脱した。
泥濘に横たわる。硬質に皮膚が擦れるが、そんなもの、この多幸感の輪郭を滲ませる事さえできはしない。
―――嗚呼、なんて。
恍惚が、神経の隅々まで行き渡る。零れる吐息にさえ震え、感じ入り、あらぬ処がジワリと濡れた。
―――なんて、こうふく。
きっと今、この瞬間、この世でもっとも幸福な存在と為ったのだ。
赤が、幸福を与える色が。
尊い色が視界いっぱいを満たしている。
燦めく色彩、澱んだ灰色を染め抜く深紅。
―――此処は、何時か出で、そして還る、羊水の内側だ。
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