第6話 奇妙な関係
王国軍との戦闘では結局出番が無かった、ケーニヒレーベンのコックピット内に、今、わたしとフィオは居る。
あまりにも突然すぎる“襲撃”があったから。
「……どこ、どこにいるの!?」
急げ、急げ、急げ!!
わたしったら、なんで気付かなかったの!? この忌々しい気配は、間違いなく、あいつの……!!
「……居たッ!!」
「待て、ミリーナ」
「待たないよっ!! フィオもわかるでしょう!? この馬鹿みたいに濃い霊力は、あいつの……ゼルファビオスのッ!!」
「待てと言っている!! この状況では、お前だけしか……ぐっ!?」
なんで、なんで、なんで……!! どうして、わたしやフィオじゃなく、プルミエディアちゃんたちを狙っているの!? 早く行かないと、取り返しのつかない事になるッ!!
『フィオグリフの言う通りだぞ、初代勇者。余がここで足止めをしている以上、動けるのはお前しかいない。それで、我が兄に勝てるとでも思っているのか?』
「黙れッ!! あいつは、ゼルファビオスは、絶対に許さない! 必ず、必ずこの手で……!」
『相変わらずだな。そんなだから簡単に利用されるのだよ。はっはっはっ』
「この……ッ!」
グローリア……!! なんで、こいつまで出てきているの!? いったい、何が目的で、こんな事……!
「……くそっ」
「フィオ、行かせて」
……王国軍を蹂躙し、フィオラ王女の身柄を一旦レン君に預けた直後、どういうわけか、忌々しい“光神帝”グローリアが降臨し、イシュディアに攻撃を仕掛けてきたの。尤も、何が起きたのか理解できたのは、わたしとフィオだけだろうけどね。
それで、街を戦場にするわけにはいかないから、急いで外に飛び出して、こうして奴と戦っているってわけ。そしたらなんと、プルミエディアちゃんたちが居るはずの場所に、“破壊神”ゼルファビオスの霊力が感じられたんだ。
急いで助けに行かないと、あの子たちが死んじゃう。それに、ゼルファビオスはわたしにとって、ううん、フィオとわたしにとって、許すことのできない因縁の敵。絶対に、生かしてはおけない。
「……いいか、奴はお前より遙かに強い。絶対に無茶はするな。奴を倒せるのは、私しかいない」
「わかってる……わかってるよ……」
「本当に、頼むぞ。死ぬなよ……」
「……うん。今度こそ、最後まで、あなたと一緒に生きるって決めたからね」
「ああ。無論、こちらが片付き次第、すぐに私も向かう。それまで、何とかもたせてくれ」
「うんっ!」
ありがとう、フィオ。それと、ごめんね。もしかしたら、またあなたを置いて、遠くに逝ってしまうかもしれない。……ううん、きっと大丈夫。今度はちゃんと、約束を守ってみせるから。
そして、わたしは時空聖剣を取り出し、奴の霊力が感じられる場所へと一人で転移した。
◆
「……ひどい有様……」
無事に到着し、急いで戦場を見回す。
……予想はしていたけど、荒れているなんてもんじゃない。地形が、まるっきり変わっちゃってる。
「!」
四肢を失ったブレスルージュと、右腕と右足を失ったホワイトラビットの姿が確認できた。レラちゃんのブルーディザスターは……?
「居た!」
よかった、まだ生きてる。感じる気配から察するに、どうやらレラちゃんは、負傷したプルミエディアちゃんとフィリルちゃんを庇いながら逃げ続けてるみたい。
彼女が乗っているはずの神霊機の背後には、忌々しい破壊神が、ゆっくり、ゆっくりと、腕を組みながら歩いているのが見えた。
よし。全力で、叩きつけてやる!!
「…………」
フィオにすらまだ見せていない、“オーバーデッドの魔王”としての力を、フルに引き出す。そして、勇者としての力である、神気も同時に練り上げ、それらを、時空聖剣ラグナロクに凝縮していく。
残念だけど、間違いなく、これでも、ゼルファビオスを倒すことはできない。奴を倒せるのは、奴の妹であるグローリアと、わたしの愛する暗黒神さまである、フィオの二人だけしかいないんだ。
でも、例え倒せなくたって! わたしにも意地がある! 傷の一つぐらいは、絶対につけてやる!!
「はぁッ!!」
まず、逃げ続けるレラちゃんを、一緒にいるはずのプルミエディアちゃんとフィリルちゃんごと、“フィオが居る場所”へと強制転移させる。フィオなら、絶対に三人を助けてくれるはず。グローリアと戦っている最中だろうけど、急に飛んできたレラちゃんたちを庇うぐらい、お茶の子さいさいでしょ! 文句があるなら後で聞きますっ! ごめんなさいッ!
ついでに、攻撃の余波で大陸が沈んだら困るから、周辺一帯を結界で隔離しておく。これで、心置きなくぶっ放せるってものだよ!
