14話「とある物語のプロローグ」
異世界の大陸にある人里離れた僻地の更に僻地、そのまた僻地。
そこには転生者達が隠れるように住まう居住地がある。
僻地とは言っても、転生者達が自分達のために作った場所だ。
この異世界のどこよりも技術は進んでいる。
今、俺が訪れている3LDKの部屋にも、テレビに冷蔵庫に洗濯機、システムキッチンにユニットバスにウォシュレットトイレ。
他にも思いつく物は何でも揃っている。
ここが異世界だということを忘れてしまいそうなほどに。
しかし、これら家電などの動力は全て魔力。
この世界では【魔道具】と呼ばれる物だ。
部屋の主である少女は牛乳パックをラッパ飲みしている。
『ぷはーっ!徹夜明けの牛乳は染みるわー!』
空になったパックを放り投げ、ゴミ箱へシュートを決めた。
そのまま俺の向かいのソファへ座る。
髪はボサボサで、Tシャツにパンツだけの姿。
到底客を迎えられるような恰好ではない。
まぁ、ここにはほぼ転生者しかいないのだ。
この恰好で外に出ようが、今さら誰も気にしないだろう。
彼女は俺に向き合って口を開いた。
『で、どうだった?』
俺は手に持っていた原稿を彼女に返し、声を絞り出す。
『・・・・・・何で俺を題材にしたし。』
その原稿に描かれた漫画は紛れもなく俺を題材にした物だった。
彼女の名はマンガセンセー。
この異世界で一番長く漫画を描いている転生者であるため、そう呼ばれている。
本名は知らない。
『ん~、触手とか描きたかったから。』
『だからって何で俺を漫画にするんだよ!しかも冒頭の話!これこの間一緒に仕事した時のじゃねーか!』
『おっ、良く分かってるじゃん。中々良い取材になったよー。』
『何で俺一人で行った事になってんだ!何かワルっぽいし!』
『いやぁ、でもあんな感じだったじゃん。格好良かったよ、特に山賊達が一斉にボキボキッてなるところ!』
グッ!とマンガセンセーが親指を立てる。
『うるせー!マンガセンセーが何もしなかったからだろーが!』
『だから、僕は居ないものとして扱ってって言ったじゃん。』
『だったら何でワイン一人で飲みやがった!不味そうだった。じゃねー!あれ良いヤツだったじゃねぇか!』
『中身は不味かったヨ・・・?』
『嘘つけぇ!』
ハァハァと肩で息を整える。
『・・・まぁ、一万歩譲って冒頭はフィクションで良いとしよう。後は全部ノンフィクションじゃねーか!どこで調べやがった!』
『サーバーに”
『消す!今すぐ消す!!』
『バックアップしてるから大丈夫!』
グッ!とマンガセンセーが親指を立てる。
『やめろおおお!そっちも消せえええ!!』
『まぁまぁ、僕の”
『自分で普通に入れるわ!!』
そんなやり取りをしていると俺の身体から蛍のような光が一つ、二つと湧き出てきた。
マンガセンセーが楽しそうに瞳を輝かせる。
『おっ、また”
『くそぉ!!何でこんな時に!?』
四つ、八つ、十六、三十二・・・光は爆発的に増えていく。
『まぁ、戻ったらまた話聞かせてよ。その時には続きも出来てると思うからさ。』
『そんな物はボツだ!ボツ!』
光の粒子は既に数え切れなくなり、俺を取り囲んでいる。
『それじゃあ、マンガセンセーの次回作、DTガール! ~がっこうにいこう!~ よろしくね!』
グッ!とマンガセンセーが親指を立てる。
『やめろおぉぉぉ―――――――!!』
光は最後の言葉ごと俺を飲み込み、また何処かへと連れ去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます