去年の十二月の事は思い出したくない。でもどうしても消えない言葉が心臓の辺りに突き刺さって実際に痛みを感じる。葉山で暮らして一年と数ヶ月が過ぎた十二月の初め、湘くんから別れ話があった。あまり建設的とは言えない話し合いが何となくなされて、湘くんが私に感じていた愛情は全て消えていることを知った。湘くんは私にも愛情がないのだと思い続けていたようだった。その誤解は解けたと思うが、私の愛情が湘くんの心に響くことは二度となかった。

 まだ同じ家に住み、同じベッドで眠っているというのに、湘くんは私の隣でLINEを送信し、私のスマートフォンが通知音を鳴らす。気が滅入るようなやり方と、メッセージの内容は、もう何も出来ないと感じさせてくれるのに十分過ぎた。LINEで返事をするのが精一杯だった。冗談を言っている場合ではないのに冗談っぽく和希に報告した。和希も笑ってくれた。ただ「同じベッドはつらくない?」と心配してくれた。私は未だに湘くんの体温を感じていたかった。

「三月まで待ってほしい」

 湘くんに送ったそのメッセージは、同時に離婚を受け容れたものだった。あと数ヶ月、自分の給料を生活費にし、自分名義の貯金をして、娘との新生活に備えるしかなかった。湘くんは、引越し代などを全て出してでも、すぐに鎌倉に帰って欲しかったと思う。でも三月いっぱいまで今の家にいることを了承してくれた。実際、少なくはない金額、賃貸契約の初期費用と引越し代金を出してくれた。鎌倉の母の近くに戻ることも真剣に考えた。車がないと何処に行くにも不便な、海と山しかないような葉山だけれど離れたくなかった。娘が今の小学校に通えるように同じ学区内の物件を探した。

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