270話「こうそく!」
「どうだ、腕は動くか?」
レンシアに回復魔法をかけてもらった腕を動かし、具合を確かめる。
ボロボロで動かなかった腕は完全に治療され、完璧に元通りだ。
回復魔法が無ければどうなっていたのかと思うと、肝が冷えてしまう。
「うん・・・・・・もう大丈夫だ、ありがとう。」
「それで、何があったんだ?」
尋ねてくるレンシアに、今さっき起こったことをそのまま伝えた。
「例の”黒い石”に魔力を流し込めばヒトが生まれる・・・・・・というよりは、ヒトの姿に戻った、と言った方が正しそうだな。」
「おそらくは、ね。」
「で、その謎の女の子はアリスを蹴り飛ばした後、また石に戻った・・・・・・と。」
「その後はレンシアが飛び込んできて、現在に至るって感じ。」
「ふむ・・・・・・どうして女の子は石に戻ったんだ? 見ていて何か分からなかったか?」
そう問われて、先程の一部始終を脳裏に思い浮かべる。
じっくりと思い返してみると、一つだけ不可解な点があった。
「魔力・・・・・・かな。」
「どういうことだ?」
彼女が戦闘態勢を取った際、彼女の周囲にあった魔力の殆どが彼女に吸収されていたのだ。
普通の人間に比べるとその量は異常で、常人なら命を落としかねないほどだ。
そしてその魔力を脚に集約させ、あの一撃を放ったのである。
だが、その後は彼女に内在していた魔力は無くなり、苦しみだした。
「てことは・・・・・・魔力切れを起こすと石になる? 一種の仮死状態みたいなものか。」
普通の人間であれば魔力切れになった時点で死んでしまう確率は高い。
魔力の消費が大きい彼女ならばさらに致死率は高まるだろう。それを抑えるための石化ということか。
そしてその状態が長く続けば、何時ぞやの遺跡で見つけた”黒い石”のように風化して・・・・・・亡くなってしまうのだろう。
「もう一つ、あの蹴りの練度は相当なものだった。つまり、あんな技をポンポン打てるような環境に居たって事だろうね。」
「”塔”より魔力の濃い環境か・・・・・・。そんな場所は一つしか思い浮かばないな。」
魔力濃度が高く、人が踏み入る事の出来ない領域。
「未開領域か・・・・・・。」
”塔”のある場所も未開領域にあたるが、ほんの端っこに過ぎない。
転生者であれば奥に踏み入ることも可能だろうが魔力が濃い分、凶悪な魔物が棲んでおり、開拓を阻んでいるのだ。
そもそも普通の人が行けない領域なのだから、高いコストを掛けて開拓する必要も無い。
転生者や魔女が爆発的に増えることがあるのなら、その必要性も出てくるだろうが。
彼女はそんな領域の奥からやって来たと考えれば、これまでの話の辻褄も合うだろう。
何らかの理由で未開領域の深層から表層へと向かい、その道半ばで魔物と戦い、先程のように魔力が尽き”黒い石”になった。
そしてその石を魔物が拾い・・・・・・俺と出会ったわけだ。
「それにしても、青白い肌の魔族みたいな種族・・・・・・ねぇ。」
「何か知ってるか?」
「いや、聞いたこともないな。話を聞いた限りでは獣人とも違いそうだし・・・・・・。とにかく当人から話を聞けないとどうにもならないな。」
「また暴れ出したらどうするんだ? いくつ命があっても足りないぞ、あれは。」
咄嗟に感知強化を発動出来ていなければ、さっきの蹴りを防げなかった。でなければ今頃俺の頭は吹き飛んでいただろう。
・・・・・・これからも毎日の訓練は欠かさないようにしよう。
「そうだな・・・・・・拷問室を使うか。」
「拷問室!?」
物騒な響きに思わず声を上げてしまう。
「そこなら拘束具もあるしな。人に戻して、寝ている間に拘束してしまおう。それから話を聞けばいいさ。」
「そんなことして話が聞けるのか・・・・・・?」
「そもそも暴れられたら話も出来ないからな。」それじゃあ早速拷問室へ行こう。
「えっと・・・・・・今から?」
「当然。まだ昼前だぞ。」
「えぇー・・・・・・すでにお疲れなんだけど・・・・・・。」
「魔力が切れた訳でもないんだし、問題無いだろ。それに、石になった女の子を放っておくつもりか?」
「ぅ・・・・・・分かったよ・・・・・・。」
渋々レンシアに連れられ、”塔”のさらに下層にある拷問室へと移動する。
辿り着いた部屋は想像していたおどろおどろしいものではなく、白く綺麗で無機質な部屋だった。
部屋の中央には拘束具らしき装置が鎮座している。
そして、魔女が一人。
イアーデと名乗ったその魔女は拷問を得意としているらしい。
長い黒髪から覗く紅い瞳を爛々と輝かせ、ケラケラと笑いながらレンシアに話しかけた。
「よォ、久しぶりの仕事だって聞いて飛んできたぜ。」
「今回は拘束だけだよ。まぁ、相手の出方によっては頼むことになるかもな。」
「そりゃあそのお相手さんには頑張ってもらわないとな。で、そっちの新人ちゃんを拘束すればいいのか? いやはや、お仲間を拷問にかけることになるとは心が痛むねェ。」
むしろ楽しそうだけど!?
「そっちじゃないよ。拘束してもらうのは・・・・・・まぁ、説明するより見てもらった方が早いか。それじゃあ頼むよ、アリス。」
「へいへい、分かったよ。」
おざなりに返事をしてから魔力を溜め始めた。
加減は分かっているので心理的な余裕がある分、負担は少ない。
先程石が人に戻った時と同程度の魔力を”黒い石”に注ぎ込んだ。
――ドクン。
鼓動が伝わってくる。成功したみたいだ。
淡い光を放ち始めた”黒い石”をそっと床に置き、数歩後退った。
”黒い石”が形を変え始め、段々と人の形を成形していく。
しばらくすると、俺に蹴りかかって来た女の子が一糸纏わぬ姿を露わにした。
「こうして目の前にしても信じ難いな・・・・・・。それに、やっぱり知らない種族だ。」
「おおッ! この子を縛り上げれば良いんだな! ちょっと載せるの手伝ってくれよ!」
イアーデを手伝って少女を拘束台の上に載せると、そこからは手際良く少女の四肢を縛り、拘束していった。
何か・・・・・・凄く悪いことをしているような気がする。
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