パス・ファインダーズ
明けて月曜、その放課後。
「ほーーー! ほほーーーう!! へえーーー!!」
断続的なシャッター音が放送室に降り積もる。
やたらとテンションを上げた園村が何もない空間にスマホを向けて画像を撮りまくっていた。
事実は違う。
園村が振りまわしているのは俺のスマホだ。
彼女は今、雅比を見ているのだ。
「いいねえいいねえ逸材だねえ! こんな美人さんテレビでだってなかなかお目にかかれないよ! あ、雅比ちゃんこっち向いて! ちょっと腰に手を当ててみて! そうそうそんな感じ! うわっ、ちょっと本気で萌えるんですけど! デュフ、デュフフフフッ!」
『む、う、うむ……?』
園村オッサンくせえ。
いや、前からこんなもんだったような気もするが。
雅比たち曰く、神の実力は人間からの信仰、つまり人気によって左右されるらしい。
人気を集めるとは、コンテンツが持つ魅力をどうやって受け手に伝えていくかということでもある。
日ごろから放送用のネタを拾い集めている園村なら確かにその辺りの話には詳しそうだ。
久住の立てた白羽の矢は的を得ていた。
「ま、話はわかったよ」
園村はくるりと振り返ると指を立て、
「つまり雅比ちゃんとライバルとで人気の取り合いをしてるんだよね? で、人気を集めるための手伝いをあたしに頼みたいって言うんでしょ?」
「ま、まぁ間違ってはいないけどな……」
なんというか身も蓋もないまとめ方だ。
いや、もちろん一通りの事情は話したし、理解した上で言ってるとは思うんだが。
「なんとかできそうか?」
「うん、だいじょぶだいじょぶ! 雅比ちゃんみたいな和テイストでキレイめポジションってかなりレアだし、そもそもそんなポジションなんか気にしなくていいくらいのカリスマがあるもん! 売れるぜ!」
うわ、すげえ。
三百年モノのジャパニーズ・ゴッドを指して「和テイスト」と来ましたよこの女。
そしていつから売り出す話になったんだ。
芸能界にでも進出させるつもりか。文字通り嵐が吹き荒れそうだが。
「ただねぇ、ひとつ気になってるんだけど、」
園村は撮影の手を休めてこちらを振り返り、
「雅比ちゃんって朝田のスマホでしか見れないの?」
『うむ、今のところはそうじゃのう』
「そうなのかぁ。うーん」
園村は難しそうに首を捻りながら声のトーンを斜めに落として、
「それじゃあ、ちょっと厳しいかなぁ」
「え、今いけるって言ってたじゃねえか。ダメなのかよ?」
「うん、ええとね、そうだなぁ……」
俺の質問に園村は考えをまとめるように額に指を当てる。
「新しいものに興味を持ってもらうためには、実際に体験してもらうのが一番の早道なんだよね。かっこいい音楽。おいしい料理。かわいい服に、面白い映画。そういうのは、当たり前だけど自分で体験しなきゃ楽しめないでしょ? 雅比ちゃんについてもそうで、自分の目では見えないけれど、スマホを向けると見えるし聞こえるっていうのが一番面白いと思うんだ。だから、やっぱり自分のスマホで雅比ちゃんの姿を見れないとたとえウチのアカウントで流しても話は広まらないと思うんだよね」
なるほど、さすがの説得力だ。
が、園村の意見を生かすためには超えなければいけない壁がある。
「なあ雅比、園村のスマホでもお前や火雷天神の姿を見られるようにできるか?」
『ふむ。不可能ではないが、時間はかかるじゃろうな。お主のときにも半日ほどかかっておる』
「一台あたり半日か……。残り一週間と考えても最大で十四台?」
「しかもそれ、かかりっきりでやった場合の話だろ? 現実的じゃねえよなぁ」
久住も腕を組む。
そもそも園村が言っている「みんな」とは不特定多数を指しているのだ。
直接スマホへ乗り移って云々など手間がかかることができるとは思えない。
みんなして頭を悩ませていると、
『――あ、あの、私がなんとかできるかもしれません』
火狐神だった。
久住のノートパソコンに注目すると、ブラウザが幾つかのテクノロジー系のブログを展開する。
『ブラウザを経由してスマートフォンのカメラを直接操作する方法があるんです。私のブラウザはスマートフォンにも対応してるので、インストールさえしていただければ神の姿を映せると思います』
「なんとか……つってもオマエ、スマホにインストールしたブラウザを一つ一つ操作するってんじゃ、雅比の言ってる話とほとんど変わらないんじゃねえのか?」
『はい。なので、それぞれのブラウザを神社に見立ててそこに
「あーそういうことか。なんとなくわかってきた。つまり誰にでも雅比が見えるようになる機能をブラウザへ追加するためのアドオンをオマエが用意しとくんだな? それをみんなにインストールしてもらうと。確かにそれなら何とかなりそうか。……あ、でもその話の流れだと専用のウェブアプリが必要になるよな。オレ、ブラウザからスマホのカメラを操作するやり方なんて知らねえぞ……?」
『ええと、HTML5で提供されているAPIにそういうのがあるみたいです』
ブラウザにさらに幾つかのタブが表示される。
久住は顔を近づけ目を凝らし、
「うわー、やっぱりjavascriptかよ。あんま得意じゃねえんだよな……。まぁ、サンプルぐらい探せばすぐ見つかるか……?」
久住はうんうん唸りだす。
「えーっと、つまり、なんとかなりそうなのか?」
話についていけてない組代表として俺は久住に確認する。
すると久住はだいぶ迷ってから、最後にはしっかりと頷いた。
「んんんんんんんん――――うん、まあ、なんとかなるだろ! この問題はオレと火狐神で片付ける。時間もないし、明日までになんとかするわ」
「わかった。頼む」
アプリのことで久住が嘘をついたことはない。
明日までにやると言ったら絶対にこいつはやる。
『では、その間、朝田とワシはどうするかの?』
言われて少し考える。
この場にいない追風は、病院で母親の看病をしている。
国津の土地に新たな地主神を迎える方法を調べておくとも言っていた。
そっちはもう追風に任せておくしかない。
他になにかと考えて、すぐに宿題があったことを思い出した。
雅比を地主神にするための由来を探すのだ。
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