3話「早すぎる『さようなら』」

 さようなら、ハーレム。

 さようなら、ハーレム。

 さようなら・・・


 結論から言おう。


 俺は転生した。

 女の子だった。


 Oh my God!おお神よ!


 言葉が話せればそう叫んでいただろう。


 木造家屋の二階に置かれたベビーベッド。

 そこから天を仰ぐ。


 転生した瞬間、夢のハーレムは無残にも打ち砕かれたのだ。




 ―――だが、転生したのは事実。


 異世界で大活躍!という夢はまだ潰えていない。

 俺こそ真の異世界無双よ!


 折角女の子になったのだ。

 魔法を極め、魔法少女になろうと思う。

 魔法の力で変身して悪い奴らをやっつける感じのに。


 頑張れば男の娘ぐらいには変身出来るようになるかも知れないしな。


 幸い、魔法の事は少し転生前に教えてもらっている。

 まずは魔力を”感じて”、”視る”んだったな。

 よし・・・



 ・・・で、どうやればいいんだ?

 いきなり詰まった。


 とりあえず体を動かしてみる。

 自分の手を握ったり、開いたり。

 適当に手足を動かしていると、不意に抱き上げられ、優しい女性の声。


「ふふふ、何を暴れてるのかなー、アリス?」


 ブロンドのポニーテール。

 胸はあんまりだが、出産で体系は崩れたりしていないようだ。

 歳は25を越えているくらいだろうか。

 たれ気味の目が温和な感じを漂わせている。

 この人が新しい母親だ。名前はサレニア。


 抱き上げられた状態で部屋を見回してみる。

 決して大きくはない部屋だ。

 小さなタンスに、玩具や絵本の入った棚。

 自分のベビーベッドの隣にサレニアのベッド。


 部屋の入口から中を窺う小さな女の子を見つけた。

 サレニアと同じ様に髪をポニーテールにしており、それがぴょこぴょこと揺れる。

 随分と可愛らしい。


 それに気付いたサレニアが声を掛け、にっこりと微笑んで小さく手招きをする。


「おいで、フィー。」


 フィーと呼ばれた女の子はタタタッと駆け寄ってきて俺の顔を覗き込んだ。

 サレニアが言葉を続ける。


「この子はアリューシャ。あなたの妹よ。アリスって呼んであげなさい。」


 フィーはジッとこちらを見つめ、呟いた。


「・・・アリス?」


 こちらも短くよろしく、と声を出すが、それは意味を成さない音にしかならない。

 だが、フィーはパッと笑顔を咲かせサレニアの方へ向き直る。


「お母さん!よろしく、だって!」

「ええ、良かったわね、フィー。」


 サレニアは微笑みながらフィーの頭を撫でた。

 その時、玄関のドアが開く音が耳に届く。

 男の声と共にドタドタと階段を上る足音が聞こえた。


「ただいま!サリー!」


 サレニアは笑顔で迎える。


「おかえりなさい、エルク。無事なようで安心したわ。」

「ああ、そっちも無事に産まれたようだな。すまなかった、間に合わなかった。」


 エルクは、サレニアと同じく25歳くらいだろう。

 さらさらの栗色の髪だが、急いできたのか随分乱れている。

 見た感じはスラっとしたイケメンである。

 厚手の服に傷だらけの胸当て、腰には長剣とザ・冒険者のようなスタイルだ。


「いいえ、話は聞いているわ。大変だったのでしょう?無事で良かったわ。」

「魔物の数が思ったよりも多くてな、何とかなって良かったよ。それで・・・その子が?」


 エルクはこちらを向いて、俺の姿を確認する。


「ええ、名前はアリューシャよ。」


 サレニアの言葉を聞きながらエルクは俺を抱えあげた。

 近くで見ると思っていたよりもガッシリとしている。


「アリューシャ・・・アリス、か。良い名だ。」


 フィーと同じ様に短く挨拶する。


「ハハハッ、なんだもう喋れるのか!」


 エルクに高く持ち上げられた。

 抗議の声を上げるが、喜んでいると思われているようだ。

 下ろしてくれる気配は無い。


「おとーさん、こわいっていってるよ?」


 フィーがエルクのズボンの裾を掴んで止めてくれる。


「お?そうかそうか、すまないな。」


 エルクはそっとベッドに俺を戻し、代わりにフィーを抱き上げた。


「ただいま、フィー。」

「おかえり、おとーさん。」


 俺は仲睦まじい家庭に生まれたようだった。

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