Side:転生者①
突然だが初めまして。
俺の名はフェルド・ベルパイロ。地球で過ごした前世を持つ、所謂転生者ってやつだ。
ちなみに、前世での名前は
どんだけテンプレだよ! って感じなんだが、まぁ正直嬉しかったね。割と結構ロマンじゃん? 異世界転生して無双ハーレム。前世の両親には悪いけど、俺の時代が来た! とか思っちゃったよ。
三歳の頃に前世での記憶を思い出した俺は、これまたテンプレ通りに人知れず自分を鍛えた。ガキのうちは身体を鍛えるにも限度があるけど、魔力……いや、こっちじゃ霊力だな。そういう不思議パワーを鍛えるには充分すぎるほど、ガキの時代は時間が有り余ってたからな。脳が柔らかいから、すぐに新しい事を覚えられたし。
そうしてひたすら自分を磨く幼少期を過ごした俺は、やっぱりと言うべきか、これまたテンプレ通り、地元に住む同年代の中じゃ、ぶっちぎりで最強だった。
とは言え、この世界には貴族やら何やら、魔王なんかも居たりするらしくて、悪戯に力をひけらかして無駄に注目されるのは避けるべきだと判断したのな。ほら、色々な柵がどうたらとか、面倒くさくて嫌じゃん?
そんなこんなで、なんとか力を隠したまま、いや、一部にはバレてるんだが。とにかく、世間的には全く無名なまま、晴れて十七歳を迎えたわけで。そろそろ羽ばたく時だろうと、つい先日ハンターになったんだ。
──なのに、どうして俺は今、こんなよくわからん野郎に連れてかれてるんだろうなぁ……。
「……どうした」
「別に。何でもねーよ。それよりおっさん、どこ向かってんだか、そろそろ教えてくれてもいーんじゃねーの?」
「そ、そうですよ。どんな手を使ったのか知りませんけど、いくら領主様公認だからって、あなたを信用したわけじゃないんですから!」
「……ふん」
かーっ、何度聞いてもだんまりだ。なんなんだよ、このおっさん。大体、黒いフルプレートアーマーを着て、腰に日本刀っぽいモンぶら下げてるとか、怪しすぎだろ。
ちなみに、俺の隣で騒いでる長い桃髪の美少女は、ガキの頃から一緒にいる幼馴染みだ。名前は、アリカ。父親が剣術の師範をやっていて、コイツんちに俺が転がり込んで、紆余曲折を経てアリカの父親に剣を習うようになったのが出会いのきっかけだっけな。
ま、俺の物語のメインヒロインってヤツ? 文句無しに可愛いし、近い将来に、この子を嫁に迎えると決めている。第一夫人って事になるだろうけど、それはコイツも了承済みだ。
「着いたぞ」
「おお、やっとか……よ……?」
「……お、お城……?」
「領主、フォンデルバル・クロスバーン公爵の館だ。精々無礼の無いようにな」
「は!?」
領主様の館!? いやいや、どう見ても館っつーより城なんだが……。って、そんな事より! どうして俺たちがこんな所に!?
口をあんぐりと開けて固まる俺とアリカを他所に、さっさと歩いていく黒いフルプレートのおっさん。せめて事情を聞かせろぉ!
「おいおっさん!」
「なんだ」
「俺たちゃまだ新人ハンターだぜ!? なんで領主……いや、公爵様が!」
「行けばわかる」
「ちょっ……」
短く答えたおっさんは、またさっさと歩いていく。仕方なしに、固まったままのアリカの手を取って、俺もついていくことにした。もしかして、成り上がるチャンス早くも到来!? これを逃がす手はねえだろ!
「すっげー……」
「お、落ち着かないよ、フェルドぉ……」
「だ、大丈夫だ、俺がついてる」
「う、うん……」
城のごとく巨大な館に入ると、中は凄まじい事になっていた。
絢爛豪華な調度品……って言うのか? とにかく、ただの通路でさえやたらとキラッキラしてて、全然落ち着かない。これ、俺はこんな所には住めないな。うん、今確信した。
「キョロキョロするな、みっともない」
「し、仕方ねえだろ! こんな所にもう足を踏み入れる事になるなんて、思ってなかったんだから!」
「ふん」
前だけ見てるくせに、俺らの様子を把握していたらしい。おっさんが軽く俺たちを叱りつけてきた。
格好だけじゃなく、実力もちゃんとあるって事か。このおっさん、やっぱり油断ならねえな。
また叱られるのも癪だし、しっかりとアリカの手を握り、前だけ向いてひたすら歩き続ける。すると、ようやく目的地にたどり着いたらしい。おっさんが止まった。
これまた豪華な装飾が施された扉があり、キラキラ光るこの館の中にあって、そこだけが異様な存在感を放っている。
「ミルフィリア様。例の者を連れてきました」
「……ん?」
ミルフィリア? 誰だ? 俺たちを呼んだのは、クロスバーン公爵なんじゃねーのか?
