サイドファンタジーで荒稼ぎする冒険者の御伽噺

三鷹キシュン

序章 ポテチを追いかけて異世界転生

第1話 イグザリアの御伽話


 昔々。

 神様は広大なる宇宙のどっかに一つの銀河を作りました。

 神様は銀河に異なる種類・彩色を持つ惑星と宇宙人と星屑を作りました。

 神様は数世紀にわたって宇宙人を観察していました。

 知恵をつけた宇宙人は高度な文明を築き上げて、一つ。また一つと惑星の資源を奪い尽して神様の作った箱庭を壊していきました。そして、ついには同族だというのに醜い戦争が始まったのです。

 神様は激怒しました。しかし自分から手を出そうとはしませんでした。これは自分の過ちだと気付いたからです。宇宙人には環境に適応する肉体を与えた。それだけでは足りないのではないかと。

 神様は長い目で戦争が終わりを迎えるまで見続けました。

 …結局、生き残ったのは僅か四人だけ。

 四人は自分たちの知恵だけで惑星を離れて、緑溢れるその星-イグザリア-に足を運ぶました。

 争いを嫌う二人の男女の宇宙人は、西の果てに小さな村を作りました。

 争いを好む二人の男女の宇宙人は、東の果てに大きな国を作りました。


 数千年の時が流れて、神様は新しい進化と変化を求めてイグザリアに隕石を二つ落としました。

 後の時代に”流星雨の涙”と呼ばれる隕石は、北極の大地を凍てつかせて膨大な魔素マナを生み出しました。南極の大地は天変地異が起こり、海が広がっていた場所に火山活動が盛んな島が浮上しました。

 西の果ての小さな村は、数千年の時の中で立派な国を築き、周辺の地域に町や村を与え平和な時を送っていました。

 東の果ての大きな国は、数百年で争いに発展し滅亡の道を歩みました。周辺の地域は、魔物。この星に住む怪物モンスターに占領され、裏切り。奴隷。蹂躙。戦争。生き残った者たちは、勇者ブレイバーと呼ばれていました。

 ”流星の涙”は西と東に大きな衝撃を齎し、戦い方を知らない西側は東に教わる。幸せを知らない東側は西に衣食住を与える。相互の協力なしでは、生きていけないという考えの基に世界の中心地。世界樹ユグドラシルの根元に協力の証として「ギルド」という集会場が設けたのである。


 仏頂面の神様は初めて笑った。やっとか…と。

 神様は悩む。これでいいものか? と。

 魔物が全滅しては、また同族で争いで起こるのではないかと不安に思う神様は、北極の大地に強力な魔人を生み出した。魔人には、知恵と理性を持たせて放っておくと、人間は何時しか「魔王」と呼ばれ始め一つの脅威となった。

 南極の大地にも強力な魔物を生み出した。魔物には、名前と理性を持たせて放っておくと、こちらも面白いことに繁殖し「原初の竜」から「翠の竜」「煌の竜」「氷の竜」「白の竜」が世界に散った。

 神様はさらに悩む。魔物によって全滅するのではないか? と。

 神様は人間に最初で最後の助け舟を与えた。

 全世界各地に神具や魔具を散りばめ、命が直ぐにでも絶えそうな弱き人間六人へ”勇者の心臓”を授けたのである。一般人にもチャンスを与えるべく、天使と悪魔を作り出して異なる次元に放っておいた。


 神様は満足した。これで漸く、面白い御伽話フェアリーテイルというドラマが見れると。

 神様は異次元の障壁を捻じ曲げてワームホールを作ると、ポテチの袋を開けて食す。


「ウマ。この塩味、中々美味である」


 天上の丘。

 星-イグザリア-の地上でも、空の上でもなく、人間たちが月と崇めるイグザリアの衛星に神様は寝転がっている。神様に酸素など不要だが、地上の生命体には必要不可欠なものなので宮殿の中には結界を張って呼吸できる。食なしで生きていくだけのエネルギーが満たされている。

 何故か? と。それは私のペット。ハムハムくんが死んでしまうからだ。

 神様がペット飼うんですか? だと。文句あるのか!? この愛らしい癒しが分からんのか。


 神様のペットことハムハムくん。

 星-イグザリア-出身の小動物ハムスターらしいが、宮殿に満たされたエネルギーで体長六メートルの怪獣となっている。体毛はしっかりとした艶があり、このもふもふ感が最高である。

 しかしだ。この宮殿の内装は酷い。神様のセンスを疑う。

 そりゃあ、まあね。二十代男子の一人暮らしといやぁ、ゴミ溜めかゴミ屋敷を想像しちまうけどさ。正反対に二十代女子の一人暮らしといやぁ、訳も分からんけど化粧品や外見を気にしてか衣服が多いっていう印象がある?

 いや、俺は男だし。DTの上、彼女いない歴二十五年の会社員だから知らんけど。

 いや、それはさて置きだよ。この宮殿ね。なんもない。部屋なし。洗面所なし。浴槽は無駄に大きい。イスや机、ベッドという家具なし。ただただ、だだっ広い空間にポツリと身長十メートルの神様が、俺から奪ったポテチを巨大化して食ってやがる。

 ハムハムくんは、巨大回し車で遊んでいる。かなりシュールな光景だ。

 で、だ。

 そろそろ、俺の存在に目を向けて欲しい。


 俺は神様が作った星-イグザリア-出身でも、宇宙人でもない。

 神様が勝手に異次元の障壁を捻じ曲げたワームホールは、どういう訳か俺の部屋。いや机の引き出しの中じゃないよ。ポケットでもない。

 繋がったのは、俺が先日購入した四〇インチの液晶テレビ画面だ。ホント訳わからん。電源コンセント接続していないのに、巨大な手にポテチを奪われたのだ。

 会社員っていってもな。大企業じゃなくて、中小企業のそれも製造業だからな。給料はそこそこだし、今年のボーナス出るか、出ないかの瀬戸際。そんな俺の大事なオヤツだぞ。

 奪われたら、引っ張るだろ? 

 ―――と、まぁこんな感じで俺。凍夜とうやみことは、異世界っていうか神様の寝床に来てしまったのである。


 なんじゃそりゃあ。って言いたい。ちゃぶ台があったら、ひっくり返したいところだがなんもない。

 因みに俺の身長は、一・六十六メートル。神様からみたらゴミにも見えんのだろう。

 さて、どうするべきか?

 考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。

 ――! そうだ。

 俺は名案を思いついた。

 幼稚園もしくは小学校低学年で誰もが教えて貰った筈の一寸法師をやるのだ。

 ん? 一寸法師を知らないだと。最近の若いもんは、全くだな。

 よおし、俺が解かりやすく教えてやろう。


 子供のいないおじいさんとおばあさんが、子供を恵んでくださるよう神様に祈ったらおばあさんに子供ができました。でも産まれた子供の身長は一寸。現代のメートル法で三センチしかなく、何年経っても大きくなることはなかったので「一寸法師」と名付けた。これがまあ、いまの俺だわな。

 ある日、一寸法師は武士になるために京へ行きたい。って言ったらしい。御椀を船に、箸を櫂にし、針を刀の代わりに、麦藁を鞘の代りに持って旅に出た。ここ重要な。

 京で大きな立派な家を見つけ、そこで働かせてもらうことにしたんだとさ。その家の娘と宮参りの旅をしている時、オニが娘を攫いに来た。そこで一寸法師が娘を守ろうとすると、オニは一寸法師を飲み込んだ。うん、たぶんオニはカニバリズムなんだろうな。

 一寸法師はオニの腹の中を針で刺して痛いから止めてくれ。と降参し、一寸法師を吐き出してすたこらと山へ逃げていったとさ。

 そんでもって一寸法師は、オニが落としていった打出の小槌を振って自分の体を大きくさせて身長六尺つまりメートル法で一・八十二メートルのイケメンになって娘と結婚しましたとさ。いや、イケメンかどうかは知らんがな。

 米と金銀財宝も打ち出して、末代まで栄えたという。が、アレだな。現代で言うチートコードを使った感じだよな。


 よし、OK! こんな感じで伝わっただろう。

 兎に角だ。この爪楊枝を刀にして、足にブッ刺して俺の存在をアピールするのだ。

 そうと決まれば、実行あるのみ。

 行くぜ!


