第2章 ここから


■第2章 坂下千智Side ―ここから

 Dec. 20th (Thu)12月20日(木)

 美山市胡央村公立F高校屋上     PM12:35 ―123:54:59




 坂下千智の元にそのメールが届いたのは、ついさっきのことだった。学校の屋上から遠くを見つめていたら、ふと携帯に届いたメールに気付いた。あまりにも突然のメール受信だったので驚いてしまったのは仕方ないと考えた。早速そのメールを見るために、携帯電話の受信メールBOXの中を見る。そこに、先ほど届いたばかりのメールの送り主のアドレスが書いてあるが、見たことのないアドレスだった。オマケに件名は『Witch Hunt ――魔女狩り戦争への招待状』と書かれている。


 ――うわっ、スパム(迷惑)メールだ。

 そのメールを見た第一印象がそれだ。見たことの無いメールアドレスに、訳のわからない電波じみたメールのタイトル。どこぞの業者が暗躍しているのだろうか。今や時代遅れも甚だしいスパムメールだが、こんなのに未だに引っかかる奴なんているのだろうか。しかしまぁ、スパムメールの件名のレパ―トリ―はものすごい数あれど『魔女狩り戦争への招待状』なんてタイトルのスパムメールは初めて見た。


 開いてみる価値は、まぁあるだろう。これを書いた人は必死になってこういうタイトルを考え出したのだろう。今の時代、携帯電話のメールを開いただけで電話本体をオシャカにするウイルスなんて聞いたことがない。



 スマ―トフォンならいざ知らず、これはただのガラケ―だ。もしこれが新種のウイルスの一つであってもこの携帯電話はもうかなり古い。壊れても問題はないだろう。と、あらゆることを考えてこのメールを開けてみた。メールの文面も、タイトルに負けず劣らず電波染みたものであった。


「あなたを、Witch Hunt―魔女狩り戦争―へ招待いたします。

 おめでとうございます。あなたは、魔女狩り戦争の参加を認められました。

 目的は単純にして、明快です。それは、

 『魔女を、殺すこと』です。詳しい魔女狩り戦争のルールにつきましては、

 別に送りますメールを参照してくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。


  Witch Hunt ―魔女狩り戦争―

  運営本部長 第一級魔導士 ウェルメ・リカ―ゼル」


 さて、このメールを読み終わった直後、自分はどんな顔をしていたか。いくらなんでもこれはないだろう。なんだよこれは。




 せっかくの面白そうなメールのタイトルがこの内容では台無しではないか。メールのタイトルだけを見れば、もしかしたら中身を見てくれる人がいるかもしれない。現に、自分が見てしまった。自分が見たんだから他の人も見ているだろうという都合の良い設定だ。都合は良いが、ロジックにはなっている、はずだ、きっと。しかし、このあまりにも電波染みた内容ではせっかくメールを開いた人が逃げてしまう。しかも、それにこれはなんだ。他にアドレスすら貼っていない。本当にこのメールを送信した業者は他の人間を騙す気があるのだろうか。これでは引っかかるものも引っかからない。別に僕は犯罪を奨励するわけでは決してないが、こういったよくわからない、中途半端なものというものはものすごく嫌いだ。一番嫌い、といってもいいかもしれない。



 まったく、スパムメールを作り、不特定多数の人物に送りつけるのは一向に構わないがもっとこう、趣向を凝らした努力を、はたまた、努力の痕跡を見せてはくれまいか、と思わずにはいられない。



 そして、もう一通メールが届いた。別にこれといって急いでいるわけでなかったが、他にやることもなかったので優先的にそのメールを確認した。先ほどのメールの送信先のアドレスと同じメールアドレスから。ウィッチ・ハント運営とほざいてらっしゃる業者からのメールだった。



 さて、ウィッチ・ハント様はなんとメールを送ってきたかな。たしか、先ほどのメールには、次に来るであろうメールには、ウィッチ・ハント、――魔女狩り戦争とやらのルールが書かれているんだっけか。まったく、上等だ。戦争にルールも糞もあるもんかとは思うが、そんなルールが一体どういうものであるか、気になるではないか。早速確認してみよう。


