第5話 タナトスとの戦い④


 ゆっくりと近付いてくるタナトス軍と、重霊撃砲を並べ、迎撃する聖バルミドス皇国軍。でも、皇国軍の砲撃はさっきあっさりと防がれているし、破ることは難しいみたい。


「そんじゃ、やっか」

「ワシが一発かましてやろうではないか!」

「んーん、わたしがここから斬るよ」

「なんじゃと? 横取りはいかんのだぞ!」

「別に横取りじゃないよ!」

「相変わらず騒がしい奴らだなぁ、オイ」


 一歩前に出て、両手を広げるアシュリーと、フィオグリフが持ってる武器ソックリの大剣を構える、ミリーナさん。二人で協力すればいい話なのに、なんで喧嘩してんのよ……。

 やんややんやと騒いでいるうちに、どんどん敵が迫ってきてる。やばい。お願いだから急いでよぉ!


「だー、もう! いいから早くやれよ! 騎士団の攻撃は全く効いてねえし、さっさと止めないとやべぇんだぞ!?」

「む、おぉ。いつの間にかここまで近くに来ておったのか」

「仕方ないなぁ。アス……アシュリー、一緒にやろっか」

「……ちぃ、わかったわい……」


 ものすごく嫌そうな顔をしながら、トボトボと歩いていく二人。そんなに協力したくないのか、ただ単に一人で目立ちたいだけなのか。


「ワシは左半分じゃな」

「じゃあわたしは右半分ね」

「うむ、ぬかるなよ」

「ふん、そっちこそ」


 こんなに、仲悪かったかしら……? なんだか、黒い波動が見えるような……。あたしが知らない間に、何かあったのかも。

 そして、攻撃が放たれようとした、その時。突然、生首の人が叫びだした。


「おいおい、マジかよ!? タナトスの野郎、まだ兵を隠してやがった!」

「へ?」

「あーっとだな、つまり──」

「報告!!」

「ぉ」


 既に50万体も居るのに、まだ増えるっていうの? これ、本当に洒落にならないわね。あたしたちの近くにいるマリアージュ殿下の元に伝令が来たけど、まぁ、それを知らせるためだと思う。


「聞きますわ。どうしましたの?」

「はっ! タナトス軍のアンデッドと思われる軍団が、新たに出現! 皇都が取り囲まれてしまいました!」

「……増援、というわけですのね。数は?」

「各門合わせて、50万……です」

「……嘘、でしょ……」


 え、えぇ……盗み聞きしといて何だけど、信じたくないわ。つまり、全部で100万? 冗談でしょう。しかも既に包囲済みときたもんだ。


「聞いた?」

「おう」

「ばっちりじゃ」

「皇都には、北門、東門、西門、南門の四つがあるから、そこに散るのがいいんじゃないかなー? とボクは思うわけですよ」

「そだね。こんな状況だし、フィオもさすがに許してくれるっしょ」

「……どうだかなぁ……あの人、アレで結構理不尽だから……」

「じゃあワシは東門に行ってくるかの!」

「ボクは西門~!」

「あ、じゃあわたしは北門かな」

「なにぃ!? するてぇと、一番多い南門ここは俺かよ!? ちょ、ちょっと待てよ! ここはもっと話し合ってだなぁ!」

「うん。頑張ってね~」

「あ、行くの早っ!?」


 う、うん。ミリーナさんたち、バラバラに分かれて戦うことにしたみたい。すごいスピードで消えてったけど、大丈夫なのかしら……? 単純計算で、一人あたり10万体以上を相手にするわけよね。一応、味方も居るはずだけど。


「とほほ。あの女ども、人の話を聞きゃしねえ……」

「ご主人様ぐらいだろうね。彼女たちを制御できるのは」

「だなぁ……」

「えーと……あたしたちは、ここでいいの?」

「あー。わりぃけど、頼むわ。俺も頑張って数を減らすつもりだけどよぉ」

「こんな時こそ、私の召喚霊が役に立つんですよ~! 腕の見せ時ですね~」

「あんまり無茶してくれんなよ? フィオグリフさんに何言われるかわかったもんじゃねえ」

「あはは……」


 リンド、苦労してるわね。ちょっと同情するわ。


「っと、まずはあの結界をぶち抜かないと始まらねえやな」

「そうね」

「んじゃ、ぶっ放すか。周りの被害を気にしなきゃなんねーのが、ダルいんだよなぁ」


 ぶつぶつとぼやきながらも、蠢く亡者の群れの元へと歩いていく、リンド。そして、気怠そうに双剣を抜き、爆発的に霊力を上げた。

 さすが。これが、魔王か。あたしなんかじゃ到底及ばない、凄まじい濃さね。あ、今はもう元魔王だったっけ。


「あーらよっと。《ライジングエングレイブ》!!」


 Xの字型に輝く斬撃が走り、ターゲットと衝突した。タナトスが張ったと思われる結界が露わになり、バチバチと音を鳴らす。そして、破裂音と共に、それは砕け散った。

 その直後、各門の方向で、爆発が同時に起きた。間違いなく“彼女たち”の仕業ね。あっちも始まったみたい。突然の出来事に、皇国軍の人たちは軽くパニック状態よ。


「うし」

「さすがね」

「まぁな。嬢ちゃんたちは、やばいと思ったらすぐに逃げるんだぞ? 何もあいつら化け物連中みたいに暴れ回る必要はねェんだからな」

「わかってますよ~」

「今の我々では、そもそも不可能だしね」

「それもそうか。じゃあ、行くぜェ!!」


 ギラリと眼に光を宿し、白いロングコートを靡かせて、目にも止まらぬ速さで亡者の群れに突っ込んでいく、リンド。きっと、いいストレス発散になるでしょうね。頑張りなさいよ。


「私たちも始めようか」

「ご主人様が来るまで粘りましょ~」

「うん。ミリーナさんも言ってたけど、フィオグリフが帰ってくるまで持てば、あたしたちの勝ちよ。それまで、無理は禁物だからね」

「わかってる。そこまで自分の力を過信してないし、下手に突っ込んだりはしない」

「呼ぶ召喚霊はどうしましょう。ゴーだと、霊力の消費が激しいし……」

「一応、買い溜めしておいた霊薬があるから、何とかなるわよ?」


 これまでそんなに切羽詰まった状況になっていなかったから使わなかったけど、一応、消費した霊力を補充する薬があるの。それが、今言った霊薬ってヤツ。ちょっとばかり値が張るんだけど、この非常時にケチってられないわ。


「……使っちゃっていいんですか~?」

「そもそもあたしたちしか使わないわよ。ミリーナさんたちは、霊力切れなんてそうそう起こさないし」

「まぁ、そうですね~。じゃあ遠慮なく~」

「後でご主人様に報告しておくから」

「えっ!? そ、それは少し怖い気が……」

「こら、脅さないの。大丈夫よ。いざとなったらあたしの手料理を取引材料にして、フィオグリフと交渉するから」

「あ、それなら大丈夫ですね~。プルミエディアちゃんの手料理は、ご主人さまのお気に入りですから~」

「プルミエディアさん以外が料理担当の日は、ご主人様のテンションが目に見えて低いものね。どれだけ好きなのかな」

「な、なんか照れるわね……」


 今になって考えると、なんだかんだ言ってあのぼっち生活も無駄じゃなかったわね。おかげで、こんなすごい人だらけのパーティーにも、あたしなんかが居られるぐらいだし。


「さて、無駄話はここまでよ」

「うん」

「そうですね~」



 ……あなたが帰ってくるまで、絶対に生き延びてみせるわ。だから、早く来てよ?

フィオグリフ。

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