第4話 異邦人
なんとかミリーナを落ち着かせた私は、逃げるようにハンターズオフィスへと向かった。ここなら、彼女は迂闊に入ってこれないからな。なんだか情けない気もしないでもないが、まぁ、いいだろう。
思えば、最近は誰かと行動を共にしてばかりだ。たまには、こういう日も悪くはない。それに、プルミエディアが体を壊してしまっているのに、私が彼女を置いて街の外へ出るのも何だしな。今日は適当に依頼を見るなりした後は、さっさと宿へ戻ってしまおう。
そうこう考えている内に、オフィスが見える所までやってきた。なのだが……。
「なんだ……?」
ジェイカー支部長が、見知らぬ三人組と共に歩いていた。どこへ行くのかとしばらく観察していると、方向からして、王城に向かっている事が予想できた。
なんとなく気になり、私もついていく事にする。王城を守る親衛隊たちにも、マリアージュ経由で顔は知られているし、これまでに得た信頼のおかげで、入城することも容易い。
「フィオ、なにしてるの?」
「ん? ああ、ちょっと、な……!? ミ、ミリーナッ!?」
「ボーッと突っ立ってるんだもん。そりゃ見つけられるよ」
「う、うむ」
しまった。うっかり観察に夢中になって周囲への注意が散漫になっていた。しかし、どうやら怒りは収まったようだし、問題はない、か?
「ん、あの人たちがどうかした?」
「あの白髪の男が、実はこの街のオフィスの支部長をやっていてな。それが案内している様子のあの三人組は何者なのかと、気になっただけだ」
「ふーん、そうなんだ」
「うむ」
「でも、こんなコソコソするのは感心しないなぁ。ちょっと危ない人っぽいよ?」
「なん……だと……」
事情を説明してみると、不審者扱いされてしまった。じゃあ何か? 堂々と声をかけて、そのままついていけと? 否だ。それはそれで何かが間違っている気がする。私は、このまま追跡を続けるのみ!
「やっぱり変わらないんだね……」
「うむ」
「まぁ、フィオらしいけど」
「そうだろう」
「うん」
なんやかんや言いつつ、ミリーナも共に行動する事になった。今日も結局こうなるのか。
おっ、ジェイカー支部長が王城へ入っていくぞ。予想は当たっていたようだな。
「これは、フィオグリフ殿。皇女殿下に御用ですかな?」
「お勤めご苦労様だ。騎士殿、少々聞きたいことがあるのだが、先ほど中へ入っていったのは、ジェイカー支部長だな?」
「ええ、そうですが」
「後ろにいた三人は?」
「詳しくは知りませんが、陛下と謁見するためにいらしたようですよ」
「なるほど、そうなのか。すまん、感謝する。さて、本題なのだが、中へ入れてもらえるだろうか?」
「一応、御用件をお伺いしても?」
「マリアージュ皇女に会いに来たのだ」
「やはりそうでしたか。わかりました、どうぞ、ごゆっくりと」
「すまんな」
世間話を装い、親衛隊の騎士から情報を聞き出す。皇帝に会えるという事は、それ相応の身分の者なのか。いったい何者なのだろう。
笑顔を浮かべて騎士に会釈し、何食わぬ顔で城の中へと入る。一見怪しさ爆発なミリーナですら止められないあたりは、少々私を信用しすぎている気もするな。
「フィオ、妙に慣れてるね?」
「度々マリアージュに招かれているのでな」
「なんか知らないけど、やたらとフィオの事気に入ってるよね、あの皇女さん」
「さてな。まぁ、今回は利用させてもらうが」
「会いに来たとかって、嘘でしょ」
「うむ」
「……はぁ。フィオが平気で嘘吐く悪い子になっちゃった……」
「まぁそう言うな」
せっかく出来た繋がりを利用しない手はあるまい。何せ、奴は皇女殿下なのだから。
そして、トコトコ歩いている内に、マリアージュの部屋へとたどり着いた。ここに来るまでに何人もの騎士とすれ違ったが、笑顔で頭を軽く下げてくるだけで、誰もミリーナを止める素振りは見せなかった。いいのか、それで。こんな場所で、フードを目深にかぶるような不審者だぞ?
「マリアージュ、居るか?」
「フィ、フィオ! ちょっとは口の利き方ってものを考えなよ! ここは王城だよ!?」
「問題ない」
白塗りの美しいドアを二回ノックし、彼女の名を呼んでみる。ミリーナが何やら騒いでいるが、大丈夫だ。
そして、少し間を置いてから、マリアージュが現れた。
「フィオグリフ様、どうなされましたの?」
「とりあえず入ってもいいか?」
「ん~、はい。わかりましたわ」
「失礼する」
「……失礼しま~す」
彼女の許可を得たので、遠慮なくお邪魔する。それにしても、皇女殿下が簡単に男を部屋に上げていいのだろうか。今更だが。
豪華なソファに座り、ミリーナも隣に座る。そして、マリアージュが向かい側にあるソファに腰掛けた。
「早速だが、聞きたいことがある」
「なんです?」
「今、陛下の所に来客があるはずだが、いったい何者だ? ハンターズオフィスのジェイカー支部長と共に居るようだが」
「ああ、あの方たちですの? 何でも、“機械帝国アイフィオーレ”という所からいらした、高貴な身分の方々だそうですわよ」
「機械帝国……? ミリーナ、知っているか?」
「いや、知らないよ」
“機械”の名が付く国となると、割と新しい国家なのだろうか。他国の皇帝に謁見が叶うほどならば、やはりあちらも王族……いや、皇族とみるのが妥当か。
「興味がありまして?」
「うむ。何とか、彼らの会話に参加する事はできないだろうか?」
「うーん……ちょっと陛下にお伺いしてきますわね」
「すまんが、頼む」
「お任せですわ! あなた方は、のんびりお待ちになっていてくださいですの」
「ああ」
マリアージュは、最初はただの変人だと思っていたが、いざ交流してみると割とまともな女だ。こうして無茶な頼みでも快く引き受けてくれるし、あの時助けておいて正解だったな。
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