第4話 暗黒神様、血闘の街に到着
「フィオグリフ?」
「なんだ?」
「あなた、また女を拾ってきたの?」
「うむ」
「…………」
小娘……いや、アシュリーこと魔王アスガルテを連れて仲間たちの元に戻ると、プルミエディアに微妙な顔をされた。
尚、アシュリーの角は綺麗さっぱり無くなっている。収納したらしいが、アレはどこへ消え失せたのだろう? 異空間か?
とにかく、今の彼女はどう見ても人間だ。
「おぉ!? すっごい美人さんですね~!」
「そ、そうかの? ぬはは」
「ご主人様、この方は?」
「行き倒れだ。人の気配を感じたから見に行ってみれば、この女がいたのだよ」
「ちなみにきおくそーしつでな! ワシが何者なのか、全く分からんのじゃ!」
『えっ』
何故かドヤ顔で、胸を張ってエラそうに言うアシュリー。記憶喪失の人間がそんなに明るく振る舞うわけなかろう。もっと考えろ。
「そして! フィオグリフ様に一目惚れしたので、ついていく事にしたのじゃ。えへへ」
『……えっ?』
「…………」
更に続けて謎のカミングアウト。
もじもじするな。腰をくねらせるな。
プルミエディアたちが困惑しているだろう。
思わず、私は頭を抱えた。
「……何か分かることは?」
「うむ、名前ぐらいは思い出せるぞ。
アシュリーじゃ。よろしくの!」
「ご主人様。この方を連れて行っても大丈夫なのですか? 服装から考えて、恐らくはどこかの貴族令嬢だと思われますが」
「……問題ない。連れて行く」
「そうですか。ええと、アシュリーさん?
ご主人様が決めたことならば、私は反対しない。ただし、我々はハンターをやっている。
それ故に、何かと危険が伴う」
私の意志を確認した後、アシュリーに向き直り、彼女に問いかけるレラ。親切心だろうか。
「フィオグリフ様から聞いておるよ。
危険など構わぬさ。この方と一緒に居られるのなら、例え燃えさかる業火の中でも、光の届かぬ深海の果てでも、どこへでも行こう!」
腰に左手を当て、右手を天に伸ばすアシュリー。まぁコイツなら確かにどこへでも行けるだろう。よほどうっかりしなければ、死ぬようなこともあるまい。仮にも魔王だしな。
「ま、フィオグリフが問題ないって言うなら大丈夫なんでしょうね。旅は道連れって言うし、歓迎するわ」
「わたしもです~! どんどん賑やかになっていきますね~」
「そうだのう。仲間は多い方が楽しくて好きじゃぞ、ワシ」
「おお、気が合いますね~」
「そうじゃな、ぬはは!」
ちょっと疲れた顔をしているプルミエディアと、意気投合するフィリルとアシュリー。
なんだか、うるさくなりそうだ。
「ご主人様」
「なんだ?」
「アシュリーさんって、何者ですか? あんな格好の人間が、行き倒れるとは思えません」
「む、わかるか」
「はい」
レラが小声で聞いてきた。
まぁ服装はそのまま豪華なドレスだからな。
確かにアレで行き倒れと言うのは無理があったか。
まぁこいつにならば明かしても問題はないか。私の奴隷だしな。そっとレラの耳に口を寄せ、周りに聞こえないように囁く。
「奴の正体は魔王アスガルテだ」
「え……」
「だが安心しろ。ただのバカだからな」
「……何故、魔王が……?」
「私の仲間になりたくて来たらしい」
「先ほどの言葉は真実だと?」
「ああ。間違いない」
「そ、そうですか。魔王の心すら掴むとは、さすがはご主人様です」
「あのバカが何かやらかしたらすぐに教えろ。私に害を及ぼそうと言うのなら、処分する」
「わかりました」
最後に、他言は無用だぞ、と言い聞かせておいた。まぁわかっているだろうがな。
◆
「目的地が見えたわね」
「うむ? ああ、アレは『イシュディア』じゃな。巨大なコロシアムを舞台にして日々開催されている血闘で有名な街じゃ」
「やけに詳しいですね? 記憶喪失じゃなかったんですか?」
「う、うむ!? いや~、ワシ自身の事だけが全く分からんのじゃよ! それ以外の事はしっかり覚えておる!」
「へ~……?」
アシュリーが早速ボロを出した。
恐らく復活してから部下に色々と調べさせていたのだろうが、記憶喪失という設定なのに知識をひけらかすのはおかしい。
慌てて弁解するも、フィリルが少し不審に感じたようだ。いずれ嘘がバレるかもしれん。
それはさておき、血闘か。
グランバルツで耳にしたが、コロシアムと言うのはどこにあるのだ? 見てみたいのだが。
「プルミエディア」
「コロシアムの場所でしょ? そのためにわざわざここまで来たんだしね」
「うむ」
「とりあえず街に入り、宿を確保してから見に行くのがよろしいかと」
「む、そうだな。そうしよう」
「コロシアムはワシも興味があるんじゃ!