「お疲れ様、ハイラル。開いてるから、入ってきていいわよ」
「はっ!」
扉の奥から届いてきたのは、これまで聞いたこともない程に美しい声だった。クロスバーン公爵は男のはずだし、やっぱり相手は公爵じゃないな。ミルフィリアって人、何者なんだ?
恭しく敬礼し、ゆっくりと扉を開けていくおっさん。今更だが、あんたの名前ハイラルって言うのな。無駄に格好いいじゃねえか。黒いフルプレートに似合っててちょっと悔しい。
「ありがとう、ハイラル。さぁ、私の隣に来なさい。ああ、君たち二人は机の前にある椅子にでも腰掛けてね」
「はっ! すぐに!」
「あ、は、はい……」
「綺麗な人……」
とても広々とした空間に、白い机があり、それを挟んだ奥……窓側の方に、革製と思しき黒い椅子に、片膝を抱いた形で座っている女性が居た。
やべえ。ハンパなく美人だ。アリカも美少女である事に間違いはないけど、この人に比べれば霞む。
美人さんの隣に、この国の貴族が好んで着る高級な服に身を包んだダンディなおっさんがいるけど、誰だろう? まさか、クロスバーン公爵って事は無い、よな?
あっ、ダンディなおっさんの反対側に、ハイラルのおっさんが移動してる。いつの間に?
あまりの美しさに我を忘れちまってたけど、言われたことを思い出し、慌てて椅子に座った。もちろん、アリカも同様だ。女から見ても美人さんは美しいんだな。
「ふふ。まずは自己紹介ね。私はミルフィリア。ミルフィリア・ホワイトローズよ。色々理由はあるのだけど、今は私がこの館の主人という事になってるわ。外には内緒だけど」
「えっ? こ、公爵様は?」
「私の隣に居る紳士がそうよ。フォンデルバル、自己紹介を」
「はっ!」
さっきハイラルのおっさんが呼んでいた“ミルフィリア”っていうのが、この美人さんの名前らしい。それにしても、マジであのダンディなおっさんが公爵様だったのかよ!
「フォンデルバル・クロスバーンだ。今はこの国の公爵をしているが、心はミルフィリア様に捧げている」
「は、はぁ……」
「あの、ミルフィリア様……って、一体……その、何者、なんですか?」
大真面目な顔で愛の告白じみた発言をする公爵様に戸惑いつつ、意を決した様子のアリカが質問を投げかけた。
それだよ。それが気になって仕方ない。
そして、一拍置いて、ミルフィリアさんの口から放たれた言葉に、俺とアリカは目を丸くする事になる。
「勇者よ」
「「……えっ!?」」
ゆ、勇者? えっ、勇者って、あの勇者? ヒーローの勇者? ブレイヴな勇者? えっ? でも勇者って死んだんだろ? 新聞で見たぜ? 俺の周りも大騒ぎになってたし、勇者に憧れてたっていうアリカの親父さんなんか、年甲斐もなく大泣きしてた程だぞ?
それに、よくよく思えば、名前違くない?
「ああ、ごめんなさいね。あなたたちが知ってる今代……いえ、“先代勇者”ディアルドとは別人よ。私は大昔の勇者なの。色々あって、またこの世界に蘇ったのよ」
「よ、蘇った?」
「ええ。幽霊じゃないわよ? なんなら、私の足でも触ってみる?」
「ミルフィリア様っ!?」
「冗談よフォンデルバル。いい歳して、そんなに妬かないの」
「し、失礼しました……」
大昔の勇者が蘇った……? そ、そんな事が有り得るのか? でも、ミルフィリアさんは嘘を言っている風には見えないし……。
っていうか公爵様。明らかに冗談だとわかるネタに反応するなよ。どんだけミルフィリアさんの事好きなんだよ。美人だから無理もないけどさ。
「まぁそれはさておき。あなたたちを呼び出したことについて説明しましょうか」
「あ、は、はい。お願いします」
「大昔とはいえ、勇者様なんだ……。お父さんに聞かせたら、どんな反応するかな……」
相変わらず片膝を抱えたまま、にっこりと微笑むミルフィリアさん。思わず、ドキッとした。アリカが別のこと考えててよかった。危うく嫉妬で脛を蹴られるところだったぜ。
「まず言っておくけど……。実は、用があるのはフェルド君だけなの。アリカちゃんはそのオマケね。引き剥がすのも可哀想だと思って」
「へ? 俺ですか?」
「勇者様が、フェルドに? この人はたしかに同年代の中ではぶっちぎりですけど、勇者様が何かを期待される程では……」
「ミルフィリアでいいわ。もっとリラックスしていきましょ」
「「は、はい」」
ミルフィリアさんの口から紡がれた言葉は、予想外といえば予想外だが、予想できたと言えば予想できた。ただ、俺の力を知る人間はあまり多くないし、外部には漏れていないはずだ。
「ああ、別にあなたたちの身内が情報を漏らしたわけではないわ。ただ、私があなたの力を感知できるというだけよ。この世界をあまり舐めない事ね」
「ッ!? か、感知!?」
「そう。フェルド君、あなた転生者でしょ?」
「────!」
反射的に、アリカを庇うようにして椅子から立ち上がった。
同時に、ハイラルのおっさんが、ミルフィリアさんを庇うようにして仁王立ちしている。
俺が転生者だとバレている? 勇者ってのは、そういうものまで知ってるのか? いや、だけど別に敵意を見せてきたわけじゃない。ここはおとなしく……。
「落ち着きなさい。別に取って食おうってわけじゃないわよ。転生者だの召喚者だのなんて、この世界じゃ珍しくも何ともないわ。そう、あなたのようにチートをもらっている人間だって、他にそこそこ居るしね」
「!! チートのことまで!?」
「知ってるわ。何せ、私もチートを持っているんですもの。ああ、別に私は転生者でも召喚者でもないわよ?」
「小僧。すぐに座れ。さすればこの場は見逃してやろう。ミルフィリア様の寛大な御心に感謝するんだな」
……このミルフィリアっていう女、得体がしれない……!!
