竜の棲む学園

狐付き

導入 Enjoy to the Dragon’s Palace.

「真間学園へ入学し、己の力を確かめるがよい。本当の力を知りたければな」


 死んだじいちゃんの遺言だ。


 幼い頃、俺は両親の仕事の都合でじいちゃんの家に預けられた。

 じいちゃんは息子──つまり俺の親父が生まれるずっと前から武術をやっていたらしく、幼い頃から俺にもそれを叩き込んだ。


 だけど俺は好きじゃなかった。

 理由は単純で、名前がダサかったからだ。

 だって鋤拳すきけんだぞ。鋤っていえば農具だろ。かっこ悪くて決して人に言えない。

 もちろんガキの時はそんなこと考えてもいなかったし、お遊戯とか体操みたいなものだという認識だったと思う。あまり記憶にないから絶対そうだと言い切れないが。


 にも関わらず、自分の力を知りたければ────なんてふざけた話だ。じいちゃんが死んだことは悲しいが、もうやらなくていいということに関しては清々している。

 とはいえ10年もの間、体に染み付いたこの力。これはなんだ? 強いのか?

 俺の今までは無駄だったのか。それとも意義があったのか。

 確かに知ってみたい。自分のことだけに興味はある。

 だからといって一般人に殴りかかるとか気が違えてるとしか思えないし、道場破りなんて今どきないだろう。しかも負けたら袋叩きになりそうだし。

 普通に部活へ入るとしても、どこへ入ればいいのか全く検討もつかない。鋤拳部……うん、ねえな。


 真間学園。そこに行けばなにかしらの答えが出るのだろうか。

 偏差値的にも充分入れるレベルだし、共学なのもいい。

 中学までの生活じゃロクに友達も作れなかった。もちろん彼女もいない。

 授業が終わればすぐ稽古。酷いものだった。寄り道せず帰らないと稽古の時間が異様に延びる。ほぼ児童虐待に近い日々。


 今からでもどうにかできるかと思ったらそうはいかない。公立でほとんど同じ連中と8年以上過ごしてきて、今更どう付き合えばいいのかわからないんだ。誰か誘ってくれるわけでもなく、自分から誘うにも切り出し方もわからん。

 話題を振られてもいいように最近ではネットやゲーム、マンガ、それにラノベまで手を伸ばしてみたが、やはりもう出来上がっている仲良しグループに飛び込むのは難しい。


 だから進学を機に、人間関係をリセットした状態で始めるのが一番だと思う。これで少しは女子と仲良くなれればいいな。

 高校生になったらせめて彼女は欲しい。彼女でもないのにやたらとイチャコラする女友達でも可だ。とにかく学校以外で話せる女の子を欲する。


 俺一人での生活に申し訳ないと思っているのか、両親はじいちゃんの遺産を俺が使いたいようにしていいと言ってくれた。おかげで学校の近くに引っ越せるから日本全国移動可能だ。


 そしてネットで検索しても相当な学校だということもわかった。

 剣道や柔道等の格闘系はインターハイどころか県大会にも出場は禁止されているらしい。

 理由は高校生の範疇を遥かに越えるほどの強さのせいで、あまりにも勝負にならなさすぎて出させてもらえないとかいううわさだ。

 なるほど、制限無しの本当の強さか。

 将来の進路は特に無いし、少しは面白い学園生活を送れそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る