フィオグリフ様、一緒に観戦しましょう!」
「レラ、まずは宿を探すぞ」
「はい」
「フィオグリフ様、無視しないで~……」
皆で喋りながら門の前まで歩き、衛兵が差し出した機械に手をかざして街に入る。
アシュリーだけハンターではないので、衛兵から軽く質問を受けたが、適当に返しておいた。
私が言うのもなんだが、一応魔王であるアシュリーが、こうも簡単に街へ入れていいのだろうか。治安は大丈夫なんだろうな?
「そう言えば、アシュリーはハンター登録するの?」
「もちろんじゃ!」
「なら、宿を確保してから、この街のハンターズオフィスに行きましょうか」
「む? いや、ワシだけで構わぬぞ?」
「パーティー申請もしないといけないし、あたしがついてくわよ」
「全員が行く必要は無いのか」
「ですね~。リーダーがプルミエディアちゃんになっているので、彼女とパーティー加入希望者であるアシュリーちゃんが居れば、それで大丈夫です~」
「なるほどな」
そういうシステムになっているのか。
無駄な手間が省けていい。リーダーが私だったら私がついて行かなければならなかったが、あくまでただのメンバーだからな。
それにしても……。
「武装した者たちが随分と多い街だな」
「アレは血闘士たちよ。腕さえあれば相当儲かるって話だし、それを生業とする人たちが多く集まってるの」
「ほう。道理で体格の良い者が多いわけだ」
「血闘はタイマンですからね~。隙が生まれやすい霊術士より、直接敵を叩き潰す物理型の方が多いんですよ、血闘士さんは」
「ご主人様にとっては血闘士なんて雑魚でしょうけどね」
「ははは、フィオグリフ様が出場なんてなされたら、コロシアム側が破産してしまうぞ」
む? 今、アシュリーが気になることを口走ったな。血闘には、私も出場できるのか?
早速、プルミエディアに聞いてみる。
「プルミエディア」
「単純な試験さえパスすれば、血闘士には誰でもなれるわよ。違法じゃ無いから、ハンターでも問題ないし」
「ほほう、そうなのか」
「ま、その代わり重傷を負ったり、死んじゃったりする人も多いんだけどね。血闘っていうのは、命を売り物にした興行だから」
ふむ。そういった点ではハンターと似ているな。違いは、観客の有無か。気が向いたら参加してみるのもいいかもしれんが、私が出ると勝負が一瞬で終わってしまうのが難点だ。
「ご主人様、あの宿はどうでしょう?」
「ああ、構わん。ひとまずはあの店を拠点にするか」
「そうね」
「一般的な宿屋って感じですね~」
「さっさと休んでさっさとハンター登録じゃ!
そしてフィオグリフ様と血闘を見に行く!」
「騒ぐなアシュリー。周りの迷惑になる」
「む、むむ……」
先頭を歩いて宿を探していたレラが、これといった特徴がない宿屋を発見し、指を差した。
正直どこでもいいので、そこを仮の拠点とし、軽く休んで、プルミエディアたちの旅の疲れを癒す事にする。
私とアシュリーは全く疲れていないのだが、仲間と歩調を合わせる事は大事だ。何せプルミエディアたちは人間なのだからな。魔王や暗黒神を基準に考えてはいけないのだ。
今はまだ明るいし、軽く休んでも充分に時間がある。コロシアムがいつまで開いているのかは知らんが、そう早い時間には閉まらないだろう。
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