ライフアクティビティ

サタケモト

第1話



緻密で華美なステンドグラスから差し込む光。



宙をたゆたう埃が幻想的なもののようにきらきらと輝く。



一歩足を踏み出すたびに、ぎしりと音を立てて軋む板の床。



見上げれば、塗装が剥がれた古びた天井。



機械音を煩わしく思う必要のない空間。



外では鳥が飛んでいて、影が映り込んでくる。



生身の動物がつくり出す生活音だけがこの空間に響き渡る。



宗教施設の名残である教会。



どのような思想が存在していたのだろうかとこの香りを胸いっぱい吸い込む。



思想を取り入れることは可能か?



牧野という名の彼は、自分自身に問うた。



思想は自由。



自由、自由、自由。




権利の主張ばかりをする人々。



選び抜いた知識の泉の中に横たわる。



暇を見つけてはここへ通っていた。



牧野は神を信じていなかった。



神を信じれば必ず救われますだなんて、いったいどういう根拠を持って言っているのだろう。



神が自分を見棄てたとも思わない。



神が死んだ?別にそうも思わない。




ある日の夕食。



よくあることだが、魚料理をまじまじと見たときから、食事のときに罪悪感に襲われるようになった。



有名な絵画にも魚の目はとても印象的に描かれている。



感受性のある人間なら、なんらかの感じかたをするだろう。



「人は幸せになるために生きている」


「他人の幸せを祈りなさい、願いなさい」


「人生はとても素晴らしい」


「充実した毎日を過ごすべきだ」


「他人にはやさしく、決して傷つけてはいけない」


「人の命は尊い」



そんな言葉が蔓延るこの世に嫌気がさす。




しかしながら牧野は宗教勧誘の仕事を行っている。



牧野の言葉には力があった。



牧野の笑顔に人は騙され、牧野の考えに共感を示し、牧野を崇拝する。



牧野はそれらの自分を慕う人間を好きではなかった。



一体何を見て、何を考えているのかと。



彼らは思考することを失った者たちだ。



「自分の頭でよく考えろよ。この世に上手い話があるわけないのに」



「今の奴らは一極集中だね。おもしろい人間も、魅力的な人間も」



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