 そして、次のメールを早速確認してみることにした。先ほども言ったが、メールの送り主はウィッチ・ハントの運営と名乗る輩のメールアドレスのものと同一だった。そして、メールのタイトルは、『ウィッチ・ハント ――魔女狩り戦争を行うにあたってのルール、その他注意事項』だった。


「皆様、こんにちは。時候の挨拶等をここにいれたいのですが、それはあまりに無粋であろうと察しまして、ここでは省略させていただきます。それでは早速、ウィッチ・ハント――魔女狩り戦争のルール等を説明させていただきます。


 先ほどのメールにもありました通り、この魔女狩り戦争の目的はただ一つ。『魔女を殺すこと』になります。皆様も中世ヨ―ロッパにありました『魔女狩り』はご存知かと思われます。我々が住む人間社会において、魔女という存在は相容れないものであることは周知の事実であります。しかし、我々、人間が生きている限り、様々な不条理、理不尽、現実と言う名の都合の良さを利用した様々な悪虐、目を向けることができない悲惨な凶宴を目の当たりにした方々も少なからずいらっしゃるかと思われます。




 そう、人間の社会、我々が生きるこの世界は決して平等などではありません。しかし、現実というものは皆様に対して、決して手加減はいたしません。現実は、我々の世界が平等であろうと不平等であろうと、容赦なくその仕事を、淡々と遂行いたします。我々の世界が平等であろうと不平等であろうと、です。


 世界は人間が作り上げていくものです。これはいい。では、現実というものは誰が創り上げたものでしょう? 神が創りあげたもの? いやいや、それもまた、違う。しかし、神の存在を信じる者は、もちろん神が世界を創りあげるものであると信じるでしょう。神の存在を信じない者は、神の存在を仮定してください。もちろん、神の存在を信じなくても結構でございます。ここは日本ですので、おそらくほぼ全員が神の存在など信じてはいないでしょう。私、ですか? 私が神の存在を信じていようがいまいが、そんなことはどうでもいいではありませんか。私が神の存在を信じていよういまいが、神は存在しますし、また、神は存在しません。




 では、話をさらに進めて参りましょう。神の存在を信じない者は、神の存在を仮定してください。そして、その仮定の神は、極一般の神を想定してください。できるだけ邪気の無い想像をしてくださいよ。ヒネくれた想像は禁止でお願いいたします。8歳の子供が考える神の像で結構でございます。極一般ですよ、極一般でお願いいたします。




 では、皆様が神の存在を仮定した、という前提のもと、この先話を進めさせていただきます。その神はどんな姿形をしているでしょうか。もちろん、外見の容姿のことではありません。中身のことです。おそらく、多分、の領域を出ませんが、それはきっと、慈愛に満ち満ちた姿ではないでしょうか。どんな人にも笑顔を見せ、弱きものには救いを与え、罪ありし者には情け容赦ない裁きを与える存在ではないでしょうか。そう、一概には決して言えるものではありませんが、それはきっと、“正義”を体現した素晴らしい存在であるに違いありません。そんな存在が例えいるとするならば、なるほど、我々はハレルヤッと言いたくなる気持ちもわかるものですね。もちろん、他の姿形を想像した方々もいらっしゃるとは思いますが、申し訳ありません。ここはそうした姿形に一本化をさせていただきます。他の、もっと残虐な、リアリスト(現実主義)、ペシミスト(悲観主義)の神を想像してしまった方々はその仮定を一旦捨て、こういう素晴らしい神を想像し直してください。おそらくその神は一般人、普通の人々が想像する神の姿ではありませんから。




 では、その仮定、想像から一歩離れて、なおかつその仮定想像を忘れずに現実を見てみましょう。その仮定を忘れずに、です。“もし神が存在するならば”という仮定を、です。




 もし、その神が仮にこの世界を作ったとするならば。この世界は一体どういう世界になると思いますか。慈愛に、寛容な心に満ちた神です。あくまで仮定です。何度も念を押させていただきますが、これはあくまで仮定の、思考実験レベルの話でございますので、気軽にお考えください。




