278話「やっちゃいました」

「魔撃を使うって・・・・・・いきなり出来るんかいな? ワイらでも一ヶ月は特訓せえへんと出来へんねんで?」

「やってみないと分かりませんけど、今はそれしか手が無さそうですから。」


 というか、闇の民は一ヶ月特訓しただけであんな技が使えるようになるのか・・・・・・。

 魔力が濃い場所で長い間暮らしてきたからこそ身についた技術なのだろうか。


「ただ少し時間が掛かりそうなので、その間六本脚の注意を引き付けていて下さい。」

「・・・・・・分かった! その心意気買うたで! ココリラ様たちとなら、それくらいの時間稼ぐくらい何てことありまへんわ!」


 そう言って再び戦いの中に身を投じて行く。


「ボボンゴ! アンタ怪我はどないしたん?」

「治して貰いました! 今はピンピンしてまっせ! それで、アリスはんが時間を稼いで欲しいそうですわ!」


「何か手があるんやな? 今の状況やったらそれに頼るしか無さそうやね・・・・・・ノノカナ!」

「聞こえとるって姉ちゃん! とりあえずアリスちゃんを守ったらええんやろ?」


「って、言ってる傍から――おらぁっ!!」


 俺を目掛けて飛び掛かろうとした隙に、ココリラの蹴りを横っ腹に喰らって吹き飛ぶ六本脚。

 分厚い毛皮に護られているとはいえ、流石に衝撃を全て無くせるわけではないようで、息を乱しながら度々邪魔をしてくるココリラたちに視線を移す。


「ようやくこっち見たな。ウチの目が黒いうちはアリスちゃんを食わせへんで。」


 六本脚の興味が一旦離れたことで、集中できるチャンスが生まれた。

 とにかく今は彼女たちを信じて、俺に出来ることをしよう。


 目を閉じ、手のひらに意識を集中させ、魔力を集めていく。

 ここからが問題だ。思い出せ、ノノカナの纏っていた魔力を。


 ・・・・・・あれは、ただ集めただけではない、もっと高密度な魔力の塊だった。

 つまり、今集めている魔力を圧縮させて凝縮していけば・・・・・・。


 手のひらの中心へ向かうように、隙間を埋めるように魔力を移動させ、魔力塊の密度を高めていく。

 ある程度圧縮したところで魔力が動かせなくなってしまった。限界まで圧縮できたようだ。


「こんなところか? でもちょっと違うような気も・・・・・・。」


 だが考えていても仕方がない。

 試しに近くにあった木に出来上がった魔力の塊を押し込んでみた。

 ・・・・・・が、何も起きない。

 それもそのはず、言ってしまえば「ただ魔力を注いだだけ」と何ら変わりないのだから。


「・・・・・・そもそも、どうやって爆発させるんだ?」


 ボボンゴは「魔力を打ち込んで爆発させる」と言っていたが・・・・・・。

 火の属性を持たせる?

 ・・・・・・いや、俺の腕には焼け焦げたような跡は一つも無かった。

 それどころか、何かの属性が作用したような痕跡は何一つ無かったはずだ。

 ただの純粋な”力”が働いた結果だけが残った。そんな感じだった。


「うーん・・・・・・”風”なのかな?」


 魔力塊を打ち込んだ瞬間、一気に”風”の属性に変換させる。

 すると物体内で生成された風は行き場が無く膨張し、爆散する。

 おそらくこれで一番近い結果を得られるだろう。


「ともかく、もう一度試してみよう。」


 手のひらに新しく魔力塊を生成し、先程と同じく圧縮していく。

 そして木に押し込んで・・・・・・一気に風に変換させた。


 ボンッ!!


 狙い通り、生み出された風は行き場を求めて膨張し、爆散した。

 だが――


「痛ってぇぇぇ!!」


 爆散した風は木に触れていた俺の腕を巻き込み、ズタズタに引き裂いていた。

 そりゃゼロ距離で風の魔法が爆発なんてしたら自分も巻き込まれるわな・・・・・・。

 慌てて血が噴き出る腕に治癒魔法をかける。

 やはりノノカナに受けた技は風の属性ではなかったようだが・・・・・・それでも似たような結果は得られた。


 爆発した場所に視線を戻すと、見事な大穴が出来上がっていた。

 似たような、というよりはそれ以上の成果かもしれない。

 あの六本脚を仕留めるには十分以上の威力だろう。

 まぁ、その分自身の被害も大きいが・・・・・・悠長なことを言っていられないし、それには目を瞑ろう。


 治癒を終えた腕を動かし、具合を確かめる。

 問題は無さそうだ。

 額に滲んでいた脂汗を拭い、気合を入れ直す。


「皆さん、お待たせしました!」

「やっと切り札のお出ましか、ウチらは何したらええんや?」


「少しだけ六本脚の動きを止めて下さい。」

「中々無茶な注文やね。まぁ他ならぬアリスちゃんの頼みやからね。アンタらも聞いとったな? 気張っていくで!」


 ココリラの言葉に応えた二人が、守勢から攻勢に切り替え、六本脚の動きを封じるように立ち回っていく。

 しかし六本脚も手強く、中々動きを封じるまでには至らない。

 戦いに慣れてきたのか、明らかに六本脚の動きが良くなっている。

 このままズルズルと時間を掛けると更に分が悪くなりそうだ。


「今や!!」


 ココリラの号令と同時に、三人が同時に異なる脚へ攻撃を仕掛けた。

 地面に杭を打ち込むように打ち下ろされた拳の衝撃は、六本脚の足を伝わり、そのまま地面を砕いて陥没させた。

 攻撃は効かないながらも、同時に足元が崩されれば流石の六本脚もバランスを保てず、一瞬だけ態勢を崩した。


「アリスちゃん!」

「はい!」


 動きの止まった六本脚に、圧縮させた魔力を打ち込む。

 そして風の属性に一気に変換――出来ない!?


「・・・・・・っ!? なんで!?」


 打ち込んだ魔力が六本脚の代謝に呑まれ、一瞬の内に消失してしまったのだ。

 態勢を立て直した六本脚に振り払われるように、その場を飛び退く。

 六本脚の追撃に備えるも、六本脚はその場から動いていない。


「あれ・・・・・・?」


 ミシミシと六本脚から何かが軋むような音が聴こえてくる。

 ふらふらとよろめいたかと思うと、どこかが痛むのか、狂ったように吠えたり唸り声を上げながら周囲の木々に身体を擦りつけるように体当たりしだした。

 異様な光景に息を呑む。

 あれ・・・・・・なんかちょっとずつ大きくなってない?


 ようやく落ち着いたのか、六本脚がゆっくりと立ち上がり、大きく身体を震わせて土や葉を払い落した。

 そして、一回りほど大きくなった六本脚が俺たちを見下ろす。


「えーと・・・・・・私、何かやっちゃいました?」

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