distangle
サタケモト
第1話
今やほぼ毎日使っているし、見ているもの。
生活から切っても切れないもの。
技術の進化を止められるわけではない。
そしてもちろん、人とのつながりは切れるものではない。
どんなに言ったって、社会に帰属していかなければならない。
誰かとつながっていたいと思う、そんな感情。
人間は弱い。
弱いゆえに裏切る。
誰も信じることができないという恐怖。
みんなレベルは違えど、孤独を抱えている。
昔、コンピュータなんぞは、大企業や政府しか使えなかった。
そんな時代があった。
現在は、小規模な研究室や各家庭、個人でも使える時代である。
機械自体も小型化して持ち歩けるようになっている。
この進化がもたらす情報量は凄まじい。
これらの知識を、いったいどれほどの人間が十分な理解を持って、知識として持っているのか。
多様化が進み、把握することができない。
ああ、君は確かに頭が良いよ。
どうしてそんなに当たり前の知識をそんなに書き込むのかがわからない。
ああ、リア充自慢。
したければすればいいさ。
本当にリアルが充実しているのであれば、書き込んでいる時間すらもったいないと思うはずだよ。
周りの目を気にして、綺麗事ばかり発言する人々。
あなたの意見はそんなに正しいのか。
マイノリティかマジョリティか。
自分の意見がさも特別かであるように話し、はたまた誰かを否定的に批評して論破し、誰かに同調しては、模倣したりして群れる。
甚だ吐き気がする。
この世は喜劇だ。人間は役者だ。
有名な誰かが言っていた。
そろそろ人間も「いい人」を演じることに疲れてきたのではないだろうか。
「いい人」を演じれば演じるほど、いつの間にか心のなかにはドロドロした黒い、暗い、毒が溜まっていく。
好き好んで悪役を演じる人間もいるが、大概の人間は自分を「いい人」に仕立て上げようとする。
ただの凡人が何をやったとしても凡人は凡人である。
その「いい人」ですら中途半端だ。
演じるのならいっそ、最期まで演じきらねばならない。
俗世で疲れた人間は、気を弛めて毒を吐きだす場所を探し求める。
そして行き着く先で、「匿名」で誰かを傷つける。
「匿名」の仮面を被れば、自分に責任が回って来ないと思っている。
現代人は「責任」という言葉に怯えている。
「責任」は、重たい。
その重さを知っているからか、はたまた第六感的に感じ取っているのかわからないが、回避しようとしている心理はうかがえる。
精神病ですら流行である。
「こんなにも私は他人のことを思って、思い悩んでいる」
「自分が嫌いで仕方がない」
「自信がない」
「容姿が気に食わない」
「誰も私のことを分かってくれない」
「他人の視線がこわい」
「死にたい」
「消えたい」
「嫌われるのがこわい」
「愛されたい」
「みんなに好かれたい」
「誰かに認められたい」
全部が全部、セオリーどおり。
言い換えれば、マニュアルどおり。
よくある通常の出来事である。
たくさんの友だちや家族がいても、密かに孤独を感じている人間は多い。
むしろ恵まれていればいるほど、そのギャップに思い悩むかもしれない。
職場や学校、アルバイト先の環境で馴染めず、誰かに虐められ、現実社会では受け入れられないと感じた人間の居場所ともなり得るネット社会。
しかし、ネット社会も何ら変わることのない社会である。
別の社会ではない。
今はネット上も、現実も関係ない。
個人情報、画像流出、宗教・マルチ商法勧誘、出会い系、ストーカー……。
自分と、他人との間に距離がある。
それは当たり前で、ごく自然なことである。
それが時に、疎外感を生んでしまう。
ネットで大切だと思える出会いをすることもある。
その感じた疎外感を埋めてくれる人間。
テクノロジーという諸刃の剣。
孤独も、同様である。
「リアルの世界」と「ネットの世界」。
そのように区分する人間がいる。
現に、リアルの世界とネットの世界では、振る舞い方が正反対の人間もいる。
しかし、客観的に捉えれば、どれもひとつの個人だったりする。
人間は多面性を備えている。
ネットでは、一人の個人がまるで幾人のようにも思えたりするが、結局は一人だったということもある。
そんなふうに、自分を虚栄的に膨らませることも可能なのだ。
現実にはこんな凄い人に出会うことが出来ないと、ネットでは夢を追う。
いつの間にかネット上で活躍する人間がヒーローのように思えてくる。
ただそれは全容が見えていないだけで、綺麗なところ、自分が望むところだけを見ている可能性がある。
ネットを使えば依存心が満たされると勘違いしたり、依存から寄生になったり。
依存する人間は、他人に対して許容が少ない。
少ないくせに、相手にはもっともっとを求める。
許容の少なさを自覚していたりしていなかったりだが、どちらにせよクズであることに変わりない。
ただ勘違いしないでほしいのは、全員がクリエイターにはなり得ないということだ。
人間には役割分担がある。