『ブスリ――』


 足の裏に爪楊枝を突き立てたのだが、…? 反応がない。いや、手応えはあるけどさ。

 失敗だ―――。計画通り!って言う名言、出せねぇーじゃんか。

 この身長差だ。肉体強度が違うとかいう次元じゃない。皮膚が硬すぎて届いてないんだ。

 くそぉ。思い出せ。俺のゲーム脳。

 あかん。あきまへんわ。

 神様に挑むファンタジーゲームあるけど、俺ただの人間。異世界主人公らしいチート能力なんてないじゃんよ。魔法も。剣も。ねぇーじゃん。

 ――っていうか待って俺、どうやって帰んの? 明日、給料日なんだけど。

 ああ、もう。どうにでもなりやがれ!


「おい、駄神。俺を元の場所に返しやがれ!」


 巨体が動く。

 神様は、いやそんな事がある訳ない。と思いながらも地面を見やる。

 しかしソイツはそこにいた。

 異世界人と神様は、ここに邂逅した。


「お主は人間か?」

「ああ俺は人間だ。人間の凍夜尊だ」

「トウヤ? ミコト? ふむ、お主はイグザリアの人間ではないな」


 流石は神様だな。一瞥で見抜きやがった。


「ああ、そうだ。俺はアンタがワームホールを作った向こう側。異世界から来た異世界人だよ」

「ほう、面白い。実に面白いぞ。お主は、最高の逸材だ」


 は!? なに言ってんだ。この駄目神様は。


「お主、英雄に成りたくはないか?」

「いや、いいです」

「では、勇者に成りたくはないか?」

「丁重にお断りします」

「………王様」

「結構です」

「………」


 頭を抱え出したぞ、この駄目神様。何がしたいんだか、さっぱりだ。


「お主は可笑しい。イグザリアの人間どもは、勇者に。英雄に。王様に。憧れを抱いていたのに、お主は欲しくないのか。富と名声が、惜しくないのか」

「バカか? お前は。金ってのはな、自分で稼いでこそのもんなんだよ。湯水のように金が湧き出てきたら、人生の半分で飽きるだろうが」


 って言ってみたけどさ。流石に富は欲しいよ。うん、あとは信頼関係があればいい。


「ならば、ハーレム王に成りたくはないか?」

「!? なんですと…」

「冗談だ。ワハハハハ」


 って、冗談かよ。ふざけんなよ!!


「よし、分かった。お主に新たな名と五つまで力を与えよう。それで文句はないな」


 いや、大アリですけど。それってアレだよね。この星の住民になれってヤツですよね。


「如何にも、その通りである」

「なんでもアリかよ」

「神様だからな」

「はあ、分かったよ。ただ条件がある」

「ほう、神に条件を提示するとはお主、中々肝が据わっておるな。よかろう、訊こうではないか」

「元の世界での俺の存在を丸ごと消してほしい」


 むむ? と顎に手を当てて考え悩む神様。


「それは全てか? 記憶も。存在も。いなかった。産まれてこなかった。ということにしたいのか」

「そうだ。俺にだって友人や家族はいるからな。心配してほしくないんだよ」

「良かろう。では、申すがいい。お主の求める力を五つまで叶えよう」


 そんな訳で俺は、五つの力【強運】【商売繁盛】【無尽蔵の体力】【盗賊王の才】【魔力】と新しいトウヤという名前を貰って、星-イグザリア-の住人となった。


 魔王? ドラゴン? 何それ?

 俺はこの世界でフリーダムなファンタジーライフを送ってやる。

 まずは商人になるところから始めようかな。稼ぎは重要だからね。

   

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