第二章
第1話 暗黒神様、惨劇の跡を見つける
「アシュリー。レンの様子は?」
『ポイント3を通過したところですじゃ! 出てくるのは雑魚アンデッドばかりで、まだまだ余裕といった感じじゃのう』
「そうか。引き続き頼むぞ」
『えへへ、お任せあれ!』
ついに儀式が始まった。
まず、死骸の大洞窟というのはかなり広いようで、命を懸けて事前に偵察してくれた者たちから得た情報によると、所々で出現する魔物の種類が変化するらしい。
洞窟内部の地図を広げ、そのポイントごとに区切りをつけ、『ポイント1』~『ポイント30』までの便宜的な呼称を付けた。
今、レンはポイント3を通過したところらしいので、まだまだ入り口の近くに居る、ということになる。
レンの護衛を担当するのは、少々不安だが、アシュリーだ。そして、そのフォローをミリーナが担当し、レラとプルミエディアは、私と共にこの洞窟に居るであろう、アンデッドどもの黒幕を探し出し、討伐するために先行している。
ちなみにリアは急に血闘の仕事が入ったため、そちらが終わり次第合流するとのこと。
フィリルは、屋敷でお留守番だ。出発の際、ものすごく悲しげな目をしていたが、知らん。知らんが、帰ったら可愛がってやろうと思う。
「ん」
「どうした、レラ」
「ご主人様、アレを」
「む?」
万が一レンに追いつかれると困るので、我々先行班は結構急ぎ足で進んでいる。だが、ふとレラが立ち止まり、洞窟の向こうを指さした。
その先を見てみると……。
「デッドオーガよね、あれ」
「そうだな。と言うことは、ポイント15に入ったのか」
「どうしますか?」
「あまり魔物がいないのは不自然だ。適当に捌いて進むぞ」
「了解しました」
だんだんと、図体のでかい魔物が現れるようになってきた。レンの奴、一人で大丈夫だろうか。ある程度は強くなったが、たかが一週間だ。そんな劇的に変わるわけもない。
まぁ、あっちはアシュリーとミリーナに任せよう。奴らなら、手間取ることもあるまい。バレなければ、だが。
不自然に魔物の数が少なくならないように注意しつつ、適度に倒し、レラとプルミエディアを両脇に抱えて脱出した。
「フィオグリフ」
「なんだ?」
「その、犬っころみたいに抱えて走るのやめてくれない? もっとこう、もっとこうさ……」
「あなたは奴隷じゃないものね。一応」
「一応とは何よ、一応とは」
「贅沢言うなら置いていくぞ」
「え、ええっ!?」
何がそんなに不満なのだ。この方が手っ取り早くていいだろう。それに、レラは普通に嬉しそうにしているぞ?
さて、黒幕というのは、一番奥に潜んでいるのが定石だ。さっさとポイント30に向かい、そこで念入りに捜索してみるのが賢いだろう。
◆
『こちらアシュリー! レンが急に速度を上げたのじゃ! 現在ポイント13ッ!』
「なに? 本当か?」
『ですじゃっ! ああ、もう! 待つのじゃミリーナ!! バレてしまうじゃろ!』
霊話術を使い、護衛班と通信しているのだが、どうやら異変があったらしい。突然攻略速度を上げたとは、どういうことだろう。
ああ、ミリーナがバカをやっているようなので、あいつには褒美はやらん。無事に終えたら、アシュリーをたっぷり褒めてやろうか。
ちなみに、現在我々はポイント25にいる。が、迷宮のような複雑な構造になっており、なかなか手間取っている。一応、探索もしているわけだしな。
「フィ、フィオグリフッ!」
「どうした?」
「あれ! あれ見て!」
突然プルミエディアが叫びだし、若干震えた指先で、遠くをさした。早速確認してみる。
「……ふむ」
そこにいたのは、見るもおぞましい物体。と、人間ならば評するだろうな。
怯えた目をし、私の背中に隠れながら歩くプルミエディア。レラも、若干顔色が悪い。
「なるほど、なるほど」
「ひっ……!?」
「ご、ご主人様!?」
「見たくないなら目を閉じていろ」
手で触れる距離まで接近し、その感触を確かめてみる。
ぐにぐに、ぷちぷち。びちゃびちゃ。
「うむ。普通のアンデッドならば、まずこんな事はしない。よほど素敵な趣味をお持ちのようだな」
「…………!」
「おっと、吐くなよ? だから、目を閉じていろと言ったろう」
「ご主人様、これはまさか……」
うむ、これは骨。これは、筋肉か? とすると、この管みたいなものは腸か。
どうやったら、『人間からこんな物体が作れるのだろうな』?
さてと。
「アシュリー、ミリーナ。聞こえるか?」
『はいは~い! なんじゃろ?』
『ふぅ、こっちはなんとか落ち着いたよぉ。あの子ったら、なんで急に走り出したんだろ?』
霊話術で二人を呼び出す。どうやら黒幕はなかなか愉快な性格をしているようだからな。一応、奴らにも警告しておかなければ。
「人間の死体から作られたオブジェを見つけた。どうやらアンデッドの黒幕の正体は、死霊術士のようだぞ」
偵察に来たアレクサンドル卿の部下たちか、それ以外の者たちか。あるいは、その両方だな。とにかく、ここで殺された者たちは、身体をほじくられ、分解された上で、一つのオブジェとして組み上げられたようだ。
こんな事をするのは、死霊術士以外に考えられない。ここまで狂った真似をするのは、人間以外に居ないのだ。少し笑えるがな。
『うげっ! 気持ち悪いアレですかの?』
『わ~っ、まだこの時代にも居たんだね! 全然見かけないから、てっきり根絶したんだとばかり思ってたよ~』
「そちらも充分に気を付けておけ。お前たちが愉快なオブジェにでもされたら、笑えん」
『……フィ、フィオグリフ様が、ワシごときの心配を……?』
『大丈夫だよ、フィオ~。こっちよりも、レラちゃんとプルミエディアちゃんの心配をしてあげてね? たぶん、吐きそうになってるだろうし』
「……ああ、そうだな」
確かに、プルミエディアは口を押さえ、顔を青くしている。レラも同様だ。そう言われてみれば、ミリーナのような例外を除き、普通の女ならばこんな光景には耐えられまい。
なぜミリーナが例外なのかというと、私と暮らしていた時期に、何回もバラバラ死体を見た経験があるからだ。力の加減が上手くいかず、うっかり粉々にしちゃったりしたのである。
無論、私が。何をとは言うまい。
さて。とりあえずコレは置いておくとして、さっさと先へ進むか。
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