 その慈愛に満ちた優しき神が、世界を作ることにします。ええ、まだ、この世界が無かった、まだすべては「無」に過ぎなかった頃のお話です。



 その神が、悲劇に満ち溢れる世界を果たして作るでしょうか? いや、作らないでしょ、とごく簡単なゴシックで結論付けることができます。そりゃそうでしょう。どうして神が、慈悲深い愛に満ち溢れた神が、惨劇、悲劇に満ち溢れる世界を作ることがありましょうか。たくさんの、数えきれないほどの不平等、理不尽、惨劇がこの世界にはあります。つまり、この世界を作った神は、世間一般の方々が想像するような慈愛に充ち溢れた神ではないということです」




 そこまで読んで、坂下千智は一度携帯から目を上げた。……とんだウルトラ電波メールを読んでしまった、と、軽く後悔をしてしまった。こいつはすごい。そこら辺の新興宗教を地でいっている。いや、もしかしたら新興宗教なんてまだ生易しいものかもしれない。ていうか、よく考えたら自分は新興宗教に関わったことがないからこういう文章を毎日読み聞かせられてるのかどうかも知らなかった。まぁよくは知らないが、良い勝負はしているんだろう。なんとなくそう思った。




 一瞬、もう読むのをやめようかとも思ったが、どうせここまで読んだのだからもう少し読んでやれという、なんとも言い難い猪精神が芽生えてもいた。どうしてやるなら砕けるまで。




 と思ったらさらにメールが届いた。今度はなんだよ、とイラつきながら、新しく来たメールを開いた。メールのタイトルは、『【必読】ウィッチ・ハントのルールテキスト』とあった。【必読】の文字を見てスル―してやろうかと思ったが、どうせ後回しにしてもいつかは開くことになるだろうから、さっさと開いた方がいいだろうという結論に辿り着いた。どういうルールなのか、まったく興味がないわけでもないし。そして、メールの内容は、なかなかに分厚いものだった。





 Rule ―ルール 

 Chapter1

 ①定点Aを中心とした半径10km圏内にいる8人の参加者の内、7人は〝人間〟、1人は〝魔女〟となる。

 ②〝人間〟は〝魔女〟を見つけ出し、殺すこと。〝魔女〟はゲームの参加者〝人間〟を見つけ出し、殺すこと。または、生き残ること。

 ③後述する魔女がゲーム終了時にいた場合、〝魔女〟が優勝者となり、ゲーム終了となる。


 ④ゲームは短い時間で行われるため、ウィッチ・ハント(Witch Hunt)ゲームの硬直化は出来得る限り避けなければならない。そのため、当方がゲーム進行において、著しく不適切と判断した場合は、ゲーム参加者を殺害する可能性がある。




 :ウィッチ・ハントへの積極的且つ複合理由的不参加について Chapter2

 ウィッチ・ハントへの参加については、当方が一方的に決めているため、中には参加したいという強い意志を持ち合わせていない人もいると思われる。途中まではまったく参加する気はなかったが、最終日直前になって仮定魔女の座が転がり込んで、優勝争いを演じることになった、という悪例を避けるため、ウィッチ・ハントへの積極的且複合理由的不参加についてのルールを定めさせていただく次第である。(前々大会より規定)


 ■積極的且つ複合理由的不参加とは?

 ゲームが始まっても魔女を探さない、探そうともしない、他、ウィッチ・ハントに関わろうとする意思がない状態をさす。なお、確定魔女役職の者は、積極的に動かない場合、別のルールによってデス・ペナルティが課されるため、ここでいう積極的且つ複合理由的不参加は、人間役職にのみ当てはまるものである。


 ■最後に

 ウィッチ・ハント参加者の携帯電話には、細工をさせていただきました。

 参加者には、魔女が近くに居た場合、センサ―が反応するようになります。

 電話の着信音、メールの着信音のように、音量、バイブレ―ションの設定を自由にいじれるようになっておりますので、各自ご自由に設定してください。


 ゲーム終了は12月25日午後6時を予定しております。


 ◆


  目が痛くなるような長さだった。……しんどい。

  そんなことを思っていると……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る