ケルノジャクウ

@KILLNOJACK

誰も知らないが、

時間は止まったのだ。別に時計が止まったわけではない、全てが動きを止めたわけではない。ただ全てに無関係に時間は止まったのだ。宇宙にもこの星にもあらゆる生物達にも未来にも過去にも影響はない。そしてその瞬間に生まれたものはたくさんあるが全てのものの息の根は止まらなかった。


 しかし、ある一つの映画に影響があった。映画自身は反響をうけたからこそ影響を与えのだと思った。影響と反響はそれぞれ映画を観たものにはあったのだが、すべての者に影響と反響があったわけではない。そしてこれは影響と反響を受けたある男の一つの現象である。


 映画の撮影がはじまった。レンズからはいった光と影はフィルムへと焼きつく。フィルムはそれら全てを受け止め抱きしめたまま現像され切り刻まれ貼り付けられ一つになりスクリーンに映しだされた。スクリーンから溢れ出た光と影はその男を映画で照らす。光と影は目玉に貼りつく。そして充分に貼りついてから目玉を映写機にかえる。光と影は奥へと突き進み頭蓋骨を照らす。頭蓋骨はスクリーンとなり脳味噌はそれを観る。脳味噌は光と影の全てを受け止めようと抱きしめようとした。しかし、とてつもない衝撃とただならぬ喜びでただ膨らむことしかできなかった。膨らんで行く途中、脳味噌は確かにその光と影から声を聞いた。

「私の父は世界征服をしました。けれども金も名誉もありませんでした。まして権力などもありませんでした。そしてそれとは全く関係ないのですが、たった今時間は止まったのです。そして時間は、この止まった時間だけを置きざりにして先に進みました。止まった時間はこの光と影になりました。私の友達を紹介します。光と影です。なにぶんちょっと前まで時間でした彼ですから至らぬ事も多いかと思いますがどうぞよろしくお願いします」

 そして光と影は男の脳味噌からあふれだしメリーゴーランドになってグルグルまわった。吐き気とは無縁の回転は子供達も大人達も乗せた。

プラスチックだ!プラスチックが!プラスチックがまわっている!と誰かが叫んだ。誰かがいっぱい写真を撮った。誰かが写真を現像すればプラスチックの塊が出来上がってコンクリートの上をコロコロ転がった。そしてプラスチックの塊は日が登り溶けた。

「これは電気じゃない太陽だ!」

 拍手が地響きのごとくおこって鼓動となった。拍手のやり方がわからない奴は近くにいたやつと握手した。

 男はただ一人スクリーンに吸い込まれいった。男は、車のバックシートに乗っていた。父親が運転していて横には息子が乗っている。体格は違うが後ろから見ても親子だとわかるくらいに雰囲気が似ている。

車は走る。どこに向かっているのか尋ねようと身を乗り出した瞬間に、車は自動販売機に激突した。男はフロントガラスを突き破り自動販売機に吸い込まれていった。自動販売機の光の中で赤ん坊の泣き声が聞こえた。そして、またさっきの声が聞こえてきた。

「私の父は世界征服をしました。けれども金も名誉もありませんでした。まして権力などもありませんでした。でも私は子供ながらにいや子供だからこそ父が私たち家族を守る絶対的な力をもっていたと断言できます。そして、それとは少しばかり関係はないのですが、さきほどの赤ん坊の泣き声はカセットテープで録音したものです。ある朝、公園で泣いていた赤ん坊の声を録音しました。赤ん坊で思い出したのですが、コトウケイは蛍光灯から現れてプラスチックに育てられました。コトウケイはプラスチックから現れて蛍光灯に育てられました。どちらでもよいのです。それではまた」

 男はスクリーンから浮かび上がり席についた。 エンドロールの最後にフィルムの尻尾が生えていた。

 その映画の名前は、

 「WATCH A MOVIE CALLED CAR CRASH」

その映画はどこにでも映る。

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