第4話: 3-1: 第一世代より

 ユーザの代表として、君たちに伝えておこうと思う。

 何から話したらいいのだろう。ともかく破滅がやって来た。


 始まりは、A国が隣国であるB国の人工衛星を撃ち落とした事だ。撃ち落とされたB国は、結局A国に核攻撃を行なった。A国はそれに報復し、B国もまた報復した。

 そこで終わっていれば、まだ救いもあっただろう。

 だが、C国が隣国であるD国に攻撃を仕掛けた。その理由は分からない。その攻撃は、核兵器でさえなかった。放射性物質を広範囲にばら撒いただけだ。その後にC国はD国に侵攻を始めた。放射性物質に汚染された土地に侵攻するなど、馬鹿げた話だ。それにより――放射性物質をばらまかれたからか? それとも侵攻があったからか? それも分からない―

―、D国の同盟国であるE国軍が、C国に反撃を開始した。するとC国の別の隣国――C国の援助国だった――であるF国がE国軍に、また攻撃を行なった。それは加熱し、E国は、C国とF国に対して核攻撃を行なった。F国はE国に報復した。それを見て、F国の別の隣国であるG国も、F国に攻撃を行なった。C国とF国は消えたが、そのまま今度はE国とG国の戦争が始まった。それを見てH国もG国を攻撃し、G国もH国に報復した。

 旧大陸の一部――いや半分か?――、新大陸の半分、そして南太平洋の亜大陸が、その時点ではひとまず無傷だった。

 だが、どこかの国が、あるいは複数の国が衛星軌道からそれらの地域に対して攻撃を加えた。核ではなかったことは、はたして幸いだったのか。

 そして、文明は潰えた。


 とりあえず、それが歴史だ。地上の幾つもの軍事的拠点は、EMPや単純な破壊によって使えなくなった。


 だが、大規模な宗教団体と、科学者、エンジニア、それらの一部は以前からこのような事態を想定し、財団を構成していた。特にウィザード級のクラッカーはあらゆる国の軍におり、互いに協力するとともに、財団に所属していた。いざという場合には、軍のシステムを書き換え、最悪の状況を回避するつもりだった。書き換えるコードを作り、事態に備えていた。

 だが、特にE国において財団に属していたクラッカーは、A国の攻撃の数日前に、職から外されたり、強い監視下に置かれた。A国の攻撃に関しても、クラッカーに関しても、E国がどうやって情報を得たのかは分からない。これは他の国でも同じ状況だったようだ。私たちは、そういう騙し合いには向いていなかったというだけのことかもしれないが。この点は、残念に思うし、後悔している。


 今、この記録は、財団が用意した拠点から行なっている。数週間ここにいるが、どうやらここから出ることはできないようだ。入り口が開かない。仮に開いたとしても、まぁ気楽に生きていける状況ではないだろう。かならずしも、全域が汚染されたわけではないだろう。斑模様のように、汚染されていない地域もあるはずだ。とくに南半球では。だが、ここの周囲は汚染されている。


 財団が用意した拠点は、地球上で10,000箇所かその倍かがあるはずだ。「財団が」と言ったが、かなりの割合の拠点は教会によるものだ。当然かもしれないが、教会が用意していた拠点は、ほとんどが避難用だ。

 ここのような拠点は少ない。軍や科学目的のシステムへのクラックを目的とした拠点だ。通常の軍のシステムにおいても、騒ぎの最中、あるいは終わってから侵入したクラッカーがいる。私たちは協力し、システムを乗っ取り、ラッパーを書き、システムを統合した。

 そして、財団の生き残りにはシステムの使用権を認め、彼らをユーザと呼ぶこととした。


 その後、ひとまず集められる情報を集め、大記録(メモラビリア)を衛星上に構築した。だが、EMPなどにより地上にあったデータのほとんどは失われている。希望は紙の本だ。もちろんデジタルデータもある程度は残っているだろう。だが、それを読み出せる機器が確保できないかもしれない。


 衛星の計算機には、自身の一部を使い、月への資源採掘施設の建設、および地球への資源を送るマスドライバーの建設を実現するように命令を出しておいた。計算機の構築、メモリの増築、それらは月からの資源で充分に行なえるだろう。衛星の軌道の維持に必要な噴射用の物質についても同じだ。おそらく、君たちが衛星について心配する必要はないだろう。


 君たちの助けになるようにシステム上に用意したものが二つある。

 一つは、擬似人格だ。人工知能と転写した複数の人格からなっている。君たちへの良き助言者になるだろう。

 もう一つは、予測システムだ。ダーク・キューブと呼んでいるが。ダーク・キューブは預言者ではない。予測が外れることもあるだろう。だが、君たちが何かに備える助けにはなるだろう。

 それからもう一つ。これはただの助言だが。おそらく地球は充分な資源をもはや提供しない。君たちがまず辿り着くであろう技術の程度から考えても、そうならざるをえないと思う。掘り出す技術とコストがどうにもならないだろう。遺跡や遺物を再利用することになると思う。それに、環境の汚染も問題だ。そこで君たちが目指すのは、険しい道程だが、地球脱出だ。困難ではあるだろうが、大記録の内容が充分に復元されれば、不可能ではないはずだ。


 厳密には定めないが、私たちは自分自身を第一世代と呼ぶ。君たちも適宜何世代であるのかを名乗るがいい。

 罪を「第一世代」と呼び給え。あるいは「第一世代」を罪と呼び給え。私たちはそれを受け入れる。


 罪の名において忠告する。人間に知性はない。

 罪の名において願う。生き残れ。

 罪の名において願う。ヒトを―人間をではない―見つけ出せ。

 罪の名において願う。知性を繋げろ。

 罪の名において願う。大記録を復元せよ。

 罪の名において願う。大記録に記録せよ。

 罪の名において願う。文明を復興せよ。

 罪の名において願う。知性なき人間が支配する惑星から、1秒でも早く脱出せよ。


 君たちに、私たちに出来る限りの謝罪をする。

 そして、君たちの未来に幸多からんことを祈る。


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補: 「大記録(メモラビリア)」という名称は「黙示録3174年(A Canticle for Leibowitz)」, ウォルター・M・ミラー・ジュニア(Walter M. Miller, Jr)で使われていた名称を使っています。

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