「ぬっ?」
突然追いかけていた“獲物”が消えたからか、間抜けな声を上げるゼルファビオス。そして、間もなくしてわたしの存在に気付いた。
すかさず、今度はわたし自身を、ゼルファビオスの背後へと飛ばす!
「究極神技! 《英霊の凱旋》ッ!!」
「むっ」
ラグナロクを振り、凝縮した力を全て奴にぶつける。すると、ゼルファビオスの身体が七色に輝き、遙か天空の彼方にまで、螺旋状の光が立ち上った。
地が爆ぜ、轟音が響き、凄まじい突風が吹き荒れ、衝撃波が走る。
「…………」
あれだけ無防備なところに究極神技をぶつけたんだから、相応のダメージは与えたはず! いや、お願いだから効いていてね? 少なくとも、魔王が相手だったらかなりのダメージを負ったはずの、いい一撃だったと思うよ。
「いきなり何をする。痛いではないか」
あっ、やっぱり大してダメージ入ってない。
「……ゼルファビオスッ!! ここで会ったが百年目! 前世での恨み、晴らさでおくべきかァ!!」
「おお、ミリーナ・ラヴクロイツよ。何万年振りだ? なんだ、また暗黒神と殺し合いをさせてほしいのか? フフフッ」
「……にゃろ~……」
冗談じゃないよ。大好きなフィオとまた殺し合うなんて、絶対に断る。もしそうなったら、わたしはわたしを殺すね。
って、違うちがうチガウっ! ダメよわたし! このアンポンタンのペースに乗せられたら、本当に昔の二の舞だってば!
「黙れ、この“劣化フィオ”っ! 前世ではよくもやってくれたな! おかげでサイッコーに最っ悪な悪夢が見れたよ!!」
ラグナロクに神気を乗せたまま、全力で斬りつける。……残念、ゼルファビオスは全く気にしてすらいない。わたしなんて小蠅扱いかい。
「そうか、そうか。だがな、我はあの後酷い目に遭ったのだぞ? これ以上ないほどに怒り狂った暗黒神に、脳漿の一片も残さず粉々に壊されてしまったからな」
さりげなく《ファイア》で攻撃されたので、バック転をして回避。たぶんこれ食らったらやばい。初級霊術ですら、コイツのは威力が半端ないからね。
「今回だって、大変な事をしでかしたよあんた。もうカンカンだよ。フィオカンカン。マジギレ度七十%くらいだよ」
「……それは高いのか……?」
ちなみにわたしがダルマ状態になるような事があったら、フィオはマジギレ度二百%を軽く超える。うん、たぶん。もっといくかな?
こんな軽い会話を繰り広げつつ、わたしは必死にゼルファビオスの巨体に斬撃を刻み込んでいった。でも大して効いてないんだよねえ。腹立つよねえ。
自分の力の無さが、恨めしい。わたしにもフィオみたいな力があれば、こんな奴、今頃はサイコロステーキにしてたのに……。
「……さっきから何をちょこまかしているのだ? 別に我はお前をどうこうする気はないぞ」
「こっちは本気でやってんの!」
「と言われてもな」
あ~……やっぱり、効いてない……。
なんって、ムカつく奴ッ!! “え? 何かしました?”とでも言いたげな顔してっ! こっちは殺す気満々でやってるんだっつの!
「ん?」
あれ? 今、こいつ、“わたしをどうこうする気はない”って言わなかった? なんで? いや、さっきからおかしいとは思ってたんだよ。だって、反撃してくるのも初級霊術だけだし、どう考えても遊んでるんだもん。
「お前を殺せば、我は暗黒神に殺される。それはよくない。というか、
「…………」
ああ、なるほど。つまり、“暗黒神怖いよ。だから
でもまぁ、またフィオが暴走するような事になれば、確かに今度は止まらないだろう。もちろん、誰にも止められるはずがないし。だってフィオだもんね。
ん? んん? わたし、立ち回り次第でこいつの動きを封じ込められるんじゃない? いや、でもあのグローリアが何も考えていないわけないか。
……ん~……。
「うん」
「おお、今日は退いてくれるのか?」
「うん? わたし、やっぱりあんた殺したいしね。フィオも同じだと思う」
「……む」
こいつが因縁の敵である事には変わりないし、わたしはわたしの仇を討ちたい。フィオだって、こいつの顔を見れば即滅殺しにかかるだろう。そもそも、なんでわたし、こんなのんきに会話してんだろ?
う~ん、フィオはグローリアに足止めされてるはずだからまだ来るには時間がかかるだろうし、レラちゃんたちの様子も気になる。それに、下手にこいつを怒らせるような事になれば、結局わたしは命が危ない。
わたしの命が危ないと、フィオがキレるかもしれない。で、フィオがマジギレするとこの世界そのものが危ない。となると、
危ない尽くしだし、わたし一人じゃこのデカブツを倒す事はできない。この場は、おとなしく退くべきかな……?
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