第3話 女神の使者

「ここは……」


 目を開けると見慣れない天井が見えました。

 どうやら私は柔らいベッドの上に寝ているようで、肌触りの良いシーツが気持ちがいいです。

 視線の先では木で出来たプロペラが回っています。

 『シーリングファン』というやつです。

 照明も一緒になっていてお洒落です。

 部屋の壁やカーテンは白。

 開け放たれた窓からは爽やかな風が入っています。

 部屋の造りや視界に入るものはシンプルですが、ビーチが近くにある南国リゾートホテルのような印象です。

 ……ここ何処?


「ちっ、もう目が覚めやがった……」

「リン! 静かに!」


 聞き慣れない少女の声が聞こえました。

 誰なのでしょう。

 そもそも私は何故寝ているのでしょう。

 確か……私は……。


「……そうだっ!」


 気を失う直前の記憶が蘇り、飛び起きました。

 私の体は……!

 夢であって欲しい、そう願いながらベッドに沈む体に目を向けたのですが……。


「そんな……」


 願い虚しく、目に映るのは別人であるはずの身体。

 肌の張りは素晴らしいけれど、こんなに体積は無かったはずです。

 夢では無かった……私の身体は……。


「ご気分はどうですか?」


 自分もどきのことを思い出していると、声を掛けられました。

 そちらに顔を向けると、紺色のスカートに白のエプロンをつけた『いかにもメイド』な姿をした少女が立っていました。

 私を心配するような表情で覗き込んでいます。

 その後ろにももう一人、腰に手を当てつまらなさそうに立っているメイド少女がいます。


「貴方達は……?」


 さっき聞こえた声は彼女達でしょう。

 やはり知らない顔したが……。


「貴方達は……双子?」

「あ、はい。私はリコと申します。こちらはリンです。本日より、あなた様のお世話を仰せつかりました」


 茶色の髪に橙の目、整った顔の造形が一緒です。

 リコと名乗った近くにいるメイド少女は髪を後ろで一つに束ねたポニーテール。

 リンと紹介されたつまらなそうな表情のメイド少女は、緩やかに波打つ肩まである髪を束ねずにそのままにしていて、左の目元には泣き黒子があります。


 表情が違うからか、印象は全然違います。

 リコちゃんは元気でほんわか、リンちゃんは大人びていてツンツン、そんな感じです。


「私のお世話?」

「はい。あなた様の専属メイドです」


 メイドさんです、リアルメイドさんです!

 意味も無く興奮してしまいます。

 写真を撮りたいです。

 ……なんてことをしている場合ではありませんでした。


 私は今、自分の状況が分かっていません。

 それなのに『お世話』と言われても何のことやら。

 そんなことより、私は自分の身体に戻りたいし帰りたいです。


「ご気分が問題なければ、お伝えしたいことがあります。この場所についてです」

「この場所?」


 混乱して俯いている私を労わるように、穏やかな口調でリコちゃんが話し掛けてきました。


「はい。後ほど他の者より詳しい説明がありますが……目覚めてお知りになりたいようなら先にお伝えするよう仰せつかっております。お話致しましょうか?」

「……お願いします」


 まずは落ち着くようにとお水を渡されたので、それを飲み干しました。


「ありがとう」

「……では、宜しいでしょうか?」

「うん、お願いします」


 私が話を聞く心構えが出来ていることを確認し、リコちゃんは話し始めました。


「此処は……あなた様が生まれ育った世界ではありません」


 リコちゃんの口から語られた話は、真面目に話しているのかと疑ってしまうような信じられないものでした。

 ここは私がいた世界ではなく、『ノアソフィア』という異世界であるということ。

 私はこの世界の女神ソフィアによって召喚された『女神の使者ソフィアドール』と呼ばれる存在になったということ。

 そして自分の世界に戻るには、ソフィアから与えられた使命を全うしなければならないということ。


 信じがたいですが、私はすんなり受け入れました。

 何故なら、今実際に『身体を奪われる』という信じられないことが起こっているからです。


「リコちゃん……私の身体……あがっ」


 この身体についても何か知っているかもしれない、そう思って聞こうとしたのですが……またです。

 心臓が痛くなり、話すことが出来ません。

 思い出せばいつもこの痛みが起こるのは、名前を言おうとしたり、この身体について話そうとした時です。


「どうされました!?」

「だい、じょうぶ……」


 話すことを止めると痛みは止まります。


 もしかして、私の身体に起こっていることを話そうとすると痛くなる?

