第14話

 そんなやり取りの末、最終的に姫名に一日中ついて行った。

 静哉の予想は裏切られ、気になっていた彼女の過ごし方はおもしろくないほど普通のものだった。

 李央の襲撃以降、誰からも襲われることはなかったが、敵の気配を感じ取る姫名の力には目を見張るものがあった。

 そのことで、一つ気になったことがある。

 さっきも言ったように、誰からも襲われることはなかったが、姫名が何度かてこの気配を感じていた。その度に敵は姿を見せず、すっと気配を消していくということがニ、三回あった。

 その正体が誰なのかは分かっていない。それゆえにいつ奇襲されるかわからない恐怖を胸に抱きかけていた。姫名がいれば安心感もあったが、問題は日が暮れかけたこれからだ。姫名と分かれて一人になれば誰も静哉を守ってくれない。紅杏に借りているコテージに入ってしまえば大丈夫だが、それまでにヒソヒソと隠れている敵を撒く必要がある。

「露市はこれからどうするんだ?」

 この質問を投げかけるのはもう二度目だ。前回は冷たくあしらわれたが、それは今回も例外ではなく、

「あなたには、関係ない」

 静哉の予想を裏切らず全く同じ言葉が返ってきた。しかし、彼女の言葉はそれにとどまらずさらに続いた。

「……私は、宝が欲しい。手に、入れなければ、いけないの。だから、戦う」

 花を積み終えた姫名は立ち上がり、静哉に面と向かってそう宣言した。

 初めて姫名自身のしようとしていることを喋ってくれたが、半ば予想できた答えでもあった。紅杏とは性格も態度も全てにおいて対極の位置に姫名は位置している。ちょっと天然なところや、貧困そうな生活をしていても、戦闘時の姫名の力は光るものがある。過去二回ほど見た彼女の戦闘能力なら、もしかしたら勝ち残ることもでかるかもしれない。

 だからこそ、仲間にすることができれば静哉にとって夢を現実にする大きな一歩となるだろう。

「俺は、宝なんかいらない。けど、このよく分からない争いに勝ちたいんだ。勝ち残って、元の世界、元の生活に戻りたい」

 そこで一旦区切り、気持ちを入れ直す。

「だから、俺に協力してほしい」

 はっきりと言い切った。途端になんだか告白でもしてるような緊張感になる。返事を待つ間、一秒の進みが普段の十分の一の遅さに感じた。

 実際には数秒だが、彼の体感では一分近く待ち、ようやく少女の閉された唇が開きかけたとき、静哉の心臓が強く脈打った。

「私には、協力、できない」

「何で!? 最終的な目的は違っても、宝を手に入れるっていうことは同じはずだ! だったらどうして」

「私には、協力、できない」

 一言一句違わず重ねられた言葉が、静哉に重くのしかかった。

 二度同じことを言ったということは頑なな拒否。

 こうして静哉はフラれたのだった。



「ふふふ。おもしろいね」

 別れて別の方向へ向かっていく少年と少女を、茂みから隠れて見ながら不敵な笑みを浮かべた。

 少年の方はキリッとした顔立ちで、勘がよく、物怖じしなさそうな見た目をしているが、予想通りとても鈍感だ。だが、少女の方は厄介そうだ。

 一日中隠れて二人の様子を見ていたが、黒髪の少女の方は一定の距離に近づくと毎回気配に気付かれてしまった。顔は見られていないが、これではあの少女に近付けない。

 奇襲を試みても、奇襲がバレてしまえば奇襲の意味はなくなってしまう。それだと先手は決して取れない。

 これは、戦闘においてかなり痛手だ。

 少女の戦闘能力は李央とかいう大人しそうな男との戦いで簡単ながら拝見した。圧倒的な強さは既に自分を凌駕している。真正面から戦ってしまえば確実に負ける。

 つい、自分の思考に苦虫を噛み潰したような表情になっていたことに気付いて、作り直した笑顔は苦笑だった。

 ここまでは順調に来ている。このまま行けば自分の描いたビジョン通りに事は進む。後僅かの我慢だ。

「そう、だよね。うん」

 自分に小声で言い聞かせポジティブな思考に持っていこうと呟いた。

 とは言え、念には念を入れて少しでもリスクは減らしておきたい。そうなるとやはり敵が自分の存在に気づかれる前に自分から攻撃する奇襲できれば大きなアドバンテージで、運がよければ一撃で仕留めることもある。

「ふふふ。おもしろいね」

 ついさっき自分が言った言葉を反芻してその場を離れた。

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