夢幾夜

サタケモト

第一夜



あなたの見る”夢”というものは、いったいどんな”夢”なのだろう。


人が見る夢には、とてもさまざまな種類があるように思う。


まさに、千差万別。


それは、色のある夢だろうか。


感覚のある夢だろうか。


音のある夢だろうか。


夢占いなんていうものにハマって、自分の夢を自分なりに調べたりして占っている人もいるかもしれない。



ふと思うことがある。


ときどき、現実と空想の世界が倒錯してしまうことはないだろうか。


白昼夢を見るような。


現実なのか夢なのか分からないような曖昧なふわふわした空間。


思い出そうとすれば、どちらが現実で、どちらが夢なのかわからなくなってしまうような。


そんな感じ。



脳に直接語りかけてくるような穏やかで居心地の良い声。


男性は視覚で捉えたものから恋に落ち、女性は聴覚で捉えたものから恋に落ちると聞く。



声、言葉、会話。



それらは女性が重きを置くものと、一般的には言われている。


(もちろん、例外はあるので、異論は受け付ける)


(諸説あり、と言っておこう)


「あの人の声、すっごい素敵だよね」


「あの声、いい!声だけで惚れる」


「顔が多少あれでも、声が良ければ許せる」



(ここは”声”という単語を”言葉”という単語に置き換えることも可能)



ここでなぜこの方々は端的にしかモノを見れないのだろうかと、つっかかると話が進まなくなるで止めておく。


人を愛するなら、総体的にしなよと助言したい。



話を戻すと、意識するのは、言語処理をつかさどる左脳である。


普段、あまり脳など意識しない人が多いのだろうけれど、物事と言うのは万事、脳である。


脳がすべてを司っていると言って過言ではないように思う。



一番快感を与えなくてはいけないのは脳だ。


すべては脳内物質の分泌をコントロールするための行動とも言える。



「お初でございます」



そう言って、突如として何の脈絡もなしに語りかけてきた脳内の人。


白っぽくて広々とした、精神世界。



彼はわたしの前で、深々とお辞儀をした。



(ドアを開けた途端、土下座をされた気分)


(頭を下げられると弱い。哀れな日本人の性)



わたしが作り出した誰かなのかもしれない。


自分が作り出した人物であるため、不信感はないものの、行動が不可解で困惑する。



「おひさしぶりです」



言い換えた。


この人、言い換えた。



初めましてっていうのはなんて言うか、距離を感じるから恐らく言い換えたんだと思う。


わたしの理想の人間になるために。


初対面は気を遣うレベルが半端ないものね。


この人どんな人なんだろう、傷つきやすかったりしたら、余計に言葉や態度に気をつけなくちゃ……とか頭がフル回転になる。


そうだ、日常でのわたしの行動が時々不可解になると知人に言われたことがある。


きっと持って生まれたものなんだろう。


変人になりたい凡人とも言えるかもしれない。


(いつも、なんかごめんとつい言ってしまう)


そんな脳内の葛藤がここに現れている気がする。




言葉を十分に選んでくれよ、わたしの理想な人。


わたしは君と有意義な時間を過ごしたい。


わたしは結構、神経質で厳しくてうるさいからな。


理屈っぽいくせにどこか夢見がちなんだよなあ。



「ずっと逢いたかった……やっと逢えましたね」



まるで某作家のような台詞。


ご存知?


いや、知らないということにしておこう。



そう、逢えたら、どうだというのだろう。


出会いは別れ、と聞く。


親しい間柄に生じる離別は大きな辛苦を伴う。


正直、そんなネガティブな発想のほうが進行する。




「どうもしないと、君は答えるのかもしれませんね」



(どうかするよ!まるで人を冷酷な人間みたいに言わないでくれるかい)


(君が消えてしまったら、きっと悲しい)



「不確かでも逢えたときは、どこかほっこりした気持ちになって、人を包み込むやわらかい気持ちにもなれて、……いいものですね」



きっと脳内の人はうっすら微笑んでいて、それはあたたまるような笑顔で、それはわたしの大好きな表情で。


その言葉を聞いて、自分が普段の日常で刺々していた部分が取り払われたように思う。


うだうだ理屈をこねるのも、理論武装してしまうのも、どこか弱い自分を守るためかもしれない。


確かに自分は言葉を重視するけれど、この人のようにどこか寄り添ってくれるような感覚だけで本当は十分なのかもしれない。



癒し系だね、君は。


なんだろう、脳が全てなはずなのに、心があったかいや。




そうしてわたしは朝、定時に目が覚める。


目覚まし時計が不要なこの身体。


目覚めて目元を擦れば、頬が濡れていて苦笑してしまった。



(ほら、やっぱりお別れがつらい)


(いかないでと引き止めるのは、いつもわたしのほう)



人が大好きで、だからそれ故につらい。


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