 試してみましょう。


「私の身体は本当は……白っ鷺……ぐああっ」


 やっぱり、そうです。

 どうなっているのかは分かりませんが、身体の事について話そうとすると痛くなることは間違いありません。


「はあ……はあ……」


 確認が出来てところで口を閉ざし、落ち着くのを待ちました。

 ……うん、何も言わなければ大丈夫。

 心配してくれるリコちゃんの腕を掴み、聞きました。


「特定のことを話そうとすると苦しくなるんだけど、何か知らない?」

「呪いだろうな」


 リコちゃんの後ろで興味無さそうにしていたリンちゃんが、外の景色を眺めながら呟きました。


「呪い?」

「リン、弁えなさい」


 言葉遣いを注意するリコちゃんを止めつつリンちゃんに視線を向け、話の続きを催促しました。


「呪いならそういうことが出来る。でも、特定の事柄を封じるなんてかなり高等なものだから滅多にないよ」

「それ、解けないの!?」


 『どうして私が呪われなければいけないのか』という疑問と怒りが湧きましたが、それよりも解けるのならすぐにでも解きたいです。

 そして私が白鷺瑠奈だと名乗りたい。

 祈るような気持ちで返事を待ちます。


「無理だと思うよ」

「そんな……どうして? 絶対無理なの!? 何か方法はないの!?」

「説明するのが面倒だなあ」


 話す気が無くなったようでそっぽを向いてしまいました。

 お願い、見捨てないで!

 リンちゃんの態度はメイドらしくありませんが、一応私のメイドさんじゃないの!?


「リン! 議長に報告するわよ」

「……はあ」


 リコちゃんに注意され、渋々こちらを見たリンちゃんが面倒臭そうに口を開きました。


「そういう呪いを綺麗に解くには、封じられているものが正確に何か分からなければならない。でも、封じられているのだから他人には分からないだろう? つまり、呪いをかけた本人しか解けない。強制的に解く方法はあるが、それだけ高等な呪いだと無理矢理解いたり、下手なことをしたら死ぬかも」


 そこまで言うとリンちゃんは、これ以上話すつもりはないというような素振りで視線を外の景色に戻してしまいました。

 そんな……私は一生このままなのでしょうか。

 嫌です。

 自分の身体に戻りたいし、家に帰りたいです!


「でも、呪いをかけた人が分かれば解けるんだよね!?」

「分かるようなヘマをする奴がかけるレベルの呪いじゃないけどな」


 外の景色を見たまま返された言葉は、まるで『あきらめろ』と言っているようでした。

 そんなこと出来ません。

 自分の身体を……祖母や祖父、両親から受け継いだ血を持つ大事な身体をそう簡単にあきらめることは出来ません!

