第14話 暗黒神様、本番へ


 フィリルとの決闘を終え、いよいよ儀式が行われる日がやってきた。


「…………」


 気持ちの良い朝だ。ミリーナは、既に起きたらしく、隣には居ない。


「フィオグ……ご主人さまっ! あ~さで~すよ~!」


 底抜けに明るい声と共に、彼女が現れた。


「ほら、起きた起きた~」

「ぬぅ、もう少し寝させろ。フィリル……」


 私との決闘の結果、本当に私の奴隷となった“ウサ耳女”、フィリルである。本人の希望により、レラと同じ首輪を着けている。


「も~、早く起きてくださいよ~。今日は大事なお仕事があるんでしょ~?」

「……うむぅ……」


 大丈夫だ。まだ大丈夫な時間だ。

だから寝させてくれ。


 起きずにベッドで固まり続ける私の身体を、何やら焦ったように揺さぶってくる、新たな私の奴隷。


「ご、ご主人さま! 起きてください~!」

「…………」


 そして、部屋のドアが開いた。


「フィリルさん。フィオグリフ様をきちんと時間通りに叩き起こすようにと、あれほど言っておいたはずですが?」

「ひぃっ!?」


 事務的な声と共に現れたのは、人間の子供としか思えぬ、小柄な少女。呪われた一族の解放を願う、ミリーナの子孫であり、私にとっても娘同然と勝手に思っている人物。リアこと、リアクラフトであった。


 悲鳴を上げ、挙動不審になる、フィリル。ほんの数日の間に、何があったのか。私はよく知らない。が、決闘の時の真剣さが嘘のように脳天気なウサ耳女に対し、リアが延々と何かを語っていたらしい。ミリーナからの情報だ。


「フィオグリフ様。朝ですよ」

「寝させろ……」


 ビクビクしながら、棒立ちするフィリル。真顔のままその横をスルーし、私を起こそうと声をかけてくるリア。


「……では、プルミエディアさんの手料理は抜きと言うことで、よろしいのですね」


 悪魔のような一言だった。


「……なにっ!?」


 慌てて飛び起きる。何が悲しくて、せっかくのあの美味さを、逃さなければならないのか。それならば、ベッドと別れを告げる事を選ぶ!


「……えぇ、起きた……?」

「おはようございます」

「ああ、おはよう。それで、きちんと食えるのだろうな? 食えないのならまた寝るぞ」

「ご安心ください。既に彼女が食卓に用意しておられますよ」

「そうかっ!」


 何故か目を点にしているフィリルをスルーし、リアの先導で、食卓へと向かう。




「ねえ、レラ~」

「なに?」

「料理ってできます~?」

「それなりに。ご主人様に満足して頂きたいから、練習中だよ」

「ふむぅ」


 朝食が終わった後、レラの部屋を通りかかると、中から話し声が聞こえてきた。


「わたしも練習した方が良いんでしょうか~」

「それはあなた次第かな」

「なるほど~」


 いや。フィリルは何となく料理とかできなさそうな気がする。だからあまり期待はしていない。そもそも、奴隷にした事自体、私が強く望んだというわけでもないしな。


「うん。わたし、頑張ります!」

「じゃあ一緒に料理の練習だね。今日は仕事で空けるから無理だけど」

「ありがとです、レラ!」

「ん」


 ……ふふっ。


 私の奴隷コンビは、案外仲が良いようだ。

なんとなく、胸が暖かくなった。



 さて、いよいよ儀式の日……か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る