とりあえず異世界満喫してみよう

夢望スイ

第一章

1 新任神様のご提案





目の前にいる半透明体の、この世界では“モンスター”と言われるものか。名前はスライムと、結構有名なやつだ。それが俺の目の前に立ちはだかっていた。ぷるるん、と擬音でも表現できそうなその動きは確かに可愛さを感じるものだろう。だがしかし、そんな事を言っていたら死ぬ。いや、そんな可能性が限りなく低くなってしまっているのだが。それでもシビアなもんだ。


「でもまあ、満喫していきたいからな」


手に持つ剣を構え、スライムを斬りかかった。






 ***






月曜日。平日の始まりの日であり、我々学生の天敵であるこの日だが、別にいつもと変わらず平凡。別に早く家に帰りたいって訳でもないのだが。誰もいないわけだし。


それ故、この世界にも執着してるわけでもなく、ただ趣味と学業に時間を費やしていくばかりだった。


昼の休みは大抵図書室で本を読みふけて時間を潰す。そんな所で休み終了のチャイムが鳴り響く。


「戻るか」


図書室にいた人も教室に戻り始めた。図書委員の人たちも残りの人がいないか見回っている。俺も帰ろうと、本を元あった場所に戻して離れようとした時


「ん?なんだこれ」


金縛りかのように身体が動かない。いや、首だけは動いて状況判断だけはできるけども。

幾十にも連なる文字や記号。見回っている図書委員はなぜか来てくれない。これは……


「え、ちょ、ま――――」


選択肢などない、と言わんばかりに問答無用で意識をシャットアウトされた。






 ***






目を開けてみれば、なんだろうか。下を見てみれば陸が見える。という事ははるか上空か。


「ようこそ、貴方にとっては異世界、“オルビス”へ!」

「あ、ああー、ええ?」

「ん、もう一回言ったほうがいいかい?」

「いや、何を言ったかは聞いてた。意味を理解するまでに処理時間が掛かってる」

「うん、そりゃあ当たり前でしょうね?」

「あんたさんがやったんだけどね?」


とりあえず理解した。要約すれば俺は異世界に呼ばれたのね。


「それで、呼んだ理由は話してくれるよな?」

「もちろん!貴方を呼んだ理由、それはこの世界を見回って欲しいんだ!」

「んん?」

「実は僕はこの世界の新任の神様なんだ。それで、なんていうのかな、この世界を見せたいって思ったんだよ」

「なんていうか、大雑把な理由だなぁ。それで、俺が呼ばれた理由は?」

「ランダム」

「ああー…、マジか」


いやまあ別に、未練っていうものもないからいいのだけど。親は俺より先に亡くなってる。だからだ。


「別に、これをやってほしいっていうものはないんだ。この世界を見て周って欲しい、それだけ。もちろん、それなりの要望も聞くよ?」

「あ、そう?ならこの世界を満喫できる程度の状態が欲しいな」

「うーん、コロッと死なないようにする程度までならできるからいいよ。あと他には?」

「この世界のシステムの詳細を聞きたい」

「了解。それじゃあ一つずつ説明するね」






 ***






とりあえず、説明を聞き終え、頭の中で聞いた事を纏めてみる。


・ この世界には“ステータス”というものがある。


どうやらそのステータスによって自身の能力や状態を数値や表示で見ることが出来るらしい。さっき試した。なぜ自身の能力や状態を数値化できているのか尋ねたら、自分の実力を理解できないで死なれるのは困るから、らしい。


・ この世界には“モンスター”というものが存在している。


ステータスがある理由がこれだ。モンスターはこの世界の魔素、というものから生成され、個体となったものだ。倒せばまた魔素へと還り、再びモンスターが生まれるというサイクルがあるらしい。


・ この世界には魔法というものがある。


これは個人が魔力を持っている場合、充満する魔素と反発しなければ使えるようだ。どちらかが欠ける、つまり『魔力を持っていない』または『魔力を持っていても魔素と反発してしまう』という人は使えないようだ。