 呪いは解けなくても、体さえ戻れば……。


 そういえば……私の身体を奪った『私もどき』は今、何処で何をしているのでしょう。


「私と一緒に見つかった人はどうなりましたか?」

「ルナ姫ですね。今は城で過ごされています。お会いしたいですか?」

「いえ!」


 やっぱり私の名前を名乗っているようです。

 許せません。

 今まで感じたいことの無い黒い感情が沸き上がってきます。


「あの……お名前をお伺いしたいのですが」


 リコちゃんが私の目を見て話し掛けてきました。

 話すにも名前を知らなければ不便です。

 呼びかけることも出来ません。

 でも、私はの名前は……本当の名前は口にすることが出来ません。


 ぽっちゃりとした身体を見ます。

 もうこの身体の持ち主は分かっています。


「鏡を貸してくれませんか?」


 リコちゃんから、手鏡を受け取りました。

 一度胸で隠して目を閉じ、深呼吸をしてから鏡を見ました。


 ……やっぱり。


 手入れされず伸びた黒い髪、鋭い目つき、ぽっちゃりで小柄な身体。

 思ったとおり、今の私の姿は『灰原晴香』でした。

 そして何と無く分かります。

 今私の身体の中にいるのは灰原さん……私達は入れ替わっている、と。


 何故こんなことになっているかは分かりませんが、心当たりといえば『鏡の魔女』以外にありません。

 あの鏡の前で何かが起きたのだと思います。

 赤い目は魔女だったのでしょうか。


「で、名前はなんなんだよ」

「はい?」


 思考の海に沈んでいたのですが、苛々した声に引き上げられました。

 顔を上げると、リンちゃんがすぐ目の前まで来ていて私を見下ろしていました。


「リン、やめなさい! さっきから無礼な物言いをしてしまい申し訳ありません。私達、『メイド』なんて初めてなので緊張していまして」


 彼女達は新米メイドらしいです。

 自分は別に偉い人でもないので、リンちゃんの物言いは『メイドっぽくないな』と思うくらいなのですが、リコちゃんが申し訳なさそうに頭を下げています。

 リンちゃんはメイドをしたくないのか、相変わらずつまらなさそうな顔をしています。


「リコちゃん気にしないで。ええっとね、リンちゃん。私の名前は……忘れちゃったんだ」


 この身体は灰原さんだけれど、灰原さんの名前は名乗りたくありません。

 偽名も浮かばないので、名乗らないことにしました。


「その『リンちゃん』っていうのやめてくんない?」

「あれ、そっちが気になる?」


 名前を忘れたということに何か突っ込まれると思っていたのですが、リンちゃんが引っ掛かったのは呼び方の方でした。


「リン! 女神の使者に失礼でしょ!」

「女神の使者はあのルナって美人の方が本命で、こっちは『ハズレ姫』ってやつなんだろ?」

「いい加減にしなさいっ!」

「ハズレ?」

「! すいません!」


 相変わらずリコちゃんの頭が上がったり下がったりしていますが、何を言われているかあまり分かっていないので気になりません。

 『ハズレ』という言葉で、良くないことを言われているのは分かりますが……最初に受けた対応からすると今更です。


「謝られても何がなんだかさっぱり。よかったら、『女神の使者』について教えてくれない?」

「後ほど議長から説明がありますが?」

「今聞きたいな」


 議長というのは以前聞いた責任者らしき人のことでしょう。

 でも、そういう上の人から聞くより身近なところから一般的な話を聞きたいです。


「『女神の使者』っていうのは、簡単に言えば『異世界から連れて来られた女神の小間使い』だな」

「リン! 何度言えば!」

「小間使い……?」


 あまり良い感じはしません。

 どういうこと?

 リンちゃんはある意味、『正直な性格』に見えます。

 取り繕われた綺麗事じゃなく、本当のことを聞くには良い人物かもしれません。


「リンちゃん、詳しく教えて」

「……いいけど?」


 面倒くさがられるかもしれないと思いましたが、話してくれるようです。

 少し意地悪な笑顔を浮かべ、私のいるベッドまでやって来て腰掛けました。


「海に二つ塔があっただろ? あれは女神ソフィアがこの世界ノアソフィアに干渉するための『柱』で、あそこから女神はこの世界を安定させる力を送っている。でも稀に塔に魔物が発生して女神の力が届きにくくなり、世界が不安定になる時期があるんだ。そうなったら『女神の使者』様の出番ってわけさ」

「もしかして……魔物退治しろってこと?」

「勘が良いじゃん。『掃除して来い』って送りこまれるんだ。小間使いだろ?」


 リンちゃんが同意を求めるように微笑んでいます。

 確かに小間使いのようですが、重要なのはそこではありません。


「そんなこと出来ないよ! この世界の人で出来ないの?」


 なんでそんなことを、異世界の人間がしなければいけないのでしょう。

 魔物なんて地球にはいないし、生き物の命を奪うことと縁の無い生活をしていた私には魔物退治なんて無理です。

 冷たいですが、この世界のことなんて私には関係ないことですし!


「出来ないから呼んでいるんだよ。あの塔の中の魔物は特殊でな。こっちの奴でもダメージは与えることは出来るがトドメは刺せない。完全に『消去』するには女神の力が必要だ。でも女神は力を送る以外、世界に直接干渉することは出来ない。だから、『女神の力を託されてきた女神の使者』が必要なんだ」

「その『託される』のがこの世界の人じゃ駄目なの?」

「女神はこの世界の人間にも干渉出来ない。手を出せないから、異世界から連れてきた奴に力を託す、って言われているな」

「ええ……迷惑……」

「ははっ! お気の毒様」


 笑い事じゃありません。

 神様なら、自分の世界は内々で解決して欲しいです。


「あ、でも……私、力を託された覚えなんてないよ? 気づけばあそこに倒れていただけで……」

「じゃ、やっぱり『ハズレ』の方だな。美人の方は説明しなくても、全部知っていたらしいよ」

「ええ!?」


 それは……灰原さんは女神にちゃんと託されて来たってこと?