ダメだ、こいつはダメだ!
関わっちゃいけない……俺の
迂闊だった……。なんでノコノコと怪しげなおっさんになんかついてきたんだ、俺は!
「フェ、フェルド……」
「アリカ……」
妖しく光るミルフィリアさんの目を見て、怯えている様子のアリカが、そっと俺の服の裾を掴んでいた。
どうする。
どうやったら逃げられる!?
が。
「座りなさい。別に大した事は言ってないでしょ。ただ、あなたが思うより、あなたの持つ“チート”という力を知る者は多いし、それを狙って近づいてくる者も居ると、教えてあげただけじゃない」
「やっぱり俺の力を狙ってるのか!?」
「“未来視”に、“成長率優遇”。メフィストも気前いいわね」
「な……なんで……」
「なんでチートの内容まで知っているのか? それと、何故メフィストという女神のことまで知っているのか? そう聞きたそうな顔をしているわね」
な、なんなんだ、なんなんだよコイツ!? どうしてそこまで知ってる!? 何がすごい美人さんだ、とんだ化け物じゃないかッ!!
俺の目で……未来が見えない! こんなの初めてだ! どうすればいい!?
「ねえ、フェルド君」
「な、なんだよ」
「あなた、そこのアリカちゃんと一緒に、幸せに暮らしたいのよね? それだけじゃなく、チートを使って成り上がろうとしている。典型的なまでに、“転生者”ね」
じょ、冗談じゃない!
成り上がるのにこんな化け物と相対する必要があるってんなら、願い下げだ! 俺はアリカと暮らせればそれでいい!
「残念ね。ああ、残念だわ」
抱えていた片膝を解放し、両足を床につけるミルフィリア。
そして両腕を机の上で組み──。
「──は?」
「残念でならないわ。分不相応な事を願ってしまったばかりに、ここで私に力を奪われてしまうのだから」
「いやぁぁぁぁ!! フェルドォォォ!!」
姿が消えたかと思うと、俺の胸から剣が生えていた。
後ろを振り向くと、狂気に染まりきった笑みを浮かべる、ミルフィリアの姿が。
吐血し、倒れる俺。
泣き叫ぶアリカ。
静かに笑うミルフィリア。
「“未来視”と“成長率優遇”。二つのチートは、確かに頂いたわ。安心なさい、あなたのアリカちゃんは、私がしっかり可愛がってあげるから」
そんな言葉を耳に受け入れながら、俺の意識はどんどん暗くなっていく。
「フェルドォ! いやぁ! 死なないで! わたしを置いていかないでよぉ!!」
暗い、暗い、暗い。
「約束したじゃない! いつかきっと、この世界に名を轟かせる大英雄になるんだって! わたしを、あなたのお嫁さんにしてくれるって!!」
ああ、泣くな。泣かないでくれ、アリカ。
お前は、笑っていた方が、万倍可愛い。
「さて」
「あ、ああ……来ないで、来ないで……! いや! いやぁ! 助けて、助けて! フェルドォ!!」
暗い、暗い、暗い……。
ごめんな、アリカ。
ごめんなぁ……。
「アリカ・ディオランテ。あなたは今日をもって羽化するの。転生者という異物から解放された、美しい蝶に……」
そして、アリカの悲鳴と共に、俺は──。
──転生者フェルド・ベルパイロ。
前世、真坂晴臣。
古の勇者ミルフィリア・ホワイトローズにより、魔剣ソウルイーターで心臓を串刺しにされ、二つのチートを奪われ、死亡。
享年十七歳──
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