結局、このメーカーなのかい!ですが、何か?

 二十年目の、慣れた仕事。

 ですが、ちょいちょい変化もあります。


 勿論、スタッフの入れ替わりは言わずもがなですが。

 検査の機械も入れ替わります。

 えぇ。

 潰れるんです。ある日突然。それも、大抵土曜日に。

 えぇ。

 メーカーも問屋さんも、お休みです。

 えぇ。

 総合病院もお休みです。泣きそうです。五年目位までは。


 二十年も経つと、焦りもしません。

 出来ることしか、出来ないのです。

 院長に報告し、指示を受け、動くのみです。

 出来れば、冷たく見えない、温かみのある表情で。患者さんが見ていますからね。


「先生、ポラ(眼底写真用のカメラ)壊れました。ウンともスンとも言いません」

 その前に、コンセントも確認済みです。蹴って抜くんです。新人の頃は。


 基本的な機械なら直せてしまう、時計屋の息子の院長です。

 昔の時計屋は、宝飾店と、メガネ屋さんを兼ねていたの、ご存知ですか?

 宝飾品は、いざと言うときのパールと、一生に一度のダイアモンド。

 そして、一部の人は生活必需品として求めるメガネ。


 街道筋の商店街には、必ず一軒有ったものです。

 そして、金持ちでした。


 その息子の出来が良ければ、末は博士か大臣か。場合によっては医者か弁護士です。


 で、その息子の院長でも、直らなかったポラロイドカメラ。


 買う機種が決めるまでが大変です。

 各メーカーのデモンストレーション機がやってきます。

 なるべくコストパフォーマンスの良いものを。当然です。使い勝手に、写りの良さ。それに価格。


 決めるのは、院長です。

 今回は六機種、比較しました。

 機械が搬入される度、お昼休みに説明会です。

 表示のソフトが、良くて英語。悪いとドイツ語。

 一機種有った日本語表示。何で写りが悪いのか。


 機種毎に十日から二週間。

 機会が有る毎に撮って比べて選択する事数ヶ月。


 決定したのは、元有ったメーカーの後継機。某有名メーカーの物でした。


 結局、このメーカーかい!って、そのメーカーの株買いましたけど。何か?



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