 その時に色々聞いたのでしょうか。


「女神の使者は度々歴史に登場するが大体は一人だ。でも稀に二人のことがあって、その時は能力差が激しいことが多かったらしい。能力が低い方の『女神の使者』を担当することになった奴らが、その女神の使者を裏で『ハズレ姫』と呼んでいた記録が残っていてね。で、今回の『ハズレ』はアンタで、ボク達はハズレくじを引かされたってわけ」

「……」


 リンちゃんはボクッ娘のようです。

 今はモヤモヤしているのであまりリアクションできませんが、普段なら『ボクッ娘メイド!』と興奮していたことでしょう。

 澄ました目を向けてくるリンちゃんにもモヤモヤしますが……。

 望んでいないことをさせられるのは気の毒です。


「ご愁傷様です」


 私が頼んだわけではありませんが、少し申し訳なくなって来てポツリと零しました。


「……。ははっ……あはは!」

「?」


 私の呟きを聞いてキョトンとしていたリンちゃんでしたが、急に大きな声で笑い始めました。


「そうだろう? 可哀想だよね、ボク達。でも思ったよりも楽かも」

「いい加減にしなさい!」

「痛っ」


 楽しそうに笑っていたリンちゃんでしたが、堪忍袋の緒が切れた様子のリコちゃんに叱られ、腰掛けていたベッドから引きずり落とされました。

 真っ直ぐ立っていなさい! と背中を叩かれています。

 リコちゃんの方がお姉さんなのでしょうか。

 でも身長はリンちゃんの方が高くてお姉さんっぽいです。


 それより、まだ聞きたいことはあるのですがもう宜しいでしょうか?


「リンちゃん。私、戦えないんですけど」

「そんなの分かっているさ。実際に戦うのはこっちの人間で、あんた達『女神の使者』様がやるのはトドメだけ」

「どういうこと?」

「異世界人は大体戦えない。だからこっちの人間が戦って、トドメはあんた達っていうのが今までの通例」


 成る程。

 今まで来ていた異世界人というのが私と同じ地球から来ていたかどうかは分かりませんが、同じ状況が多かったのですね。

 だから戦力としては期待していないと。

 『勇者になれ!』と言われた気がしていましたが、そうことではないようです。


「アンタだと『のしかかり』なら出来るんじゃ無いか?」

「なんだとー!」


 私の代わりにリコちゃんがリンちゃんの頭をパシッと叩いてくれたので我慢しますが、リンちゃんはのしかかり攻撃被害者第一号になるところでしたよ!


 それにしても力を受け取った記憶の無い私に、使命が全うできるのでしょうか。

 なんでそんなことをしなければいけないのとまだ怒りは収まりませんが、しないと帰れないのならやるしかありません。


「私は使命を果たせるかな?」

「さあな。あんまり期待されてないし、大人しく美人さんが使命を全うするのを待っていれば?」

「それは……。ハズレだったら帰して貰えないの?」

「無理」


 灰原さんに全てを任せるのは嫌です。

 でも魔物がいなくなるまで帰ることが出来ないなら頑張るしかありません。


「そういえば、さっき言っていた『一緒に戦ってくれる人』って?」

「女神の使者と一緒に行動し、戦う者、それが女神の騎士ソフィアナイトだ。理事国の承認を得られた者のみがなれる。今は四人いる」


 理事国というのは分かりませんが、なんとなく『女神の騎士』とやらには察しがつきます。


「もしかして、アーク達がそう?」

「知っているのか。そうだ。アークは大国の出身で女神の騎士の筆頭だ。騎士は自分で忠誠を誓う使者を選ぶ。お前のところには誰も来ないだろうな」

「ええええ!?」


 サラッと言いましたが、それは私にとっては致命的です。

 そんな不平等があっていいのでしょうか!


「公平に分けるようにしてよ!」

「ボクに言うな、知らないよ」


 偶数なのだから綺麗に割れるのに!

 絶対おかしいです!

 誰も力をかしてくれないのなら、私一人でやらなければいけません。


「詰んだ……」


 始める前から終わっています。

 頑張ろうと意気込んだ私の気合いを返してください……。


「俺はお前についてやる」


 突如聞こえた声に、俯いていた顔を上げました。

 リンちゃんでもリコちゃんでもない声でした。

 声が聞こえた扉の方に目を向けると、そこには黒ずくめの少年が立っていました。

 見覚えのあるこの姿は……。


「オリオン君?」

「『君』はいらない」


 やっぱりそうでした。

 この世界に来たばかりの私に、唯一普通に対応してくれていた人です。

 『俺はついてやる』ということは……女神の騎士?

