第15話: 8-3: ハセガワ3

 デュカスはキューブを手に取り、ランプの明りで眺めたり透かしたりしている。そうしている間にぽつりと言った。

「緊急通信 -対象=タックマン -内容="すぐ来てくれ。学院にいる"」

 そう言ってからも、飽きずにキューブを眺めまわしている。

「俺も呼びに行こうか?」

 そんな通信なんか、タックマンがいつ見るかもわからないだろう。

「いや、今のは頭蓋内回路だけでも受信できるやつだ。負担はかかるが」

 相手の都合とは関係なしに聞こえるということか。タックマンも迷惑だろうに。

 デュカスはまた飽きずに眺め続けている。その手が止まった。

「これは記録が消去されたということか?」

 指で撮んだキューブをハセガワに突き出して訊ねた。

「いや、青いからまだ何か入っているのだと思う」

 デュカスはキューブをテーブルに戻した。

「それの再生方法は?」

「わからない。ただリエからは、さっきの内容を見せるようにとだけ」

 何かが残っているにしても、取り出せなきゃ意味がない。なんでそんな間抜けな方法を取っているのか。その親ってやつは随分な長生きで、頭も良いんじゃないのか?

「マックス!」

 突然デュカスが誰かを読んだ。

「そうだ。さっき録画した中に鍵があるんじゃないかと思うが」

 そういえばステーションとやらでそういう名前のやつに会ったな。

「今はアーサーなのか? マックスに伝えてくれないか?」

 デュカスの言葉を聞きながら、部屋の中に目をやっていると、机の上で緑色の光が点滅しているのに気付いた。

「どういうことだ? 君がいなくなるっていうのは」

 なんとなくソファーから立ち上がり、その光がなんなのかを見に行こうと思った。

「統合? マックスに? 確かにそんなことを言っていたとは思うが」

 机の前に立ち、光が点滅している円盤を手に取った。

「おっと、それには触らないでくれ。通信が不安定になる。いや、こっちの話だ」

 デュカスは振り向いてこちらを見ていた。魔法の道具の一つってわけだ。以前にもどこかで小さいものを放り投げていたことがあった。あれがこれか。魔法というわりには、案外不自由なものだな。

「マックスか? アーサーが消えるというのはどういうことだ?」

 円盤を机の上に戻し、俺もソファーに戻った。

「個別の人格だと計算資源が無駄? だが、アーサーは再構築時に統合されることに同意なんかできる状態じゃなかったぞ」

 人格がどうとか言ってたな。消えたとかも。そこにアーサーが納まるってわけか。あんな映像も声も誰だかわからなくなるような状態になってしまうことに同意なんかする奴がいるのかね。

「鍵? あぁ、それはすぐ欲しいが、アーサーについて……」

 そう言った時にドアが大きく開いた。タックマンが上体を屈め、膝に手をあてて肩で息をしている。デュカスもドアを見ると手招きをした。

「タックマンが来た。その話はあとでじっくりさせてもらうぞ。今はのキューブの開錠だ」

 タックマンは息を整えると、俺とハルダーソンのソファーに腰を下した。デュカスはポットを指差している。

「タックマン、リンカを起動してくれ。ここのリピータを使ってかまわない。記録をそっちでも取っておいて欲しい」

 タックマンはうなずき、フードをかぶった。これも面倒なことの一つだと思う。魔法使いってのは、あれじゃないのか? 何でも好きなようにできるんじゃないのか? デュカスとタックマンとつるんで来たが、見る限り随分不便なものに思える。

「じゃぁ開錠を頼む」

 デュカスとタックマンはキューブを睨んでいる。そのキューブが今度は透き通った緑色に変わった。

「何も再生されないぞ…… 映像じゃない?」

 デュカスとタックマンはキューブと互いを睨み続けている。

「パッチ? 転送機能の? 君がなにやら随分不安定だと言っていた機能か?」

 そう言っている間に、キューブの緑色は褪せ、ただの透明なガラスのキューブになった。

「つまり、彼女はそこから出られないから、こっちから来い。手段は用意したというわけか」

「デュカス、ちょっと待ってください。さっきの映像も見ましたが、私たちが行ってどうこうできるものでも……」

 タックマンが遠慮がちに言った。デュカスと見た映像だと、それほどでもないだろうと思う。いや、魔法とやらが使えるなら、行ってどうこうできるという話でもなく、行かなくてもどうにでもできるようにも思う。まぁ、派手にやったら戦争がおっぱじまるかもしれないが。

「手渡したい? そう書いてあるのか?」

 ハセガワがガラスのキューブを手に取った。しばらく眺めたあと、指で摘み、デュカスに見せてからポケットにしまった。デュカスはうなずいていた。

「わかった。パッチはそっちでどうにかしてくれ。じゃぁ」

 デュカスはそう言うと、フウと息を吐き、俺たちに目をやった。

「やることは簡単だ。向こうに行って、施設を上からぶち壊し、彼女に会って、それから彼女からなにかをもらう。それだけだ」

 それだけねぇ。ずいぶん派手なことになりそうだが、大丈夫だろうか?

「ともかく、マックスの作業が終るまで、腹に詰め込むぞ」

 そう言うと、デュカスはソファーから立ち、俺たちを急かすように手を叩いた。

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