第3話 暗黒神様、怒られる
「…………」
「…………」
翌朝、私はミリーナに突然正座させられた。わけがわからん。しかも黙ったままだし。
「フィオ」
「なんだ」
おっ、やっと口を開いた……ぞ? う、うむ? 何か、ものすごく不機嫌そうなのだが……何故だ?
「昨日、アレをやったそうだね。プルミエディアちゃんに」
「アレ?」
「従神の儀式」
「ああ、アレか」
確かにやったな。試しにちょっとだけ、体験させてみたヤツだ。それがどうしたのだろう。
「本当に、やったんだね?」
「うむ。それが何か?」
淡々と答える私。何故か時空聖剣を取り出し、構え出すミリーナ。えっ、ちょっと待て? ちょっと待てっ!! ここは宿屋だぞ!?
「うおぉ!?」
「馬鹿か! 馬鹿なのかキミは!!」
「馬鹿は貴様だ! いきなり室内でそんなものを振り回すなっ!」
「黙れポンコツ!」
「なんだと!?」
明らかに殺す気満々で、私の心臓めがけて鋭い突きを放ってきた。慌てて結界を張り、周囲を守りつつ、さっと回避する。
「見なよ、プルミエディアちゃんを! 悪夢にうなされて、すんごい熱を出しちゃってるじゃないかッ!! あんなもん、普通の人間が耐えられる訳ないでしょ!? ただでさえ、昔より怨念がパワーアップしてるだろうにッ!」
「お、落ち着けっ!! プルミエディアが云々の前に、この街が廃墟になるぞっ!!」
「黙れ、このっ! このっ!!」
「やめ、やめろ!! 本当に洒落にならん!」
突き、縦斬り、なぎ払い、キック、パンチ。時空聖剣と己の肉体をフル活用し、暴力的に暴れ回る初代勇者。もしも私が棒立ちしていれば、あっと言う間にこの街はただの鉄クズと化すだろう。それぐらい本気だ、こいつ。
「ぐぬぬ、せめて一発殴らせろ!」
「落ち着けと言っている! 別に、アレは無理矢理やったわけではないぞ!? あいつが、プルミエディアが、強くなりたいというから、少し手を貸してやろうとしただけだ!」
「それでも、ダメなもんはダメッ!! キミというヤツは! プルミエディアちゃんはただの人間なんだよ!? 怨念と毎日デスマッチなんてしてたら、三日で発狂死しちゃうよ!」
「そ、そこまでか?」
「現に今、うなされてるじゃないか! まったく、誰も彼もがキミやわたしみたいに図太い精神を持ってるわけじゃないんだからね!」
「う、うむ」
なんとか荒ぶる姫君を鎮めたかと思うと、今度は苦しむプルミエディアの前に突き出された。レラが一生懸命看護をしており、フィリルがそれを手伝っている。
尚、リリナリアは昨晩帰ってきたはずなのだが、また情報収集に出かけ、アシュリーとリンドは無情にも街へ繰り出していったようだ。アシュリーは知らんが、リンドは大方、オフィスの裏方で働き始めた娘の顔を見に行ったのだろう。
「うぅ……怨念が……怨念が……」
「熱が引かない……フィリル、もっと冷却シートを持ってきて」
「はいですっ! えーと、予備はもう無いから、買いに行かないと……!」
……こ、これは……。
「見なさいバカフィオ。割と結構マジで洒落にならない状態だよ、これ」
「プ、プルミエディア……」
「ご主人様、おはようございます。ご覧の通り、プルミエディアさんの容態はよろしくありません。身体に響きますので、あまりドタバタと騒がないでくださいね」
「いや、さっきのはコイツが……」
「わ、わたしのせいじゃないからね!?」
「お前が勝手に暴れ出したのだろうが」
「だから、フィオが──」
「無礼を承知で申し上げますが、お二人とも邪魔なので出て行ってください」
「「あ、はい……」」
割とガチギレ気味のレラに、部屋を追い出された。ミリーナも一緒だ。
とぼとぼと歩き、迷惑にならないように宿屋の外へ出る。
「……プルミエディア……」
「フィオ、彼女が望んだんだとしても、もう儀式は絶対にやっちゃダメだよ」
「まさか、ほんの少し試してみた程度で、あそこまで酷くなるとは……」
「こう言っちゃなんだけど、あの子にはキミの従神になれるほどの才能なんて、無いよ。今の状況が、それを証明してる」
「だが、彼女はだな」
「わかってるよ。わかってるけど、事実として、そこまでの才能はない。レラちゃんなら、いけるかもしれないけどね」
「しかし……」
残念だが、わかっているのだ。あの子に、プルミエディアには、そこまでの素質は感じられないという事は。彼女が望んでも、血を吐くような努力をして、ようやくリアやリリナリアと同レベルになれる、といった程度だ。
神気が漏れないようにフードを被りつつ、ミリーナは無情な言葉を放った。
「潮時、なのかもね。あの子じゃ、わたしたちにはついてこれないよ」
「……才能の壁、か」
「そ。フィリルちゃんでギリギリ、レラちゃんでまぁそこそこ安心って感じじゃない?」
「わかっている。わかっているさ」
これから先も、私は魔王や邪神どもと戦い続けるだろう。場合によっては、私に迫る実力を持つ、グローリアと直接対決する事も考えられる。何せ、タナトスの裏には奴が居たのだから。
その戦場に、プルミエディアが居たとして、彼女が生還する可能性は……無い。このまま我々と共にいれば、間違いなく命を落とす。
「だがな、ミリーナよ」
「なぁに?」
「私は、あの子の手料理が大好きだ。それに、外界に降りてきたばかりの私と、初めてパーティーを組んでくれたのが、彼女だった」
「うん、聞いてるよ」
「彼女は、我々と共にいたいと、我々にもっと頼られたいと、そう言ってくれた。仲間として、友として」
「うん」
「私は、そんな彼女の想いに応えたいのだ」
「そりゃあ、わたしもだよ」
要は、才能の壁などというシケた物を取っ払ってしまえば良いのだ。何も、神に昇華させる必要はない。
「決めたぞ」
「ん」
「プルミエディアを、魔物にしてやる」
「……ん?」
そうだ、最初からそうすればよかったのだ。人間のままでは我々についてこられないというのなら、人間を辞めさせてしまえばいい。簡単な事ではないか。
「ちょっと待った、フィオ」
「なんだ」
「それ、今すぐやってくるって言うんじゃないだろうね?」
「む? その通りだが?」
「……よし、斬る」
「なっ!? なぜっ!?」
ものすごく良い笑顔を浮かべながら、時空聖剣で空間を切り裂き、私を異空間へと突き飛ばすミリーナ。何故だ? 我ながら名案だと思ったのだが……。
異空間の中で、私は、怒り狂ったミリーナに、彼女が持つ神技の、究極奥義を浴びせられる羽目になった。あれほどに激怒したこの女を見たのは、随分と久しぶりだ。
ちなみに、究極奥義が放たれた影響で、あの異空間がぶっ壊れるというハプニングがあった事も記憶しておこうと思う。恐らくだが、もしも現世でアレを放ったなら、今頃大陸の幾つかが海に沈んでいるだろう。
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