第21話: 4-3: エピローグ3

 それから二日後、サンデルとガーランドが、そしてジェフリーとハルダーソンがやって来た。ジェフリーとハルダーソンは、オブライエンの拠点から、またごっそりと遺物をがめて来ていた。馬車二台に大小取り揃えて。


 この二日で、マックスと協力して調べた結果、わかったことが二つあった。

 一つは奇妙なことだった。帝国内からのリンカによる接続は、ほぼ数ヶ所からに限られていた。リンカは個人が衛星群の――あるいはそれ以外の機器の――機能を使うためのものだ。ユーザを集める理由はない。いや、ユーザも衛星群も分散していることこそが強みだ。特定の誰か、あるいは特定のどこかを叩けばことが済むような状況を回避するためのものなのだから。ユーザを集めているのだとしたら、その基本理念に反した運用になる。これは帝国がシステムの理念を知らないということなのだろうか。あるいは、集めざるを得ない状況があるのだろうか。たとえばリンカの電源の問題というような。

 もう一つはまずい状況だった。マックスと衛星群、そして内通者からの情報で、大型核兵器の制御が、それも帝国内のコントロール・ルームからの直通の制御がアクティブになっていた。アクセス権を確保しただけではない。すでにアクセスしている。それも衛星を通さずに直接。

 私たちのチームは頼りになる。まぁサンデルとガーランドについてはわからないが。そこで、ユーザが集まっている数ヶ所に分散して、あるいは順次攻撃を加えるか、それとも核に集中するかというオプションがある。だが、リンカあるいはシステムの理念からすると、そこを攻撃するのはいい選択肢かどうかはわからない。核にしても、内通者が関わっている点が気になる。

「どう思う?」

 ジェフリーとハルダーソンに訊ねた。

「俺たちゃ戦争屋じゃないからなぁ」

 ハルダーソンが困惑気味に答えた。

「俺らだけでやることもないんだろ?」

 ジェフリーが答えた。

「それはそうだが」

 二人を見ながら答えた。

「だが、転送を使えるのはまだ私たちだけなんだ」

「上からの魔法ってのはまずいよな」

 ジェフリーが、何かを思い出したように言った。

「だけどよ、聞いたことがあるけど、核ってのもまずいんだろ?」

 ハルダーソンも付け加えた。

「そうだな。何であれ、ともかく帝国に攻撃をさせたら、もう終りなんだ……」

 帝国に攻撃させない方法などないだろう。だが、できるだけ規模を小さくできれば。

「やっかいなことに巻き込んでくれたなぁ、デュカス」

 ハルダーソンがあきれ顔で言った。

「巻き込んでだって?」

 そうだ、巻き込まれたのは私たちだけではない。

「たぶん、もう一チームいるぞ。それも転送を使えるんじゃないかというチームが」

 オブライエンが驚いた顔で私を見た。

「あれは、私たちの拠点で……」

「そうだ。だが、マックスたちと関わったチームがたぶんもう一ついる。マックス! 連絡役に連絡はつくか?」

 ブンと、私の右肩から音がした。

『もうあっちも準備しているよ。どっちがどっちを受け持つかというような話を待っている』

「あっちの経験は?」

『君たちに勝るチームがいると思うのか?』

「それなら、私たちが危険な方に行くのがいいんだろうな」

 私は皆に目をやった。サンデルとガーランド以外は、「そういう成り行きだな」というような顔をしている。危険なのは、人数を分散せざるを得ない、ユーザが集まっている数ヶ所だろう。

 ジェフリーとハルダーソンには、転送が済んだら派手にぶっぱなせと伝えた。

 他の者には「遅延評価」を教えた。必要になるまでは計算をしない方法だった。私もうまく理解しているとは言えないが。攻撃場所を推定値で与えておき、転送後に座標の補正を行なえば、1秒だけだとしても早く攻撃できる。私とタックマンとオブライエンは各々一ヶ所を攻撃したら、可能なら次の場所に転送して更に攻撃をする。遅延評価を加えた攻撃命令を先に何個か実行しておけばいい。そして状況が悪い場合には、座標に誤差がでるかもしれないが、遅延評価を行なわずに攻撃を行なうようにしておけばいい。

「バンザイ・アタックってやつか?」

 ジェフリーがぼやいた。

「俺たちには帰り道がないし、あんたらはそのまま攻撃を受けちまうかもしれんだろ?」

 ハルダーソンもぼやいた。だが、二人とも「そんなもんさ」と、軽い調子だった。

「しかも、ユーザも兵器も、全てを潰せるわけじゃない。だができるなら君たちを回収して戻ってくるさ」

 私はサンデルとガーランドを見た。

「君たちは降りていい。ハルダーソンが言ったとおり、私たちは戦争屋じゃない。こんなことは私たちがやることじゃないし、やれることでもないんだ」

 数秒の沈黙があった。

 二人とも降りることになった。

「それでいい。君たちには別の仕事がある」

 オブライエンが私の言葉を聞いてうなずいていた。

「そうです。受け継いでもらわなければ」

 タックマンがいつもどおりの口調で言った。

「私たちが受け継いだものを、君たちに渡そう。マックス、リエ・チェンから受け継いだものを、私たちの全てを彼らに」

 そう言い終ると、それはすぐに始まった。二人の目が揺れ、膝をつき、倒れた。


 私は、タックマン、オブライエン、ハルダーソン、ジェフリー、サンデル、ガーランドを見渡した。


「マックス、転送してくれ」


 今なら、リエ・チェンが言ったことがわかる。

 メトセラとは、イモータルのことではない。

 メトセラとは、マックスのことではない。

 メトセラとは、タイラ教授のできそこないのことではない。

 メトセラとは、大記録システムのことではない。

 メトセラとは……

 メトセラとは、いわば大記録そのもののことだ。メトセラとは、知識そのものだ。個人から個人へと、世代から世代へと人間が蓄え続け、積み上げ続けた知識そのものだ。それは人の記憶という仮の姿を取る。それは本という仮の姿を取る。それは大記録システムという仮の姿を取る。

 人は死ぬ。世代は交代する。時にはその継承がうまく行なわれないこともある。仮の姿が失なわれ、一旦は消えたように見えることもあるだろう。だが、それは消えない。いつでも、どこでも、人間の目の前にある。発見されることを、あるいは再発見されることを待っている。個人を越え、人の世代を越え、それは生き続ける。

 そして、今、マックスが、大記録システムが、知識を電波に乗せて送り出し続けている。マックスが、大記録システムが、自分たちの物理的コピーを作り、大記録のコピーを乗せて送り出し続けようとしている。

 人間が蓄え続け、積み上げ続け、継承し続けた知識は、もう消えることはない。たとえ、それを人間が継承できないとしても。たとえ、それを受け取る者がいないとしても。

 恐れることは何もない。


「さぁ、行こう」

 私はそう言った。


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「黙示録3174年」の「単純化運動」に関して。

「黙示録3174年」では作中で、なぜそんなことが起きてしまったのかについて推測をさせています。

それは、彼らは人間が作り出した存在という可能性です。

ぜひ「黙示録3174年」を読んでみてください。

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