サエコと一緒にシチューを食べた。
キャンプの計画。
ある暖かい春の日、午前の作業を終えて兄と僕が母屋で昼食を
「おーい、コウジ、シマサネ君から電話だぞ」
受話器を取った兄に呼ばれて、僕はテーブルに
シマサネ・ユキオは同じ町に住む少年で、
まあ、この町では成功者と言って良い家だった。
「や、やあ、コウジ君」
電話の向こうでシマサネ・ユキオが言った。ユキオには
「よう、ユキオ。どうした?」
「ら、来週、ぼ、僕、
ユキオの
戦中から終戦直後にかけては物資不足で相当苦労したらしいけど、最近は少しずつ物流も安定して来たって話だ。
今年の始めに商売を
ユキオが言うには町から車で三時間、森の中を延々と走った山奥に小さな湖というか大きな池というか、とにかく良い釣り場があるらしい。
その
「も、もうキヨシには、れ、連絡済みだよ」
ユキオが言った。
「す、
「そうか……」
誰も知らない山奥の池だか湖だかで二泊三日のキャンプ。なかなかそそられる計画だ。
「面白そうだけど、何しろ兄貴の許可をもらわないとな。いま家から電話をかけているのか? 兄貴と相談して決まったら折り返し電話するよ」
それから少し世間話をした。ユキオの奴、何か僕に言いたそうな……というより聞きたそうな感じだったけど、
まあユキオが何を聞きたかったのかは大体予想が付く。
要するにサエコの情報を僕から引き出したかったんだ。
山寺の住職が僕の家とヨネムス家を襲撃した事件以来、サエコが町中の注目を浴びているって話は、ヨネムスさんの奥さんから聞いて知っていた。
M・O・E・M・O・Eの決定により都会からこのオッドヤクート町へ来ることになった少女。わずか十四歳で婚約。町へ来て数日後に凶悪な事件に巻き込まれる……話題の少ない田舎町に突如出現したドラマチック・ヒロインという訳だ。
時々サエコと奥さんは町へ買い物に出かけるらしいけど「
サエコに興味を持っているのは噂話好きの奥さま方だけじゃない。
僕らと同世代の少年少女たちにとっても彼女は神秘のベールに包まれた謎の少女、って事らしい。
僕は単刀直入にユキオに聞き返すことにした。
「お前、サエコに興味があるんだろ?」
「な、な、何を言っているんだ、コ、コウジ……ぼ、僕は、そ、そんなつもりじゃあ」
電話の向こうの友人は、聞いているこっちが憐れになる位しどろもどろになりながら、僕の言葉を否定した。
「そんな、興味をそそられるような女の子じゃないって。ごく普通の、僕らと同じ十四歳の少女だよ」
「だ、だから……べ、別に、僕は、そ、そんなつもりで言ったんじゃあ……」
「とにかく釣りキャンプの件、兄貴と相談してみるわ。あとで電話する。誘ってくれてありがと、な」
そう言って僕は受話器を置いた。
昼食のテーブルに戻って、ユキオの提案を兄に話した。
「釣りキャンプねぇ……」
食後のコーヒーを飲みながら、兄がつぶやいた。
「もう一度、メンバーを言ってくれ」
「シマサネ・ユキオと、ユキオの
「保護者はシマサネさんのご隠居さんか……まあ、あの人なら間違いは無いだろうが……行先は聞いているのか?」
僕は首を横に振った。
「なんか、町からクルマで三時間の山奥だって言っていたけど、正確な位置は分からない」
「そこだけは確認しておかないとな……他にも色々と聞きたい事もあるし、一度シマサネのご隠居さんの所へ挨拶しに行くか」
「じゃあ……」
「もうすぐ春の
コーヒーを飲み終わって立ち上がりながら兄が言った。
「簡単で良いから、計画書を書いて出せ。最低限、出発日時、ルート、目的地、帰宅日時は教えろ」
「分かった」
「納屋に
「ああ。ありがとう。探してみるよ」
「まあ、ホームセンター・シマサネのご隠居と御曹司が一緒なら、こっちは何も用意する必要が無いかも知れんが」
流しでカップを洗ったあと、兄は「先に西の畑へ行っている」と言って母屋を出た。
僕もコーヒーを飲み終えて
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