また、魔法には属性が存在している。火、水、木、土、光、闇、無。種類が多いな、と思った。属性はその人個人の育った環境などに関係するらしいが、光、闇、無は例外らしい。光は回復魔法などが多く、闇は生物に関する魔法が多い。無はピンキリで、強力なものがあれば、その人個人しか使わないようなものもある。


ちなみに無はこの世界に干渉していないとこうなるらしい。つまり俺も無属性の魔法を使えるだろうといわれた。……死なない程度と言われたはずなのに。


・ この世界には種族というものがある。


この世界には多種多様な種族が存在するらしい。分けると、元いた世界と同じ人間族ヒュマス、それ以外に小人族ドワーフ海人族セイレン森人族エルフ魔人族デビラス神人族エジルス亜人族アザルスと七つの種族に分かれている。


どんな人たちなのかは実際会ってみて確かめてみて、と言われた。亜人族については定義が曖昧だとも言われた。それじゃあどこかに加えた方がいいのではないか、と思ったがどれにも属さない者がいるからと答えられた。また、獣人というのも亜人族らしい。本当に曖昧だなあ。


また、種族によって使う魔法にも傾向があるらしいが、人間族はランダム。小人族は土属性、海人族は水属性、森人族は木属性、魔人族は闇属性、神人族は光属性、亜人族は基本的に無属性。基本的に、というので異なる可能性もあるが、無属性が多いと言う。俺は限りなく亜人族に近い人間族だと言われた。まあ、違う世界の人だしなぁ。


また、種族によって国も分かれているらしいが、大抵はどこの大陸も互いに貿易などをしていると言う。が、神人族や亜人族はまた違う場所に住んでいるのだとか。ここら辺は満喫しながら見つけていきたいと思う。


・ この世界と元いた世界の通貨価値はほぼ同じ。


ほぼとか言ってるが、全く同じである。ただ円ではなく“オルズ”という呼び名みたいだけど。通貨は1オルズ硬貨、10オルズ硬貨、100オルズ硬貨、1000オルズ紙幣、1万オルズ紙幣となっている。500円硬貨と同じものがないこと以外、ほぼ全く同じらしかった。なぜ?と訊ねたらそっちの世界を見習ったと答えられた。監視されてたんだね。


・ 言語は独自のもの。


と言われたが、言語理解というスキルをくれるようだ。満喫するには言語を理解できないとね!と新任神様がつけてくれた。


・ “ギルド”というものがある。


ギルドとは、冒険者ギルドのことらしい。元いた世界の銀行のような役割から、冒険者に依頼を出すという役割まで担っている。まだ、ギルドに登録しておく事で身分証明にもなると説明され、早めに作っておくことを勧められた。ギルドはほとんどの街にあるということも加えて説明された。


「さて、こんな感じでいいかな?あと、君にはスキルをいくつかつけておいたよ。

言葉だけじゃあ解からないと思うしね」

「ああ。ありがとう」

「いえいえ。さて、僕は君を人間族の国の近くに送るけど、護衛用とかもろもろとしてこれを渡しとくね」


そう言われ、一振りの剣を渡された。なんか、やたらさっきから新任神様がニコニコしてるんだよね。何を考えてるかわからないんだよなぁ。


あとお金貰った。ゼロ円スタートは鬼畜だよねって言われて渡された。ありがたいけど、ずっとニコニコしててなんだかなぁ。中身を見たら1万オルズ紙幣5枚と、100オルズ硬貨5枚が入ってた。なんで神様がお金持ってるの、なんて思ってたらたまに遊びに行くらしい。仕事というものもほとんどなく、退屈だかららしい。


「さて!以上で説明を終わりにするよ!君は人間族の近くの草原に送るよ」

「了解しました」

「たまに、僕もそっちに行くから、会えるといいね」

「会ったら感想を伝えるようにするよ」


今度は自然な笑みを向けてくれた。うん、やっぱりこっちの方が安心する笑みだ。


「それでは、新たな世界を満喫していってね!」


新任神様が高らかにそう言うと、またあの文字やら記号が足元に広がった。


「はい、行ってきます」


そう言い、意識を手放した。

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