 あまり騎士っぽくはないですが、だから最初のあの場にもいたんですね。


「えーっと、オリオン? も女神の騎士なんだね。でも……私についていいの?」


 扉を閉め、こちらに向かってくる彼の顔を見ながら聞きました。

 有り難い話だけれど、本当なのでしょうか。


「ああ。だが、お前につくのは俺だけだ。他の連中は向こうに行った」


 リンちゃんとリコちゃんは下がり、オリオンに場所を譲りました。

 ベッドの脇に立ったオリオンは、真っ直ぐ私を見ています。


 アーク達の様な冷たさがありません。

 今までもそうでした。

 きっと彼は、私が見た女神の騎士の中で一番信用できる人です。

 そんな人が自分についてくれる、なんと心強いのでしょう!


「オリオンがいてくれるならいいよ!」


 オリオンは男の子なので我慢しましたが、嬉しくて飛びつきたいくらいです。

 でも、中学生くらいに見えます。

 魔物と戦えるのでしょうか。

 私のせいでオリオンが危ない目にあうのは駄目です。


 少し心配になりながらオリオンを見ている、私の表情で悟ったのか、リコちゃんがこっそりと耳打ちしてくれました。


「オリオン殿は地味ですが、実はアーク殿より強いのでは? と言われているほどの実力者です」

「ええ!?」


 あの派手な騎士のアークより!?

 アークの実力を知らないので何とも言えませんが、彼は女神の騎士の筆頭だと聞きました。

 『それ以上かもしれない』と言われているのは凄いのでは!?


 急に全てが上手くいくような気がしてきました!

 単純かもしれませんが、進んでも暗闇ばかりだった道に光が差したような気がしました。


「様子を見に来たのだが、大丈夫そうだな。呪いも落ち着いている」

「……えっ。呪いって……分かってたの!?」


 話していないのに、『呪い』という単語が出て来て驚きました。


「苦しんでいる様子で分かった。何か縛られているのだろう? 少し探ってみたが解呪出来そうにない。 俺が分からないのだからかなり高等なものだ」

「オリオンに分からないんなら無理だな」


 リンちゃんがニヤリと笑いました。

 人の不幸は笑うものではありませんよ!

 分かりましたよ……使命を全うすればいいんでしょ!

 オリオンがいてくれるし、頑張ります。


 ……というか、今のやり取りで気になったことが。


「オリオンとリンちゃん達って、知り合い?」

「まあ、この爺さんとは何かと縁はあるな」


 呼び捨てにしているし、妙に親しげな様子が気になって聞いてみたのですが、リンちゃんから不思議な言葉が出てきました。


「爺さん?」

「正確には知らないけど、ボク達の何倍も生きているだろうから立派なジジイだよ、こいつは」


 その言葉は明らかにオリオンに向けられています。


「えっ? えっ?」

「人のことをベラベラ話すな」


 オリオンとリンちゃんはこれ以上話すつもりは内容ですが気になります。

 私の頭の中はハテナでいっぱいです!

 リコちゃんに救いを求める視線を向けると、再びコッソリと耳打ちをしてくれました。


「これは一般には知られていないことですが、オリオン殿の年齢は見た目と比例しておりません。私も正確な年齢は知りませんが、少なくとも私の祖父母の代が若かった頃も今と変わらぬお姿だったようです」

「うええ!?」


 驚きすぎて寄声が出ました。

 そんなに長い年月の間、姿が変わっていないってこと!?

 オリオンは、私が知っている『普通の人間』ではないのでしょうか。

 ファンタジーな世界のようだし、そういう種族がいるのでしょうか。

 詳しいことを聞きたいですが、奇声を上げたことが気に入らなかったのかオリオンの眼光が鋭くなったので今は我慢します。


「体調が問題無いなら会って貰いたい人がいる」

「それは『議長』って人?」


 用を済ませようという感じで、オリオンが口を開きました。

 私が倒れてしまう前の議長のところに行くと言っていたし、早く会った方が良さそうです。

 体調も問題ありません。

 オリオンに案内され、早速議長の元へ向かいました。

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