第17話: 9-2: 攻撃2
「大出力の物質攻撃?」
横にいたオブライエンに思わず問い返した。
「そんなのは、対応する時間を与えるだけじゃないか」
「だが、それが彼女の希望だ」
オブライエンは首を横に振った。
「仮に、連中がシステムに干渉できるとしたらどうでしょう?」
後からタックマンが言った。
「ロックの段階でということか?」
「かもしれません」
私の前にはハルダーソンとジェフリーが相手の様子を見ている。いつもどおり、このような話には興味はないという様子だ。
「それなら物質攻撃でも同じだろう?」
「ちょっと待って。ロックの時に干渉をどうにかできれば、物質攻撃ならあとは自律して……」
オブライエンを思わず睨みつけた。そうだ。その方法がある。
「すると、ミサイルも撃つとして…… それと鉄球がある。鉄球なら落ちるだけだ。迎撃される可能性はあるが、他の干渉の方法はない」
「その方法だと、いくつか小型の鉄球も落す方がいいでしょう。目眩しになるかもしれません」
『鉄球』と、それは呼ばれている。耐熱タイルで保護されているが、それだけのただの鉄球だ。質量と衛星軌道という高さだけがその威力になる、単純な兵器だ。50トン級の鉄球で、40ギガ・ジュール程度。昔の基準となっていた火薬に換算して10トン程度の威力だろう。旧世界の核兵器はキロ・トン級だったことを考えれば可愛いものだ。もちろん、この場でキロ・トン級の爆発なんかがあったら、私たちも消えてしまう。空気抵抗を考えなければ、もっと馬鹿げた威力になるが。
「そうだな」
目眩しは必要だ。ただ、放出の時間をずらす必要があるだろう。
「少し下がろう。さすがにここでは危険だ」
****
「オブライエン、今から攻撃すると伝えてくれ」
オブライエンはうなずくと命令を唱えた。
「タックマン、ミサイルを頼む」
タックマンは黙ってうなずいた。
「位置特定 -起点=私 -方向=視線 -距離=5km -補正=必要 -対象=建造物 パイプ ティー 別名=攻撃目標 パイプ 攻撃 -方法=鉄球 -クラス=5 -数=10 -対象=攻撃目標 セミコロン スリープ 120秒 セミコロン 攻撃 -方法=鉄球 -クラス=10 -数=5 -対象=攻撃目標 セミコロン スリープ 120秒 セミコロン 攻撃 -方法=鉄球 -クラス=50 -数=1 -対象=攻撃目標 実行」
横ではタックマンが同じように命令を唱えている。
ジェフリーとハルダーソンは後から様子を伺っている。ジェフリーは双眼鏡を使って。木もあるのだから見え難いと思うが、こういう心配性なところが信頼できる点の一つだ。
「いつもと違って何も起こらないな」
ハルダーソンの緊張した声が聞こえた。
「何百kmか上から落ちてくるんだ。それも光がじゃない。物がだ。何分か、かかる」
後の二人から少し気が抜けた雰囲気が伝わってくる。
「気を抜くなよ。見たことがないことが起こるぞ。俺も見たことがないことが」
その時だった。
「デューカース!」
その声が聞こえた。
この場にいた全員に緊張が走った。各々あちらへこちらへと眼をやる。
「拠点で何か光った」
ジェフリーが叫んだ。
「もう始まったのか?」
ハルダーソンが叫んだ。
「こっちのはまだだ。だが、何かが始まった」
「デューカース!」
またその声が聞こえた。
「デュカス、この声はまさか!」
タックマンが叫んだとおりだ。そう、そのまさかだ。ありえない。
「タイラ教授の声だ。ありえない。マックス!」
「すまない、デュカス。私の命令が充分ではなかったのかもしれない」
オブライエンがいつもの落ち着いた様子とは違い、早口で言った。
『デュカス、三人に割り込むぞ』
「マックス、助かる。承認」
『あれはタイラの複製だ。だが君たちの頭蓋内回路を過信するな。君たちの頭蓋内回路で複製できるデータはたかが知れている。あれはできそこないに過ぎない』
タックマンもオブライエンも私を睨んでいる。いや、睨んではいないのだろう。ただ驚きからだろうか、見開いた眼がそう見えるだけだ。
「君が言っていた結社との繋りというのは、こういうことだったのか」
タックマンの口調もいつもとは少し違う。
「そういうことらしい。こんなことだとは予想もしていなかったが」
『タイラが今すぐに君たちに手を出せるわけではない。今、タイラの体となっているロボットと通信している衛星と、さらにそれと通信している衛星を探している』
「それでどうなる!」
『どうにもならない。こうなった存在を消し去るのは難しい。だが復元に時間が必要になる程度にはできるだろう』
「デューカース!」
確かにこれはタイラ教授のできそこないなのかもしれない。
後の二人は息を殺している。
「デューカース!」
その時だった。
「私のが来るぞ!」
タックマンが叫んだ。そして、光、爆発音、衝撃。
それに遅れていくつもの大きな、あるいは小さな光、爆発音、そして衝撃。
* * * *
補: 計算をミスってたらすみません。鉄球の放出時刻をずらしているのは、空気抵抗を考慮すると、少しその影響を受けるためです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます