ここは戦国 朧屋語り

花山 寧々

序章

自分が自宅でもある寺で生まれたというのを聞いたのは、私が物心ついたときからだった。

出産予定日より3週間も早く陣痛がきて、30分も経たないうちに私が頭を出し、母は私を自力で産み落としたらしい。

今となっては、それを笑い話にし、

「あのときはもう死んじゃうんじゃないかって思ったのよ」

なんて煎餅をかじりながら言っているが、母は一週間近く昏睡状態に陥り、命を危険に晒した。


私の朧気な記憶の彼方に、これは誰にも信じてもらえないが、そのときの記憶がある。


赤と黒の温かい水の張った部屋で、まるで私はボールのようにプカプカと浮いている。

そこはとても居心地がよくて、私は腹から伸びている青白い大きな血管を時折つつきながら生きていた。

すると急激に水が消え、誰かの雄叫びがぐわんぐわんと響いて、私はとてもびっくりして、わずかながら開いている隙間に頭から突っ込んだ。


まだ雄叫びは続いている。

その雄叫びによって体中にぴったりとくっついている壁がわらわらと蠢き、足元から何かが押し上げて来る。

いつの間にか、光が私を照らしていた

とても白く、明るい光。

無精髭を生やした人が、とても恐ろしい物を見るような目で私を見た。

その人の声は震えていた。

「オサトリ様の子だ」と。


人生で一番古い記憶がそんなもので、幼い私は両親と祖父母にこぞってこの不思議な話をしたが、結局は一笑に付されてしまうので小学校低学年頃からはずっと話題に出していない。


それ以上に私は日常を送る上で、不思議に事欠いたことがなかったからでもあるだろう。


それは……



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