どこまで自己の理解を深められるかが問題である。
わたしの趣味は「ハッキング」であった。
「ハッキング」というと、あまり良いイメージを持たれないことが多い。
しかし、他人のパソコンや企業のサーバーなどに侵入し、個人情報を抜き取ったり、データの破壊、改ざんをしたりする行為は「クラッキング」といって別物である。
ネットから観ることができるのは、群像劇。
無意味な映像の連続。
ハッカーにも種類があり、バイオハッカーというのも存在する。
バイオハッカーは、生きものをいじる。
たとえば、苔。苔はたいへん興味深い。
苔をコントロールして何かしら絵や文字を描くアート的な表現活動がある。
企業や研究者がやっているように、DNAを解析してその生命体を紐解いたり。
身近な生命体の解明は徐々に進んできているが、まだまだわかっていないものも無限にある。
要は、知識も使いようである。
悪巧みに使えば、容易に悪に染まる。ひとつの物事を調べ尽くすのに、この自分の寿命が足りないのではないかと感じるときがあった。
時間は、有限である。
やりたいことはたくさんあるのに、終わりの時間や将来だけが見えてしまう。
絶望も感じるが、そのうち自然と受け入れられる。
そうして、それに合うように自分のなかで微調整がはじまる。
高齢者たちが終活を行い、周辺の片付けをはじめる。
多くの物事の集大成には、あらゆる共通点がある。
終いには、すべてがシンプルになる。
DNAやタンパク質の解析、合成などの装置も以前に比べると安価になった。
インターネットでは、知識のシェアが進んで、効率的に欲している知識を得ることができる。
かつては製薬会社や研究機関でしか行いづらかった生物を対象にしたものであっても、個人で行えるようになっている。
金を持っていれば、その環境を作り出すことも可能だ。
集団や組織に属しているより、個人のほうが効率的な成果を上げることができる場合だってある。
人間同士の不要なコミュニケーションが必要ない分、変な制約も括りもなく、派閥も存在しない。
嫉妬や足引っぱりが存在しない。
3Dプリンタのような工作機械の発展があり、医療業界も劇的に進化している。
「クローンが自分の横に存在しているのも、時間の問題かもしれないね」
「アンドロイドかもしれないね」
飼っているモルモットに話しかける。
この動物の生命体を脅かすような酷いことはできない。
だが、それ以外の部分で自分の実験に数多くの貢献をしている、この相棒。
「たとえば、台本が提供されたとしたら、君はその通りに演じることはできるかい?」
「アドリブを演じるかい?」
いくら尋ねても返事はない。
自宅マンションの仕事部屋の一室に入り、デスクトップパソコンを立ち上げる。
持ち歩いていたMacのパソコンは充電する。
いくつも持っているメールアドレスのなかの主要に使っているフォルダを見れば、いつものメールが届いている。
またか、と思った。
現状報告である。
それも誰かのではなく、わたし自身の。
わたしのネットでの活動を一部始終監視している人間がいる。
いわゆる、今流行のネットストーカーである。
どうせごく一部だと高を括っていたのだが、その部分が拡大している。
そこに恐怖を感じないといえば嘘になるが、身も凍るほどとはならない。
うわあ、と思う。
こいつ暇人だなというのが率直な意見だ。
人の執着心が生んだ愚かな産物的行動である。
人は自分のことがわからない。
自分の行動が、相手にどのように映っているかわからないのだ。
相手はIPを調べ、どこの住まいか特定している。
わたしは、その相手を鼻で笑う。
住所を調べる知識が相手にあったんだなということがわたしは理解した。
相手がどの程度の知識を有しているのかわからないから対応に困る。
住所がわかったから何だというのだ。
近くに引っ越して来るのだろうか。
人の生活フィールドに土足で上がり込んでくる人間。
何度同じことをくり返すのだろう。何度おなじことをくり返すのだろうか。
そうすれば、わたしは引っ越しを余儀なくされる。
自分の慣れ親しんだものを捨ててゆく。
メールアドレス、アカウント、パソコン、すべてにおいて。
足跡をつけてしまったものは捨ててしまおう。
そのように今までは逃げてきたが、今となってはすべてが馬鹿馬鹿しい。
結果、放置している。
多少の知識があれば、いじるのは容易である。
裏の部分を公言することはできない。
だが、他人はこういう裏の部分の話が大好きだ。
ネットに関する法律はまだ追いついていない。
常に相手の上を行くことを意識して。
情報はもの凄い勢いで流れてゆく。
本当に頭のいい人間であれば、馬鹿は相手にせず、自分の正しいと思った知識を深めてゆく。
ネットで掲載されている話が本当だとは限らない。
この話もフィクションかもしれない。
なにが本当で、なにが嘘かは、自分で見極めていかねばならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます